滋賀医科大学の治療成績(1999-2004)
滋賀医科大学医学部附属病院産科婦人科には不妊外来、IVF(体外受精)外来の専門外来があり、
不妊症の診療に関しては滋賀県随一の陣容と設備を誇っています。カウンセリング、薬物治療、腹腔
鏡を用いた低侵襲(体への負担の少ない)手術療法、体外受精胚移植法などのあらゆる治療法を駆使し
て(集学的治療と呼ばれています)、全国的にみても優れた治療成績をあげています。当科ではすでに
同意をいただいた患者さんに対して「2段階胚移植」を行い、好成績をあげています。「2段階胚移植
法」については、すでに学会で注目を集めております。
1999-2004
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滋賀医科大学
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日本産婦人科学会
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移植周期数 |
358 |
52239(FESE-ICSI含む)
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移植あたりの妊娠数(%) |
151(42.2%)
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14429(37.6%)
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流産数(%) |
34(25.2%) |
3372(23.4%) |
多胎妊娠(%) |
42(27.8%)
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2402(16.6%)
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二段階胚移植の治療成績(1999-2004 滋賀医大)
1999-2004
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従来法
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二段階胚移植
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移植周期数
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170
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157
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臨床妊娠数(率)
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50(29.4%)
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88(56.1%)
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流産数(率)
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17(34.0%)
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17(19.3%)
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多胎妊娠数(%)
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8(16%)
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28(31.8%)
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開発の経緯
近年、体外受精・胚移植法は広く行われているものの、妊娠率はここ10年間20-25%に
とどまっており、その原因の一つとして胚(受精卵)移植後の着床率が低いことが考え
られています。そこで、滋賀医科大学産科婦人科では着床(妊娠)率を上げるため、精
力的に動物実験や分子生物学的手法を用いた基礎研究を行い、卵管内の胚が子宮内膜
に対しなんらかのシグナルを送り、自己の受容能を高めていることを明らかにしてま
いりました。つまり、内生殖器(卵管)に胚が存在する条件で胚移植を行うと着床(妊
娠)率が上がることが明らかになりました。すなわち、内生殖器(卵管)にある胚は、
子宮内膜に対してシグナルを出して、着床しやすくなるように内膜が準備をするよう
働きかけています。胚(赤ちゃん)は卵管の中にいる時から子宮(お母さん)とお話をし
て、自分を抱きとめて(着床)もらえるように働きかけているということを明らかにし
て、「胚と子宮内膜の対話」という新しい概念を作りました。
これまでの方法との違い「妊娠率を改善する胚盤胞移植」
現在の体外受精・胚移植法では、胚移植は受精後2日目に受精卵が通 常4つの細胞に分
裂した時期に行うのが一般的です。しかし、実際に自然妊娠では受精後2日目の胚は
まだ卵管内に存在していて、子宮に着床するのは胚がさらに細胞分裂して胚盤胞と呼
ばれる時期になってからです。つまり受精後2日目に胚が子宮内にあることは、自然
妊娠では起こらないことであるといえます。受精後2日目に胚移植を行っていたのは、
従来の培養法では受精卵を胚盤胞にまで育てることが難しかったということが挙げら
れます。けれども近年、新しい培養液や培養技術の開発によって、受精卵を約50%の
確率で胚盤胞にまで育てることができるようになり、胚盤胞の移植で妊娠率が改善さ
れたという報告が相次いでなされるようになりました。
2回の胚移植でさらに妊娠率を高める
そこで滋賀医科大学産科婦人科では、先にお話しした基礎研究の結果 をもとに、妊
娠率のさらなる向上を期待して、胚移植を2回に分けて行う「2段階胚移植法」を開発
いたしました。具体的な方法は、まず従来と同様に受精後2日目に胚を2個、子宮腔内
に移植します。この胚は子宮内膜に対して胚受容能を高める働きかけをするとともに、
自身も着床することを期待します。その他の胚はさらに培養を続けて発育させ、受精
後5日目に胚盤胞を1個移植します。もともと着床率が高い胚盤胞を、先発隊の2個の
胚のおかげで準備が整った子宮に移植することで、さらに妊娠率が高くなることが期
待できるわけです。2段階胚移植法は従来通 り受精後2日目に胚移植を行う方法と、
胚盤胞を移植する方法を組み合わせた方法ともいえます 。
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