停滞する梅雨前線が台風の影響で活発となり、あいにくの雨となりました。お足元の悪いなかご出席を賜りまして誠に有難うございます。
本日、第34回滋賀医科大学解剖体納骨慰霊法要を延暦寺あみだ堂で長搏ソ江宏正(とくえこうしょう)大僧正のもとに執り行わせていただきます。
今回は、平成21年度に献体いただき、平成22年度に系統解剖及び局所解剖させていただいて成願(じょうがん)された、32柱の御霊(みたま)を新たにお祭りさせていただきます。自らのご意志で、無条件・無報酬の篤志として、医学部学生の基礎医学教育に必須の人体解剖学の教育と医学研究の発展のために、自身のお体を提供していただいた御霊(みたま)に、大学を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。また、故人のご生前の意志にご同意いただきましたご遺族の方に、心から感謝申し上げます。
人体の内景に疑問を抱き、京都所司代の許可を得て、山脇東洋がわが国で初めて、解剖を1754年2月に行って、5年後に解剖図録「蔵志」として刊行しております。4葉からなる「蔵志」の観臓図は、胴体と四肢のみで今からみると、粗雑なものでありますが、漢方医による五臓六腑説など身体の機能の誤った認識を指摘することとなりました。人体解剖に抵抗が強かったため批判を浴びましたが、人体解剖は蘭学の正確性を説明し、その後に大きな影響を与えました。山脇東洋は自分の菩提寺で祭文(さいもん)を読み、解剖体の供養を行っております。以降、わが国においては、解剖のあと、かならず慰霊祭を行うことになりました。
人体解剖学は、人体の構造と機能を知る基本であり、人体の構造に関する深い知識と鋭い洞察力を養うことは、医学を学び医術を修める上で不可欠なものであります。
本学ではまた、解剖実習は医の倫理を学ぶ教育の一つとも位置付けています。解剖実習を行う学生は、実習を始める前から、献体の受け入れ式に参列します。厳粛な気持ちで焼香し、献体いただいた故人のご遺志とご家族の気持ちをご遺族から直接お聞きし、その尊いお志(こころざし)を胸に刻みます。その後、学生はご遺体を、その重さを感じつつ、自分たちの手で別室にお運びし安置します。実習は、毎回必ず「黙祷」からはじまり「黙祷」で終わります。これは「しゃくなげ会」創立の時に、遺体を「仏さん」として大事にすることは、生きた仏さんである「患者」を大事にすることにつながるという、元滋賀県医師会長の本原貫一郎先生や長摎t上照澄大僧正のお言葉であり、現在まで引き続いているところであります。学生は講義で学んだことを基本に、教科書や図譜を参考にしながら教員の指導を受けて、毎日人体の構造について新たな知識を獲得していきます。一部のご遺体は医師の手により局所解剖され、生涯学習や研究に生かされます。すべての実習が終了した後は、学生・医師の手でそれぞれのご遺体の納棺を執り行います。その後、御遺体は教員・職員により大津聖苑(せいえん)で荼毘(だび)に付され、本日二年越しに納骨慰霊法要を営(いと)ませていただいております。午後から、横川霊山(よこかわりょうぜん)の墓地に、山田天台座主に御揮毫(きごう)頂いた「倶絵会一処(ぐえいっしょ)」の慰霊碑に納骨させていただきます。
滋賀医科大学は開学以来、約3,000名の医師を社会に送り出しています。大学で学んだ卒業生達は、成願された1,351柱の御霊(みたま)の尊い思いを活かし、日夜医療や医学研究の第一線で、病気の原因をさぐり、診断し、治療することに懸命に努力しております。
学生諸君には、医学教育のために自らの身体を捧げて下さった御霊(みたま)のことをいつまでも忘れることなく、信頼される医療や人々の幸せに貢献する医学研究者として、「一隅を照らす人」に育ってくれることを期待しております。
御霊(みたま)にはこれからも引き続き学生の成長をあたたかく見守って下さいますようお願い申し上げます。この自然に囲まれた霊峰比叡の地で安らかにお眠り下さい。
最後になりましたが、ご多忙の中、本日の慰霊法要にご出席いただきましたご遺族の皆様、日頃より解剖体の献体事業を支えていただいております「しゃくなげ会」の皆様、また本日の法要をお勤めいただきました延暦寺長搏ソ江宏正(とくえこうしょう)大僧正はじめ、ご協力いただきました比叡山延暦寺の皆様に厚く御礼申し上げましてご挨拶とさせていただきます。
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