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滋賀医科大学医学部付属病院
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色覚異常遺伝子の研究


色覚異常遺伝子の研究

Genetic Analysis of Congenital Color Vision Deficiencies
Shiga University of Medical Science
Department of Ophthalmology and Department of Medical Biochemistry


現在外来受診の方の遺伝子解析は行っておりません。

LM(赤緑)錐体視物質の遺伝子は1986年にNathansらが明らかにしました。
X染色体の長腕のXq28という位置にL色素遺伝子、M色素遺伝子の順に並んで存在しています。
先天(赤緑)色覚異常ではこのどちらかの色素が発現しません。
発現しないメカニズムは単一ではない様です。
LM視色素遺伝子の構造
LM視色素遺伝子の相違点
視色素遺伝子の解析結果
別の遺伝子異常(新発見)
保因者の遺伝子診断



1.LM(赤緑)視色素遺伝子の構造

先天(赤緑)色覚異常はX連鎖性遺伝をし、X染色体上にその原因遺伝子があることは以前からわかっていましたが、その詳細をNathansらのグループが1986年に明らかにしました。 遺伝子というのは、塩基部分の違いによりアデニン(A)、シトシン(C)、グアニン(G)、チミン(T)と名づけられた4種類の核酸が鎖状につながったもの(DNA)である事は皆さん御存知でしょう。 Nathansらは赤緑錐体視色素のたんぱく質であるオプシンのアミノ酸配列を決定するDNAの核酸の配列を明らかにし、つづいて先天色覚異常の遺伝子レベルでのメカニズムを解明したのです。
この遺伝子はX染色体の長腕の一番端のXq28という場所にあります。染色体は細胞が分裂する時に分離しますが、その時一定の形を取ります。 その時の形と模様によって染色体上の位置が番地の様に決められているのです。そのXq28番地という意味です。この遺伝子は6つのエキソンから構成されています。 このエキソンという部分にアミノ酸を決定するコドン(アミノ酸に対応する3つの核酸の配列)があります。アミノ酸配列の情報(エキソン)は、イントロンという役割がはっきりしないDNAによって分断され、 6つのエキソンに分けられています。赤(L)遺伝子と緑(M)遺伝子は並んで存在しており、また大変よく似ています。このためDNAの複製が作られるときに、つなぎ方の誤り(不等交叉)が起こりやすく、 これが先天(赤緑)色覚異常が比較的高頻度で発生する要因にもなっています。






色覚正常者はL遺伝子を1つと、M遺伝子を1つ(あるいは複数)持っています。不等交叉によりL、Mどちらかの遺伝子が欠けると、 欠けた方の遺伝子から作られるべき錐体色素ができないので色覚異常になります(下図)。 遺伝子が1つあるいは1種類のみの場合はL、Mどちらか1種類のオプシンしか作られないので2色覚に(S視色素の遺伝子は第7染色体上にある)、 L遺伝子とL型の雑種遺伝子、あるいはM遺伝子とM型の雑種遺伝子のように、同じL型遺伝子あるいは同じM型遺伝子なのですが、 タイプの異なる遺伝子が2つあれば異常3色覚になると理解されています。



遺伝子がこのように矢印で表されているのは、これを鋳型にして新しい遺伝子(DNAやRNA)が作られるとき、鎖状の構造が伸びていく方向を表しています。矢印の方向に合成が進むというような意味で、矢印の後ろ(図では左)を上流、矢印の先の方向(図では右)を下流という言い表し方をします。



