滋賀医科大学 眼科学講座

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滋賀医科大学医学部付属病院
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色覚異常遺伝子の研究


新発見の変異


赤緑色覚異常の大部分は赤(L)、あるいは緑(M)遺伝子の欠損によって起こるのですが、 中には正常と同じようにL遺伝子とM遺伝子の両方を持っているのに色覚異常になるというタイプがあります。色覚異常が発現するメカニズムは単一ではないようです。
ここでは私たちが発見した色覚異常発現の新しいメカニズムを紹介します。
2011年2月1日改訂



1.プロモーターの異常(A-71C)

M遺伝子のプロモーターの-71Cという変異が、正常遺伝子型の2型色覚異常においてM遺伝子が働かない、作られない原因になっているらしいことは前のページで紹介しました。

そこで二つの実験を行いました。一つはこのプロモーターを、別のタンパク質の遺伝子につないで働きを調べるという方法です。 蛍が光を出すときに働いているルシフェラーゼというタンパク質の遺伝子に-71A(正常型)、あるいは-71C(変異型)のプロモーターをつないで、 これを培養細胞に導入しますとその細胞はルシフェラーゼを作ります。ルシフェラーゼができているかどうかは発光させてみると分かります。 発現しているかどうかを確かめやすい物質を使ったということですね。でその発光している様子から正常型(-71A)のプロモーターをつないだ細胞に比べ、 変異型(-71C)をつないだ細胞では合成されたルシフェラーゼの量が半分以下(45%)になっていることが分かりました。

合成されたルシフェラーゼ活性(それぞれ8回の測定の平均)



もう一つはプロモーターと転写因子の結合を直接見る方法です。プロモーターのDNA断片と転写因子を混ぜ合わせますと、条件によりいろいろですが、一部が結合し単独のプロモーター 、転写因子それに結合物の3種類が混ざり合ったものができます。これを板状のゲルにしみこませ電位をかけます。各物質は電位勾配に沿って移動するのですが、 それぞれの物質が持っている電気の強さと重さによって移動速度が異なるので分離することができます。電気泳動という方法ですね。この方法で結合している割合を測定しますと、 いろいろな条件で変異プロモーターの結合割合は正常プロモーターに比べて40%程度に落ちていました。
これがその結果のグラフです。単純に結合している量を測ったわけではありませんので、このグラフでは結合している割合が多いほど0(ゼロ)に近くなります。 横軸はいろいろな条件と見てください。変異型(MT)が正常型(WT、野生型)に比べ結合が少ない(グラフの上にある)ことが分かります。

これらの実験は米国ワシントン大学 Samir S Deeb 教授、Takaaki Hayashi氏(現東京慈恵会医科大学)の協力で行われたものです。ここに記して改めて感謝いたします。
これらはいずれも試験管内での実験ですが、実際の錐体細胞では変異型(-71C)のプロモーターの遺伝子からはメッセンジャーRNAが作られず、視色素が合成されない結果になっていると推定されます。



2.新発見のアミノ酸置換

L遺伝子、M遺伝子の両方を持ち、なおかつプロモーターの-71Cの変異が見つからない色覚異常のケースがいくつか残りました。その方たちの遺伝子を詳細に調べますと、 全例ではありませんが新しい変異が見つかりました。それらは
Arg330Gln(CGA→CAA:Mエキソン6)
Asn94Lys(AAC→AAA:Mエキソン2)
Gly338Glu(GGG→GAG:Lエキソン6)
Pro231Leu (CCA→CTA、Lエキソン4)というものです。
説明しますと、正常では330番目のアミノ酸はアルギニン(Arg)であり、それをあらわす核酸の配列はCGA なのですが、この2番目のG(グアニン)がA(アデニン)に入れ替わってCAAになった。その結果としてCAAはグルタミン(Gln)を表す配列ですから、330番目のアミノ酸がArg→Glnに入れ替わった変異ということです。これはM遺伝子のエキソン6に見られました。
同じように次はC(シトシン)→A(アデニン)という置換でM視色素の94番のアスパラギン(Asn)がリジン(Lys)に入れ 替わった変異.。
3番目はG→Aという置換でL視色素の338番目のアミノ酸がグリシン(Gly)→グルタミン酸(Glu)に入れ替わった変異。
最後のはC(シトシン)→T(チミン)という置換でL遺伝子の231番のアミノ酸がプロリン(Pro)→ロイシン(Leu)に入れ替わった変異、ということです。

これらの変異が、単にアミノ酸が入れ替わっただけで視色素としての働きに変わりがないのか、それとも視色素として働かなくなっているのかはDNAの配列を見ているだけでは分かりません。 アミノ酸が入れ替わっていても、L錐体あるいはM錐体として正常に機能していれば、色覚異常とはならないはずです。そこで変異のあるDNAを作り、これを培養細胞の中に導入してアミノ酸置換のオプシンを作り、 光を吸収する色素としての働きを調べました。実際には視色素遺伝子から作られるオプシンというタンパク質だけでは光を吸収しないので、これにレチナールというビタミンAから作られる物質をつなぎます(再構成)。 このようにして作った視色素にいろいろな波長の光をあて、その吸収される様子(吸収スペクトル)を調べますと、変異のオプシンでは吸収効率が大変悪い、あるいは全く吸収が起こらないことが分かりました。 このことからこれらのDNA変異を持ったケースではL錐体、M錐体の両方共存在するが、一方の錐体の色素が光を吸収できないため色覚異常になっていると推定できます。
以下にその吸収スペクトルの測定結果を示します。

再構成したM視色素の吸収スペクトル:破線は正常のM視色素のもの。Arg330Glnという変異の色素は光の吸収がおよそ1/10に落ちている。 Asn94Lysではほとんど吸収が見られない。
横軸は波長(nm=ナノメーター)

レチナールは和田昭盛助教授(神戸薬大薬品分析)からご提供いただき、 吸収スペクトルの測定は、七田芳則教授(京大院生物物理)のご協力を得て行ったものです。ここに記して改めて感謝いたします。

再構成したL視色素の吸収スペクトル:破線は正常のL視色素のもの。Gly338Glu、Pro231Leuどちらの変異色素もほとんど吸収スペク トルが観察されない。
横軸は波長(nm=ナノメーター)

レチナールは和田昭盛助教授(神戸薬大薬品分析)からご提供いただき、 吸収スペクトルの測定は、七田芳則教授(京大院生物物理)のご協力を得て行ったものです。ここに記して改めて感謝いたします。



アミノ酸置換による色覚異常はCys203Arg、Pro307Leu(いずれもM色素)というのが欧米での報告にありましたが、ここで紹介しましたArg330Gln、Asn94Lys、Gly338Glu、Pro231Leu は私たちが新しく発見したものです。また変異視色素の吸収スペクトルの測定は私たちが初めて行ったものです。


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