鼻腔内検体を用いた認知症診断法に関する臨床研究(1)について

1. 目的

認知症は、初老期から老年期に起こる進行性の認知機能の障害を特徴とする病気です。高齢化社会の進行に伴い認知症患者数は急速に増大しています。日本の認知症患者数は460万人を越え、軽度認知機能障害といわれる認知症予備軍を加えると800万人に達すると予想されています。現在、認知症を完全に直す治療薬はありませんが、症状を和らげ、病気の進行を遅らせる薬(4種類)があります。したがって、早期に発見して治療を受けることが大切です。  認知症の60%以上を占めるとされるアルツハイマー病患者さんの脳には、老人斑(ろうじんはん)や神経原線維変化(しんけいげんせんいへんか)が認められ、これは異常に蓄積された物質が原因と考えられます。また、そのために脳細胞がこわれてしまう可能性があり、その結果、物忘れ、時間や今いる場所がわからなくなるなどの症状がみられると考えられています。  アルツハイマー病の原因はまだはっきりと分かっていませんが、老人斑の主成分であるベータアミロイドペプチド(以下、Aベータ)と呼ばれる蛋白質が関係していると考えられています。老人斑は、発症の10年から20年前から出現することが知られており、老人斑の検出はアルツハイマー病の早期診断に有用です。一方、神経原線維変化は認知症の発症や認知症の重症度に深く関わることが知られています。神経原線維変化の主成分は、異常に変化したタウという蛋白質(以下、タウ蛋白)です。  もし、老人斑や神経原線維変化が形成される途中で、このAベータやタウ蛋白を検出することができれば、アルツハイマー病や他の認知症を早期に発見できる可能性が考えられます。  脳の中の老人斑や神経原線維変化を直接見ることはできないため、PET画像法(ポジトロン断層法)や、髄液中のタウ蛋白やAベータの測定が認知症の診断に使われています。しかしながら、PETは放射性物質の投与が必要で費用も高額です。また髄液検査は、背中に針を刺すため患者さんの身体的負担も多く、検査後に強い頭痛が起こることもあります。  そこで、私たち研究者はタウ蛋白やAベータをより簡便に検出し、測定する方法について基礎的な研究および臨床研究を行ってきました。その結果、ヒトの鼻の中にもタウ蛋白やAベータが検出されることが明らかになりました。特に認知症(アルツハイマー病)患者さんでは、健常者さんに比べて総蛋白あたりのタウ蛋白が高値でした。今回、認知症(アルツハイマー病)患者さんと認知症でない成人(以下、健常者さん)にご協力いただき、鼻の中のタウ蛋白、Aベータ及び総蛋白を測定して、総蛋白あたりのタウ蛋白及びAベータを比較することで、認知症の診断の可能性について検討します。  なお、この研究はパナソニック ヘルスケア株式会社と共同で実施します。

2.研究の概要

 この研究は、参加される方の人権、安全および福祉の保護のもとに、研究の科学的な質と成績の信頼性を確保することを目的とする「ヘルシンキ宣言(2008年10月修正)」および「臨床研究に関する倫理指針」に沿って行われます。この研究の実施に際しては、滋賀医科大学に設置されています倫理委員会で、この研究が倫理的および科学的に妥当であることや、滋賀医科大学で行うことが適当であるかどうかについて調査・審議され、承認を得ています。  この研究では、認知症患者さんあるいは健常者さんを対象として、綿棒で鼻の中をこすって鼻腔内検体を採取します(4ヶ所×左右、計8ヶ所)。そして、鼻腔内検体中のタウ蛋白、Aベータと総蛋白の量を測定します。その値を、認知症患者さん(25名)および健常者さん(25名)で比較して、最も診断に適した採取部位を検討します。また、測定手法の検討も行います。また、腕の静脈から血液を採取して、認知症患者さんあるいは健常者さんの健康状態などを確認します。  これらの研究への参加について、認知症患者さんの場合、同意書には患者さん本人あるいはご家族など代諾者の方に署名いただきます。健常者さんの場合には、ご本人に同意書に署名いただきます。  安全性が高く、簡便で安価な診断法が確立できれば、アルツハイマー病の早期発見・早期治療に役立ちます。臨床研究にご参加くださるようにお願い申し上げます。

3.お知らせ

  平成27年1月  鼻粘膜抽出液で測定する測定項目を追加しました。タウ蛋白の中にりん酸化タウ蛋白を、Aベータの中にAベータ(42)に加えてをAベータ(40)を追加しました(倫理委員会で承認済み)。

4.お問い合わせ先

滋賀医科大学・分子神経科学研究センター(秘書 市川)077-548-2327, 2331
             e-mail: mitikawa@belle.shiga-med.ac.jp