2.L遺伝子とM遺伝子の相違点

L錐体とM錐体の視物質オプシンは364個のアミノ酸からできています。そのうちL視色素のオプシンとM視色素のオプシンとで異なっているのは15のアミノ酸にすぎません。 364に対する15ですからわずか4%ということになります。またアミノ酸は同じですが対応する遺伝子のコドン(アミノ酸を表す3つの核酸)の配列がL遺伝子とM遺伝子で異なっている個所がいくつかあります。 さらにまれな変異として報告されている箇所も含め、合計しますと28の核酸を特定すればその遺伝子の全配列がわかることになります。その他の所は、 もちろん確認する必要はありますが、今の所、L遺伝子でもM遺伝子でも同じ核酸の配列になっていると考えられます。この28箇所以外にも報告された変異がありますがわれわれの解析では今のところ見つかっていません。 このように書きますと28の核酸が全く確率的にいろいろな組み合わせで存在し、全部で2の28乗(2億6千万通り)もの種類があるかのように思われますが、実際はそうではありません。 例えばエキソン2ではアミノ酸でいいますと65番目、100番目、111番目、116番目のアミノ酸(それぞれスレオニン、ロイシン、イソロイシン、セリン=L、イソロイシン、ロイシン、バリン、スレオニン=M)が 異なっています。核酸の違いで言うとC、A、A、C(L遺伝子)あるいはT、G、G、A(M遺伝子)になるのですが、 実際に存在するのはC、A、A、CあるいはT、G、G、Aのどちらかであって、 例えばLMの混合したC、A、G、Aという組み合わせになったエキソン2は見つかりません。 エキソン4についても同様に実際存在するのはすべてL型の配列かすべてM型の配列のものでした。 エキソン5もほぼ同様でしたが、M型の配列の一箇所(283番目のアミノ酸の所)だけ典型的なMエキソンではのところが(L型)になっているM型エキソン5が約30%見つかりました。 これに対してエキソン3にはいろいろな核酸配列の組み合わせが存在し、今まで解析したものを合計しますと全部で21種類(L型=10、M型=11)ものバリーエーションがありました。
このようなL遺伝子とM遺伝子におけるアミノ酸の相違、特に作られる視色素の吸収特性を変化させるアミノ酸の違いはエキソン5において最も多く、 エキソン5がL型の配列ならばおよそL錐体色素に属する吸収特性のオプシンを作り、M型ならM錐体色素の特性のオプシンを作ります。エキソン2から5までの組み合せは、 典型的には当然L-L-L-LあるいはMM-M-M-Mですが、例えばM-L-L-Lなど次の図のようないろいろな組み合わせのものが存在します。

 

視色素遺伝子のいろいろな変異型:

エキソン1とエキソン6は同じ配列なので、エキソン2、3、4、5のみを示してあります。

それぞれの型の遺伝子から合成される視色素の光吸収特性を測定した報告(Merbs and Nathans、 1992)からそのピーク波長を引用しました。(nm;ナノメーター)

エキソン5がL型ならL視色素とみなされ、M型ならM視色素と見ることができます。

Alaとあるのは、L型のエキソンであるが、180番目のアミノ酸が典型的なL遺伝子で はSer(セリン)であるところがAla(アラニン)となっている変異Lエキソン3であることを示しています。



3.視色素遺伝子の解析結果

赤緑視色素遺伝子の解析方法についての解説は省略しますが、実際に色覚異常のヒトのLM遺伝子を調べてみます と、必ずしも1.で説明したとおりにはなっていません。 私達の研究グループでは今まで正常色覚の方を400例以上解析し、色覚異常の方の解析は600例以上になりました。その結果は


A.色覚正常者は全員L遺伝子とM遺伝子のどちらも持っていました。

B.色覚異常者の遺伝子を調べると、80%の例では1.LM視色素遺伝子の構造で示し た図のようにどちらかの遺伝子が欠けていて、納得のいく結果がえられました。しかし、およそ20%の方がこの図では説明できない遺伝子の構造を持ってお り、L遺伝子とM遺伝子の両方を持っている、すなわち正常色覚と同じパターンの人も13%に認められました。

色覚検査の上でこの方たちを区別できるような特徴はありませんので、遺伝子は持っていますが、遺伝子からオプシンというタンパク質を合成すること ができない何か他の理由があるはずです。





4.別の遺伝子異常(新発見)

L遺伝子、M遺伝子どちらも持っているにもかかわらず色覚異常になっているケースが13%に見られましたが、その 大部分は2型2色覚でした。M視色素の欠損ですね。ですからこれらのケースのM遺伝子は何らかの理由ではたらいていないはずです。そこで遺伝子か らコピー(メッセンジャーRNA)が作られるときにはたらく転写因子が結合する部分、これをプロモーターといいますが、そのプロモーターに異常がないかど うかを調べました。プロモーターはエキソン1よりさらに上流の核酸の配列になります。L遺伝子のプロモーターとM遺伝子のプロモーターとには配列の違いが ありますので、別々に解析することができます。これらのケースのM遺伝子プロモーターを調べますと、エキソン1からさかのぼって71番目(-71)の核酸 が、正常ではA(アデニン)であるはずのところがC(シトシン)に変わっている変異(-71A→C)が見つかりました。正常色覚の人のMプロモーターにも -71Cはありましたが、必ず正常の-71Aも存在し、正常色覚で-71Cを持つケースは正常の-71AのM遺伝子を含め2つ以上のM遺伝子を持っていまし た。この事から-71Cという変異が、正常遺伝子型の2型色覚異常においてM遺伝子がはたらかない原因になっていると考えることができます。 新しい変異についての詳細は別のページを作りました。興味のある方は開いてみてください。→新しい変異へ



