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TOPICS~病気・治療法の解説~

先天性心疾患 内科学講座(循環器内科) 白井 丈晶

先天性心疾患とは?

先天性疾患と聞 くと小児の疾患とい う印象を持つ方が多いのではないかと 思います。「先天性」ゆえに疾患は出 生時に始まり、早ければ乳児、遅くと も学童期には症状がでたり、検査異常 を示したりするような印象があります。 実際、先天性心疾患の多くは小児の検 診や小児期の症状で発症し、最近では 母親のおなかの中にいる胎児期に診断 される場合もあります。

 

 

先天性の疾患は誰もがかかる疾患で はなく、あまり頻度は高くありません が、先天性の心疾患は比較的頻度が高 く、100人に一人の割合で生まれると 言われます。反対に、生活を送る中で 何らかのきっかけで症状や異常が現れ る疾患を後天性と言いますが、生活習 慣病(糖尿病、狭心症、高血圧)のよ うな、どんな方も加齢によってかかる 可能性のある一般的な疾患が代表です。  先天性心疾患は主に心臓の形態異常 によるもので、代表格として心房中隔 欠損や心室中隔欠損、ファロー四徴症 などがあります。

 

心臓にはそれぞれ2つの心房と心室、 計4つの部屋がありますが、それぞれ の部屋の仕切りに交通孔が開いている 場合や、弁の閉鎖や狭窄、心室が一つ しかない場合など、またそれぞれが複 雑に組み合わさっている場合など様々 な病型があります。外来手術では、テー ラーメイドの治療が患者さん一人一人 になされることとなります。

 

重度、中等度、軽度のカテゴリーに 分けられ、主に中等度~重度に当たる 疾患は主に出生直後もしくは乳児期に 症状が現れます。チアノーゼ(口唇や 皮膚の青紫色)、心不全(哺乳不良、 体重増加不良)、呼吸困難などです。重度の先天性心疾患では、構造的な修 復をしなければ長期の生存は難しく、 小児の心臓外科手術が発達する以前の 時代は、その大半の子供たちが成長を 待たずにこの世を去りました。

 

 

進歩した先天性心疾患診療

内科診療および外科診療の進歩により、以前は長期 生存が困難で小児期に命を落としていた患者の多くが 成人期を迎えるようになりました。2007年の時点では 成人期を迎える例は40万人以上に上り、現在では50万 人以上に達していると考えられています【図1】。と くに中等度から重度の成人例の割合が増加しており、 先天性心疾患は総数では成人期の患者数が小児の患者 数を大きく上回るようになっています。

 

 

 

 

 

 

需要が高まる成人期の医療

先天性心疾患患者の90%以上は成人 期を迎えるようになりましたが、すべ ての症例がいわゆる根治治療されたわ けではありません。心臓手術後も手術 で修復しきれなかった異常が残存する 場合(遺残症)、修復したことで別の 異常が起こる場合(続発症)、手術時 もしくは直接は関係しない異常(合併 症)の問題が年齢を追うごとに大きく 需要が高まる成人期の医療 なり、成人になって再び問題を起こす 場合があります。

 
例としてファロー四徴症【図2】と いう疾患があります。もともとは①肺 動脈狭窄、②心室中隔欠損、③右室肥 大、④大動脈騎乗という4つの特徴が あり、①に対して肺動脈拡張術、②欠 損孔閉鎖術を行います。①については 狭窄が残存する肺動脈遺残狭窄や肺動脈弁の異常による閉鎖不全、②につい ては遺残短絡などが遺残症、続発症と して見られます。また、手術後に不整 脈が起こりペースメーカが必要となる などの合併症が現れる場合もあります。 そのような異常は加齢に伴い経年的に 進行することがあり、多くは中高年期 (40代以降)になって顕在化すること が知られています。再び悪化した病巣 に対して再手術を加えることも少なく ありません。

 

 また、前述したような後天性疾患と も無縁ではありません。加齢に伴い生 活習慣病が進行することは先天性心疾 患患者にも起こり、元の疾患に重なる 形で現れるため問題を複雑化すること があります。例えば先天性心疾患の方 が高血圧を発症した場合は心臓や血管 にかかる負担が原疾患をさらに悪化さ せる場合があり、通常より若年期から 注意をしておく必要があります。他に、 歯科治療後などに起こりうる感染性心 内膜炎のリスクが高く、オーラルケア や抗生剤予防投与の必要性を理解して おくことも大切なことです。

 

 

 表1若年期から先天性心疾患を持ちなが ら社会生活をおくる患者さんの中には、 就労や妊娠出産が安全に行えるか否か についての不安もお持ちの方も多く、 身体評価やカウンセリングが必要とな ることがあります。また、最重症の先 天性心疾患では原疾患に対する治療が 困難となり、一般成人と比較してかな り若年の段階で終末期医療や緩和ケア などが必要となる場合があります。成 育過程で制限を余儀なくされることで 社会生活が困難となり、精神心理的問 題を内包している患者さんも少なくあ りません。成人期の先天性心疾患患者 における諸問題を【表1】に示します。

 

このような問題はそれまでの小児先 天性心疾患診療では対応が困難なこと が多く、成人内科診療への移行の必要 性が以前より取り上げられてきました が、既存の内科診療もまた主に高齢者 に対する医療が中心となっており、い わゆる移行期(10代後半から40代)の 患者を対象とした診療はなかなか進ま ないことが課題となってきました。

 

 

 

 

 

 

 

成人先天性心疾患外来の開設


「循環器病対策推進基本計画」が2020年10月に閣議決定され、 保健、医療及び福祉に係るサービスの提供体制の充実の柱として、 小児期から成人期にかけて必要な医療を切れ目なく行える体制の 整備が方針として示されました。前述のように小児期から成人期 における医療のニーズは、身体的管理のみならず、就労・妊娠出 産・終末医療・精神心理的問題など多岐にわたり、これまでの医 療体制とは異なった新しい体制を構築する必要があります。当院 では県の支援を受け、上記基本計画における移行医療の第一歩と して2023年9月よりACHD外来を開設しました。ACHD外来で は患者さんに対して【図3】に示すような内容についてお話しし、 その疾患の理解と生活のサポートを行っています。今後、他分野・ 他職種との連携を強化しながら、体制構築にむけて歩みたいと考 えています。滋賀医科大学の成人先天性心疾患(ACHD)外来が、 皆さまのお役にたてることを願っております。