神経芽腫:

 神経芽細胞腫あるいは神経芽腫ともいうこの腫瘍は 一般の方にはあまりなじみのない名前ですが、子供の世界ではとても重要な病気の1つです。

   神経芽細胞腫(神経芽腫)はこどものがん(癌)の代表的なものの1つで、神経を作る細胞の若いものが悪性化してかたまりになる悪性固形腫瘍の1つです。

   神経芽細胞腫はこどもの世界では血液のがんである白血病 とならんで患者さんが多い疾病です。ことに悪性固形腫瘍の中では2番目に多いものです。頻度の高いものとしては神経芽細胞腫のほかに脳腫瘍がありますが、脳腫瘍にはいろいろの種類がありますから、単独の病気としては神経芽細胞腫が最も子供で多くみられる悪性固形腫瘍ということになります。ただし、スクリーニングが修了してからは大幅に減少しました。

 

神経芽腫の発生

     なぜ、神経芽腫ができてくるのかは、いまだに大きな謎です。

ある家系に何人も神経芽腫の患者さんが集積したという報告は大変まれです。

つまり、遺伝によるものではないというのが結論です。

また、お母さんに何かがあって起こるというような腫瘍でもありません。

 原理的には、神経芽細胞という神経のもとになる細胞が赤ちゃんの体の中にたくさんあります。この神経芽細胞は通常生後3ヶ月くらいまでは増殖し続けるようです。しかし、何らかの原因でこの神経芽細胞の増殖(増え続けること)が止まらない状態になってくると、腫瘍ができてきます。

  神経芽腫は神経外胚葉系というところから発生します。さらに詳しく見ると神経の内でも自律神経系の中の交感神経の母細胞(もとになる細胞)から発生してきます。自律神経とはヒトの意志にはよらず心臓を動かしたり、呼吸をしていくなどをつかさどっている神経です。この内、交感神経は興奮するときによく働きます。

 

神経芽腫について

     以前、神経芽腫は2から4歳くらいの子供に発生して、診断される頃には骨や骨髄に転移していて、非常にたちの悪い腫瘍だと考えられていました。

  早くに発見されると予後(あとあとの経過)はよいのですが、発見が遅いと致命的となる場合もありました。そこで、できれば1歳以下で診断・治療されるとその予後は良いのではないかと考えられるようになりました。この考えから神経芽腫スクリーニングがスタートしたのです。

  前に述べたように神経芽腫は交感神経系から発生することから、神経伝達物質(神経の信号を伝える化学物質)を出すという性質を持っています。この物質がカテコールアミンと呼ばれるのですが、これが体の中で壊されて代謝産物として尿中にバニールマンデル酸(VMAと略)あるいはホモバニリン酸(HVAと略)として排泄されます。 これらの物質は正常のヒトでも必ずおしっこの中にある程度の量が排出されています。しかしもしも、神経芽腫が体の中にあればこれらのVMAあるいはHVAがたくさん尿中に出てくるわけです。

スクリーニングについて

   尿中のVMAHVAを生後1歳以内の早い時期にスクリーニング検査をして神経芽腫を発見しようというのが、神経芽腫スクリーニングのしくみです。しかし、たちのよい神経芽腫の患者さんが多く発見されるという意見が海外に多くて廃止されました。
 しかし、何割かの患者さんでは明らかに発見されてよかった方もおられますから、複雑です。

小児科に受診されると

  まず 1)おはなしを聞いてから

       2)診察をします

       3)おなかと胸のレントゲン写真を撮ります。

                このときの被爆は特に心配いりません。

      4)おなかのエコー(超音波)検査 腫瘍が明確にあればCTあるいはMRI     (MRIは年齢が低いと画面の解像度が悪い場合があります。)
      5)血液検査でエヌエスイー(NSE),  フェリチン、エルディーエイチ(LDH),  一般血液および肝臓の機能などを検査します。

       6)赤ちゃんでの採血には多少時間は掛かりますが、心配いりません。

神経芽腫のできやすい体の中の場所

      約5065%はお腹の中の腎臓の上にある副腎髄質と呼ばれるところから発生してきます。 その他は脊椎(背骨)の左右横にある交感神経節のどこから出てきてもよいのですが、お腹の中の交感神経節、あるいは縦隔(胸の真ん中にある心臓などのあるところ)から出てくる場合があります。 このため、診察後にまず胸やお腹のレントゲン写真を撮るのです。お腹のエコー検査は予約になります。必要に応じてCT検査やMRI検査という詳しい画像検査を行う場合があります。

神経芽腫の症状
1.腹部腫瘤 おなかの張り、
2.肝脾腫:肝臓がおおきくなる(肝臓はおなかの上右側の肋骨の下にあります。年齢の大きいお子さんや成人では肋骨の下に隠れてしまいますが、2歳以下くらいではおなかの容積が少ない割に肝臓が大きいので肋骨の下で2cmくらいソフトな肝臓を触る場合もあります。硬くてもっと大きい場合は異常です。