5.保因者の遺伝子診断

保因者の女性は2つのX染色体のうち片方に色覚異常の遺伝子を持っていますが、もう1つには正常の、L-Mとつながった遺伝子がありますので、 単純にどんな遺伝子があるのかという検査では必ずL遺伝子も、M遺伝子も検出され、正常色覚という診断はつきますが、保因者であるかどうかの診断にはつながりません。 2つのX染色体を別々に調べることができればよいのですが、今の所そのような解析はできません。
LM視色素の遺伝子は“構造”の所で説明しました様にいくつかの遺伝子が並んでいて、その先頭(図では左)がL遺伝子、その次にM遺伝子、 さらにいくつかM遺伝子がつながっている場合もあります。先頭のL遺伝子のプロモーターと2番目以降の遺伝子(本来はM遺伝子)のプロモーターとには塩基配列に違いがあります。 また一番最後の遺伝子のさらに下流にTEX28という役割不明の酵素の遺伝子があり、これらの塩基配列の違いを利用しますと、先頭の遺伝子、 2番目以降(下流)の遺伝子、一番最後(最下流)の遺伝子をそれぞれ分けることができます。先頭、下流、最下流にあるそれぞれの遺伝子のエキソン5がL型かM型かを調べますと、 保因者の診断が可能になります。図を見てください。



1.が第1色覚(異常)保因者の場合です。正常の遺伝子(L-M-(M)とつながった列)と1型色覚の遺伝子(L遺伝子のない列)を持っています。この方を、単純にどういう遺伝子を持っているかという調べ方をしますと、L遺伝子もM遺伝子も検出され、全く正常の人との区別はできません。しかし上記のように、先頭、下流、最下流と分けて調べますと、保因者の場合は先頭の遺伝子の中にL型とM型と両方が検出され(正常ではL型のみ)保因者である事が分かります。

次の2.は2型色覚の保因者の場合です。先頭はL型のみでこれは正常の人と同じです。しかし下流あるいは最下流にM型のほかにL型(正常ではM型のみ)の遺伝子が見つかり、2型色覚異常の保因者であるという診断ができます。下流にL遺伝子がなく、最下流にL遺伝子がある場合は、図の右側に相当しますが、先頭=最下流という意味になりますから、L遺伝子1つだけのX染色体があるということで、これは2型2色覚の保因者であることまで分かります。しかし一般的には、1型色覚の保因者か2型色覚の保因者かが分かるだけで、2色覚(2色型色覚)の保因者か異常3色覚(異常3色型色覚)の保因者かの判定はこの方法では困難です。

一番下に、参考のため保因者ではない正常色覚の女性の場合を示しました。L-M-(M)とつながった遺伝子を2列持っていますので、先頭=L、下流=M、最下流=Mとなります。保因者はこれ以外のパターンになるということです。

専門的になりますが左の図が実際の解析の電気泳動のパターンです。先頭、下流、最下流の遺伝子に分離した後、それぞれのエキソン5を調べます。L型 エキソン5とM型エキソン5では核酸の配列、分子構造が違っていますので、SSCP(single-strand conformation polymorphism)という方法なのですが、要するに電気泳動で分離できます。左の3つが検査をする人のDNA、右の3つはマーカーとして種類が分かっているDNAのものです。L、M以外にM’というのがありますが、これは2.L遺伝子とM 遺伝子の相違点 の所で説明した変異型で、283番目のアミノ酸のところがA→と入 れ替わっているM型のエキソン5です。Lと紛らわしい所にでますが区別は可能です。


一番上が正常の女性、先頭=L、下流、最下流=Mとなるのは、説明したとおりです。

2番目は先頭にMがあるので、1型色覚異常の保因者ですね。

3番目は2型色覚の、

一番下は2型2色覚の保因者と診断ができます。

 このようにお話しして行きますと、DNAを調べれば保因者の判定ができるかのように聞こえますが、異常者の解析結果のところで述べましたように、 色覚異常ですが正常遺伝子型の人もありますので、この型の遺伝子を持つ保因者は判定ができません。まだまだ分からない事がいっぱい残っています。


以上が眼科学講座と生化学講座の共同研究として今までやってきた研究成果の要約です。今のところ学術的興味の枠を出ませんが、このような地道な研究がいずれ色覚異常のより正確な診断、妥当な程度分類、さらには治療につながることも、....あるかもしれないと考えています。



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