Introduction 2013.7.1

生化学・分子生物学講座(分子生理化学部門)教授  縣 保年

平成25年7月1日付けで堀池喜八郎先生の後任として着任致しました縣です。私は金沢大学医学部を卒業した後、京都大学医学部大学院に入学し本庶 佑教授のもと、PD-1という遺伝子の単離と解析を行いました。大学院修了後、京都大学遺伝子実験施設で転写制御の研究を開始しましたが、ちょうどその当時、ヒストンのアセチル化が転写の活性化に関わることが明らかになり、今でいうエピジェネティックな遺伝子発現制御の研究がはじめられた頃でした。そこで私は、抗原受容体遺伝子の再構成を対象に解析を行い、ヒストンのアセチル化がクロマチンをオープンにすることを明らかにすることができました。

その後、遺伝子再構成において中心的な役割を果たすE2AというHLH転写因子について研究されていたUCSDのCornelis Murre博士のもとに留学しました。留学先では、機能的な組換えが片方の染色体に限って起こる対立遺伝子排除という現象の解明に挑戦しました。これは非常に難しい問題で苦労しましたが、帰国後も粘り強く解析を続け、E2Aによるエピジェネティックな制御機構を明らかにすることができました。さらにE2Aが染色体の高次構造変化によっても組換えを誘導することを見出しており、今後はその分子機構の解明へと発展させていきたいと考えています。

最近、私が大学院で研究に関与したPD-1に対する抗体が、様々な癌に治療効果があることがわかり、多くの製薬会社が臨床治験にしのぎを削っています。PD-1はT細胞の活性化を抑制する膜蛋白ですが、癌細胞はPD-1のリガンドを発現し、PD-1と結合することでT細胞を抑制するようです。PD-1抗体はその結合を阻害し、癌細胞への免疫反応が起こると考えられています。

このことを聞いた当初は、どこか他人事のように感じていたのですが、時間がたつにつれ、もし本当にPD-1抗体が薬となって人のためになる日が来たら、これは研究者冥利につきることではないかと思うようになりました。しかしながら、PD-1遺伝子の単離と抗体の作製に関わることができたとはいえ、PD-1抗体が癌に効くことを私自身が見つけたわけではないので、本当の達成感が得られたわけではありません。院生やポスドクとは違い、研究室を担当する立場になり、一貫して研究に関与してはじめて本当の達成感を得ることができるといえるのかも知れません。

このたび、当教室を担当する機会をいただきましたので、ぜひともそのような達成感を得られるような研究を展開できるよう努力してまいりたいと思います。そのためにも若い大学院生や学生さんに、いつでも遊びに来てもらえるような明るい研究室にして行きたいと考えております。どうぞよろしくお願い申し上げます。

経歴

1984年3月 静岡県立静岡高等学校卒業 1990年3月 金沢大学医学部医学科卒業 1994年3月 京都大学大学院医学研究科博士課程修了 1994年4月 京都大学遺伝子実験施設 助手 2000年9月 カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学 2003年4月 京都大学大学院医学研究科 先端領域融合医学研究機構 科学技術振興助教授 2007年4月 大阪府立母子保健総合医療センター研究所 主任研究員 2008年4月 京都大学大学院医学研究科 感染免疫学講座免疫細胞生物学 助教 2009年4月 同 准教授 2013年7月 滋賀医科大学 生化学・分子生物学講座(分子生理化学部門) 教授