研究


 胎内環境と脳の組織形成との関わり

 胎生期の環境は、奇形などの形態異常だけでなく、生後の生活習慣病や統合失調症・うつ病などの精神疾患の発症率に関与していることが知られています。ヒトでは受精後3〜8週までの時期は胚子期(器官形成期)と呼ばれ、細胞分裂が盛んに起こり、臓器の外形ができてきます。そのため、器官形成期の発生異常は奇形につながります。これに対し、受精後9週以後の時期は胎児期(組織形成期)と呼ばれ、臓器の内部で特有の機能を持つ組織や細胞が主に増殖・分化してくる時期です。したがって、私たちの体の形や機能がつくられていく上では、胚子期および胎児期のどちらも大切な時期です。私たちのグループでは、胎生期の内分泌環境あるいは栄養環境の変化と、生後の精神・神経疾患の発症素因との関連を明らかにしようと研究を続けています。げっ歯類などを用いた行動実験や脳の形態解析に加え、neurosphereを用いた培養実験を行い、生後の脳機能異常に関わる胎生期の脳の組織形成や、神経幹細胞、ニューロン、グリアの維持・分化など性質の変化を調べています。健康な次世代を育てるために、発生学はとても重要な学問です。皆様の研究アイデアで未来を育ててみませんか?(宇田川) >論文

 皮膚および付属器の形態形成における分子機構の解明

 皮膚は人体の中で最大の臓器です。皮膚はバリアとして機能し、外界からの侵入物を阻害し、かつ体内器官の環境の恒常性を維持します。バリア機能が大事であることは、アトピー性皮膚炎や乾癬は、バリア機能が低下していることからもわかります。  しかし皮膚における研究は、免疫学分野や幹細胞分野では盛んであるものの、発生学分野では非常に遅れを取っています。その理由の一つに、発生学は神経細胞発生分野と共に進歩してきたといってもよく、脳発生は胎生早期から始まるため、後期から発生する皮膚においては解析ツールが決定的に不足していたということが挙げられます。けれども近年、特異的な遺伝子を不活化して生体内でのその遺伝子の機能を解析するトランスジェニックマウス技術の進歩により、脳やその他の器官に発現していた遺伝子が、皮膚発生においても重要な働きを果たしていることが判ってきました。  私たちはこれまでレチノイン酸分解酵素を欠損させたマウスを用いて、レチノイン酸過剰状態が皮膚発生に及ぼす影響を解析してきました。レチノイン酸は皮膚科形成外科領域では治療に汎用されますが、過剰なレチノイン酸は催奇形性があることがヒト、実験動物で確かめられています。私たちは臨床に結びつきの深いレチノイン酸シグナリングからスタートして、他の重要なシグナリングとのクロストークを明らかにしていきたいと思っています。  将来ヒトにフィードバックし幹細胞分野や臨床研究に結びつけるため、実験動物を用いて、皮膚および付属器(毛包、脂腺)発生/ 分化の分子機構を明らかにすることが私たちの目標です。基礎研究がしっかりしていなければ、長い目でみた臨床研究の発展、即ちヒトの健康は望めません。皮膚発生を専門にしている研究室は世界的にもあまり数は多くないので、専門性の高い良い仕事をしたいと考えています。  皮膚/毛包研究分野は世界的にも女性研究者の活躍が目立つ分野です。仕事と家庭を両立されているエネルギッシュな方が多数おられます。女子医学生の皆さんは将来の夢一杯で進学されてきたことと思います。かくいう私も長く臨床医をしておりました。臨床と研究の醍醐味は違いますが、上記の事実は何かを表していませんか?興味のある方は連絡頂ければと思います。勿論男性の方も大歓迎です(相対的に女性研究者が多いというだけで、総数としては男性が多いのが事実です)。(岡野)   >論文

 四肢機能構造学


 ヒトの四肢の構造や機能について医学・数理学的解析を行い、臨床医学や比較解剖学への応用を試みています。特に手足の構造と機能の連関について、霊長類の骨格構造を基に、スウェーデンのChalmers University of Technology数学科のLundh教授と共同で解析を行っています。本研究では、リハビリテーション医学や生体力学、看護学、系統進化学またはロボット工学など、幅広い分野に貢献できる統合的な研究を目指しており、様々な分野からの大学院生、研究生を募集しています。  >論文

 神経形態学研究:神経回路から臨床まで


 思考・感情・記憶・学習・意識など、中枢神経系は人類の叡智をもってしても解明できない高度な精神現象を実現し、複雑精緻な行動を制御する基盤となっています。こうした神経系の働きの解明においては様々な手法がありますが、私たちのグループでは、これを基礎研究と臨床研究の両面から統合的に理解する立場の研究を行っています。
 基礎研究としては、個々の神経細胞を素子と考え、中枢神経系を回路と見なして形態学的な立場から研究を行っています。具体的には、1個の神経細胞を標識し、その軸索・樹状突起の投射経路を正確に追跡し、再現することによって、複雑な脳機能や精神現象を単一神経細胞(=single cell)の次元でボトムアップに明らかにしてゆこうとする立場をとっています。このために遺伝子工学を応用したウイルスベクターを標識物質(トレーサー)として用いながらも、基本となる手法自体はあくまでも古典的な神経標識法に基づいてステップ・バイ・ステップで研究を進めています。
 一方で、必ずしもボトムアップな手法にとらわれることなく、臨床医学の面からもアプローチしています。具体的には、パーキンソン病などの神経変性疾患、頭部外傷、遷延性意識障害など臨床現場における患者さんの個々の症候や画像情報を綿密に記載し、共通点を探索することから病態を解明し、有効な治療法を探索する臨床研究を行っています。  以上に述べた基礎研究と臨床研究は決して別世界の出来事ではなく、最終的にはこれらの知見を統合することでより俯瞰的・実際的な立場から研究成果を社会に還元してゆくことを目指しています。(宇田川)  >論文

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