バーチャルリアリティーを用いた
医療インタフェースの基礎研究
第1報 イントロダクション
○永田啓1,2
ワシントン大学ヒューマンインタフェース研究所1、滋賀医科大学医学情報センター2
Basic research of Medical interface using virtual reality
1. Introduction
○satoru nagata1,2
Human Interface Technology lab, Univ. of Washington(nagata@hitl.washington.edu)1
Medical Information Center, Shiga Univ. of Medical Science(nagata@sums.shiga-med.ac.jp)2
Abstract: Many medical information from single human body is increasing because of the progress of medical science. It is important to develop new interface to treat enormous medical information to understand metabolism of human body and human condition at diseases. 3D interface using Virtual Reality is effective for these purposes. This paper explains about introduction of 3D interfaces for medical use.
Keywords: human interface, hospital information system, virtual reality
1。はじめに
医学・医療の進歩により1個体から得られる医療情報は膨大なものとなっている。こうした膨大なデータを効率よくかつ関連を持って理解するためには、表や2次元平面上に展開されるグラフを組み合わせた従来の表現方法では、限界があり不十分である。このため、全く新しいデータの表現方法やインタラクティブにデータ群をあつかえる新しい医療用インタフェースの開発が必要となってくる。
本論文では、膨大な医療情報を効率よく理解し、リアルタイムに実診療に利用するためには、どのようなインタフェースが必要で、かつそれを実現するためにはどのようなハードウェアとソフトウェアが必要であるかに関して、バーチャルリアリティーの観点から行っている研究の現状を報告する。
2。データ一覧性から見た
2次元インタフェース
日常臨床において、医療情報は、カルテを中心に2次元的に配置されたさまざまな形態の情報として表現されている。現在の医療情報は、文字・数字からはじまり、生理系のデータのように時間軸上に表現される数値変化のデータ群や、写真などによる直接的な画像やX線のような間接的な画像など、さまざまな形態をとる情報の集合体である。
これらの情報は、過去長年にわたって、カルテに統合されてきた。すなわち、
○直接カルテに記入する
○実データとしてカルテに添付する
○伝票としてもとデータのありばい管理情報としてカル テに添付する
○もと情報より得られた抽出データや診断としてカルテ 記載者のフィルターを通して文字情報に変換された形 態でカルテに二次的に記載するなど、さまざまな方法でカルテに統合されているわけである。
こうして収集されたデータにもとづき、診断や治療が行われるとともに、その結果としてデータもつぎつぎと新たに発生し、それらがまたカルテに統合されて行く、という過程が繰り返される。
こうしたカルテに統合されたデータ群をもとに、ある診断を下したり、治療方針をきめたりするための実作業をヒューマンインタフェースの観点から見てみたいと思う。
まづ、コンピュータシステムを使用しない状態で、カルテを中心とした病棟における診断実作業の一例を見てみよう。カンファレンスなど、他の医師や医療関係者とディスカッションする場合、机の上にカルテを広げ(バインダー式のカルテであれば、数ページを経過順に机の上に広げ)、さらにデータを表やグラフなどに加工したものや、シャーカステンにならべたX線画像などを見比べながら、実作業を行っていることが多い。これは、データの一覧性を高める工夫であり、複雑な疾患過程をながめたり、治療方針の選択肢の中から最適と思われるものを選択したりするといったデータの一覧性を求める場合、1人で診断を下したり治療方針を決める場合でも有効な方法である。情報はさまざまな形態をとりながら、病棟のカンファレンスルームの机と壁(シャーカステン、ホワイトボード等)により構成された3次元空間に展開されているわけである。
現在のHISを中心としたコンピュータシステムにおいては、これらの医療データの一部がHISのネットワーク上のサーバーにデータベースとして存在したり、ユーザーWS上に収集された形で患者さん単位で存在したりといった形態をとって存在する。現段階では、電子カルテが完全に実現されているわけではないので、診療過程や患者さんからの訴え、画像データ、生理系データ等は依然としてコンピュータ化されない形態をとっている場合が多く、医療情報の統合は、いまだに紙カルテ上で行われている。
実作業面で見ても、HISにたくわえられているデータに関しては、さまざまな形で加工され、瞬時に表やグラフといった形で提示可能であるが、さまざまな形態をとりながら、病棟のカンファレンスルームの机と壁により構成された3次元空間に展開されている情報の一部をになっているにすぎない。
また、HISに存在するデータの一覧性という観点にかぎって見た場合も、ディスプレイの解像度に限界があることもあって、かなり多くのウィンドウを重ねたとしても、大きな作業机の上にところせましとならべられたデータや経過表などに対する一覧性とハンドリングの早さの点で、完全に現在のコンピュータ表現が勝っているという段階には達していない。
3。3次元医療インタフェースの可能性
では、電子カルテ化が進行して、現時点ではまだコンピュータに統合されていないさまざまな形態の医療情報が、コンピュータネットワーク上にすべて統合されたとして、現行の2次元インタフェース上で、こうした一覧性は実現できるのだろうか。
さきほどものべたように、現在の2次元インタフェースは、あくまでデスクトップに多くの情報をウィンドウとして表示する方法をベースにしており、スピードアップや画面のドット数の上昇、マルチディスプレイ表示などを行っても、現在のカンファレンスルームの3次元空間にさまざまな情報を置く方法の一覧性と自由度には到達できないと考えられる。
では、すべての医療情報が統合されたときに、こうした環境を実現するには、どのようなインタフェースが必要だろうか。
私は3次元インタフェースが、こうした一覧性と自由度を実現する可能性を持っていると考える。バーチャルリアリティーを使った3次元空間の中に、さまざまな医療情報を配置することで、現実の世界のカンファレンスルームや手術室といった実際の3次元空間と同等の一覧性を実現することができる。3次元空間に情報をおく方法としては、現実の紙やX線フィルムをシミュレートして、それを3次元空間に配置するという形で行うことも可能であるが、むしろ自由度の点から、情報自体の表現方法や配置に関しても、さまざまな研究を行って、バーチャル空間における新しいインタフェースが実現可能と考える。例えば、実空間ではモニターというハードウェアのために自由度が少ない手術室におけるバイタルサインの表示に関しても、そのデータだけを空中に浮遊させて見やすい場所においたり、必要なときだけ、近くにひっぱってきて利用したりといったインタフェースが実現可能である。こうした3次元インタフェースは、さまざまなアイデアに基づいて、実際の医療現場においてトライアル&エラーを繰り返して、ブラッシュアップしてゆく必要があり、ヒューマンインタフェース研究所においては、こうした作業を研究の一環として行っている。
また、バーチャルリアリティーを使って、3次元空間に医療データを表示する場合、通常のヘッドマウントディスプレイを使うと、外部空間との連続性が遮断され、どうしても疑似空間、すなわちバーチャル空間に情報空間が限定されてしまうが、臨床現場において、こうしたインタフェースを使用する場合は、実空間とこうした3次元インタフェースを同時に見ることが必要である。このため、ハードウェアデバイスとして、実空間をシースルーで見ることができ、かつ明るく解像度が高く、画角も広く、めがね程度の重量で、表示スピードも高速なデバイスが必要である。
このようなハードウェアデバイスは、実際に実用に近いレベルに近づいており、こうした実空間にスーパーインポーズする3次元医療用インタフェースは、十分に実現可能であると考える。