3.貧血、発熱、出血斑:骨髄に神経芽腫が転移すると赤血球が減少して貧血
    ・・・顔色が悪くなり、青白い、元気が無い、食欲不振、しんどがる など
    正常の白血球が減少して・・・感染が起こりやすい・・・・熱が出る。
    血小板が少なくなって・・・出血斑 あおあざ、赤あざが出やすくなる。
4.腫瘍が出来る場所が腫れる・・・・腫瘤、疼痛(痛み)
    眼球突出  眼球が前に出てきて、目の周りはクマがついたようになります。
    ホルネル症候群:頸部に腫瘍が存在し、頸部の交感神経を圧迫する場合に多い。瞳孔の縮小、眼瞼の下垂(狭小化)、眼球の後退がみられる。
オプソクローヌスといって小脳失調、多方向性眼振、などがみられるものもあります。これは小脳に転移があるのではなくて、神経芽腫に対する抗体が産生されて、この抗体が小脳の神経細胞に作用して神経症状がでてきます。腫瘍を切除しても、抗体を産生するクローン(リンパ球の母地)が残っている限りは症状が続きます。免疫を抑制するためのステロイドパルス療法などが必要となることがあります。
    皮下腫瘤:先天性神経芽腫などめずらしい形です。
    その他、まれですが顔、あご、リンパ節、・・・などいろいろな部位での発症があります。

5.下半身の麻痺・・歩行障害、便秘、背中の痛み
    ダンベル腫瘍といわれ脊椎(背骨)の近くに腫瘍が出来て、椎間孔から入り込み脊髄を圧迫して弛緩性麻痺を起こします。頻度は多くはありませんが、時に見られます。 緊急の椎弓切除術などが必要となることがあります。排便や排尿障害、歩行障害、ハイハイをしている子供では動かなくなります。

6.難治性下痢  まれ、血尿  まれ、 高血圧  まれ、

7.年長児では転移のため、骨痛、歩行障害、リンパ節腫大、出血傾向、貧血、汎血球減少  その他

病期分類
英語でステージ(病期)と呼ばれますが、疾患の進行度を表します。
神経芽腫では
ステージ1:局所に存在する腫瘍(局在性腫瘍)で外科手術により完全切除あるいは顕微鏡的な残存(+)ですが、リンパ節には転移がありません。
ステージ2a:局在性腫瘍で不完全切除 リンパ節は転移なし
ステージ2b;局在性腫瘍で完全切除または不完全切除 身体の背骨で左右に分けた腫瘍が存在する同じ側のリンパ節に転移があるもの。反対側は転移なし
ステージ3:切除不能の正中線を越える腫瘍でリンパ節病変の有無は±
 または、片側の局在性腫瘍で反対側のリンパ節に転移あり
 または、正中線上の腫瘍で両側に伸展しているか、両側リンパ節に浸潤
ステージ4:どのような原発腫瘍であっても遠隔(遠く離れた)のリンパ節、骨、骨髄、肝臓、皮膚、その他の臓器に浸潤しているもの ただし、ステージ4Sを除く

ステージ4S:1歳未満で腫瘍はステージ1か2aまたは2bでありながら皮膚、肝臓または骨髄に転移のあるもの  全体でみると予後良好といわれますが、生後2か月未満で肝臓に多発性転移がある患者さんは要注意です。急速に腫瘍が増大して、横隔膜を押し上げて、肺が圧迫され呼吸困難になることがあります。米国からの報告でも乳児の死亡例の大部分はこの年代の4Sの患者さんです。治療は多岐に別れ、呼吸器が必要となることもしばしばです。 腹部の一時的開創や低線量の放射線照射、化学療法などいろいろです。ともかく、しばらくの大変な時期を乗り切ると自然に治ってゆきます。

多元性発生のものは局所でもっとも進行している部位によりで判断します。
10%を超えるようなステージ4Sの骨髄浸潤はステージ4とします。

上記の分類は、また、 変更される予定です。
要点は4に近いほど病気が進行しています。


診断:腫瘍の全部、無理ならば一部を切除し組織と遺伝子診断
    腫瘍の遺伝子診断は予後を知る意味からもとても重要です。
    日本では一部で遺伝子診断の同意書が必要な場合もあります。
    米国では腫瘍そのもののDNA診断には同意はいりませんが、日本では体細胞(身体の細胞)と腫瘍の細胞がごっちゃに考えられています。ともかく、一種のがん遺伝子であるMYCN(ミックエヌあるいはエヌミック)が増幅している(DNAレベル)か、あるいは腫瘍細胞の中に信号が多数出ている(フイッシュ法)か によって予後が悪くなるので可能な限り調べてもらいましょう。
trk A(トラックエー)遺伝子は神経成長因子(NGF)の受容体(レセプター)遺伝子でこれを神経芽腫がもっていれば神経細胞へと分化していく可能性があることになり、予後はよいことになります。

通常、神経芽腫の患者さんからのサンプルではDNAのレベルでMYCNが10倍以上増幅している場合は、trkAは発現しない。MYCNが増幅していなければ、trkAが出ることが多い逆関係になっています。両方とも出ていないものが少数あり 予後はよくありません。

治療:
外科手術
放射線照射
化学療法
を組み合わせた 集学的治療(上記のようないろいろな治療の組み合わせをこう呼びます)が行われています。
 年齢が低い人には照射は副作用が強く出るのであまりすすめられません。
しかし、腫瘍が手術で摘出できない場合などは照射も1つの方法でしょう。

化学療法が現在の主な治療法です。
 これはシスプラチナ、シクロフォスファミド、ピラルビシンなどを組み合わせて使用します。

ステージと予後の関係
ステージ1     90数%
ステージ2     70−80%
ステージ3     40−70%
ステージ4     30−60%   含移植
ステージ4S    80%          米国COGなどのデータから改変

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