現在我々の研究グループで行っている主要なプロジェクト

 我々はがんウイルスによる細胞癌化の機構を明らかにするために、癌の発生に関わっているウイルス癌遺伝子の機能を解析するとともに、ウイルス遺伝子産物が作用する場である宿主細胞側の細胞癌化過程に関与している遺伝子や癌化抑制に関わる遺伝子を同定しその機能を分子生物学、細胞生物学や発生工学(ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスの作製など)の手法を用いて解析している。



方法論

これらの遺伝子の機能を解析する方法として我々が主として用いているのは次のような実験系である。

A. レトロウイルスベクター
 マウスやラットの正常細胞株および初代培養細胞やヒトの癌細胞株などにレトロウイルスベクター法やリポフェクチン法を用いて目的の遺伝子(wild-type および種々のmutants)を導入し培養細胞レベルでの遺伝子機能を解析する。

B. 遺伝子改変マウス
 目的の遺伝子のトランスジェニックマウス・ノックアウトマウスを作製し個体レベルでの遺伝子機能を遺伝学的に解析する。

C. プロテオミクス
 Tagを導入した遺伝子の高発現系やリコンビナント蛋白を作製し特異抗体による免疫沈降法とペプチドマスフィンガープリント法を用いて目的の蛋白と相互作用する蛋白を同定する。培養細胞での発現系を用いてこれらの遺伝子産物の機能と相互作用を生化学的および細胞生物学的に解析する。



プロジェクト

現在、以下のプロジェクトが進行中である。

Project I : 新規癌抑制遺伝子drsの機能解析

 我々は初代培養細胞がウイルス癌遺伝子に対して耐性を示すのは何故かという問題に取り組みcDNAサブトラクション法および発現クローニング法を用いて新しい癌抑制遺伝子の分離を試み複数の候補遺伝子をクローニングしてきた。現在その中でv-src 癌遺伝子による細胞癌化を抑制する活性を持つ遺伝子としてクローニングされ実際のヒト癌の悪性化の過程にも密接に関係しているDrs遺伝子の機能解析を集中的に行っている。
1) ジーンターゲティングによるdrs 遺伝子の機能解析
 drs のfirst exon を含むmouse genomic clone を用いてジーンターゲティングを行いdrs遺伝子欠損マウスを作製し、個体レベルでdrs遺伝子が悪性化形質の発現にどのように関わっているのか、また発生や正常細胞におけるdrs遺伝子の機能の解析を行っている。
2) トランスジェニックマウスの作製によるdrs 遺伝子の機能解析
 Wild type drs 遺伝子、細胞内ドメインを欠いたdrs 遺伝子、および細胞外ドメインの3つのSushi motif を欠いたdrs 遺伝子を発現するトランスジェニックマウスを作製し、in vivo でのdrs 遺伝子機能およびそれぞれのドメイン機能を検討している。様々なウイルス遺伝子の個体における機能解析もこの実験系を用いて行える。 
3) プロテオミクスによるDrs蛋白に結合する蛋白の同定とその機能解析
 Drs蛋白の機能発現と癌化抑制のメカニズムを明らかにするためにtagを導入したdrsを高発現させる実験系およびDrs のリコンビナント蛋白の系を確立し、特異抗体による免疫沈降法とペプチドマスフィンガープリント法を用いてDrsと結合する蛋白の検索と同定を行っている。現在までに複数のDrsと共沈する蛋白を検出しており、これらのDrs 結合蛋白の機能とDrsの機能発現との関連について解析を行っている。
4) レトロウイルスベクターを用いたdrs遺伝子の機能解析
 我々はヒトを始めとする動物細胞に効率よく遺伝子を導入できるレトロウイルスベクターのシステムを確立している。この系を用いて様々なヒト悪性癌細胞株にwild type および種々のdeletion mutants のdrs 遺伝子を導入しその癌化抑制活性を解析している。またこの実験系はヒト、ラット、マウスの初代培養細胞など様々な細胞におけるウイルス癌遺伝子の機能解析にも 用いている。将来的には癌の遺伝子治療にも発展させてゆきたい。
5) In situ hybridization 法によるヒト癌組織におけるdrs 遺伝子発現の解析
 種々のヒト癌組織におけるdrs mRNA の発現をin situ hybridization 法およびNorthernblotting 法によって検討し、癌組織における悪性化の程度や他の癌遺伝子、癌抑制遺伝子の変異、ウイルス癌遺伝子の発現とdrs遺伝子の発現との関連を検討している。
6) Drs 転写調節領域の機能解析
 癌遺伝子によるdrs 遺伝子発現抑制機構を明らかにするためにdrs の5' 上流転写調節領域をクローニングしCAT reportor plasmid に組み込みv-src, activated ras などの癌遺伝子 によるdrs の発現抑制の分子機構の解析を行っている。


Project II : ヒトがんウイルスによる発癌機構の解析

 我々はヒトの癌の発生に直接関係していると考えられるヒトパピローマウイルス(HPV)やヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)による発癌機構について培養細胞レベルでの細胞癌化(トランスフォーメーション)の実験系を使った遺伝子機能解析などの研究を行ってきた。これらのウイルスによる正常細胞の完全な悪性化(progression)にはウイルス癌遺伝子の機能に加えて細胞側遺伝子の変化がさらに必要であると考えられる。

 我々はがんウイルスによる癌発生の全体像を明かにするために癌の発生に関わっているウイルス癌遺伝子の機能を細胞レベルだけでなく個体レベルで解析するとともに、progression に関わる遺伝子を同定しその機能の解析を行っている。



Project III : 足場非依存性増殖の分子機構の解析

 癌化した細胞を正常細胞と区別する最も重要な形質と考えられるのが足場非依存性増殖(anchorage-independent growth) である。すなわち、正常細胞は血清や栄養分が培地中に十分供給されていても細胞がシャーレに接着していないと増殖できないのにたいして、癌化した細胞は軟寒天中などの細胞接着のない浮遊状態でも増殖することができる。この足場非依存性増殖能は細胞の造腫瘍性(ヌードマウスなどに接種して腫瘍を形成する活性)と非常に密接に関連しており、細胞の悪性化の機構を明かにする上で重要な形質と考えられるがその分子機構はあまりよく理解されているとはいえない。接着性の培養細胞での細胞接着によるシグナルは接着斑において細胞外基質と細胞表面のインテグリンが結合することによってその引き金が引かれると考えられているが、そのシグナルが具体的にどのような生化学的反応の経路を経て細胞周期を制御する経路に至るのかはまだほとんどわかっていない。

 我々は細胞を接着および非接着で培養しその細胞周期移行を解析する実験系を確立しておりこの系を用いて細胞接着を介したシグナリングの観点から足場非依存性増殖に関わる分子機構を解析している。。また癌細胞の足場非依存性増殖を特異的に抑制する遺伝子を分離しその機能解析も行っている。


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