顎口腔領域には歯の組織に由来する特殊な腫瘍(歯原性腫瘍)と、身体他部にも発生する一般的な
腫瘍(非歯原性腫瘍)が発生します。どちらも良性のものが多いですが、まれに悪性であることも
あります。

(歯原性腫瘍)
 歯を形成する組織が、その分化の過程に異常増殖を起こして発生する腫瘍です。一般に良性
のものがほとんどですが、きわめて稀に悪性のものもあります。歯を形成する組織に由来して
いるためあごの骨(上顎骨、下顎骨)内に発生するものがほとんどです。発育は緩慢であり、
発育するにつれてあごの骨の内部から表面に向かって増大し、あごの骨は硬い膨隆をきたすこ
とがあります。あごの骨の膨隆、感染のため疼痛がでて初めて自覚されるため、発見されたとき
にはかなり骨が破壊されていることがあります。歯科治療中にX線写真で無症状の腫瘍が発見さ
れることもあります。確定診断には腫瘍組織を顕微鏡で検査する病理組織検査が必要です。
歯原性腫瘍で発生頻度の高いものは歯牙腫とエナメル上皮腫で、約90%を占めます。治療として
は腫瘍の外科的切除が必要です。前記のエナメル上皮腫のように良性であるが再発しやすい腫瘍
については繰り返し切除手術(反復掻爬術)を行う必要があります。腫瘍が大きくなり、広範囲
にあごの骨が吸収している場合はあごの骨を部分的に離断し、切除することが必要な場合があり
ます。あごの骨を部分的に離断、切除した場合にはチタン製プレートによる固定や骨移植を行い
再建する必要があります。

エナメル上皮腫切除後(下顎骨) チタン製プレートによる再建

(非歯原性腫瘍)
 顎口腔領域には歯原性腫瘍だけではなく、身体他部に発生する一般的な腫瘍である非歯原性腫瘍
も多く発生します。非歯原性腫瘍は舌、口底部、歯肉、頬粘膜など比較的目に触れやすい場所にあ
ることが多いです。また顎口腔領域には唾液腺が存在し、そこから唾液腺腫瘍が発生します。

○ 非歯原性良性腫瘍:一般的な症状としては無痛性に周囲組織を圧排あるいは外向性に緩慢に増大
し、腫瘍が相当に大きくなるまでは機能障害もありません。腫瘍の種類として多いものは乳頭腫、
線維腫です。次に多いものは血管腫です。その他化骨性線維腫、リンパ管腫、脂肪腫などがありま
す。治療としては外科的切除が基本です。血管腫では薬剤を用いた硬化療法を行うこともあります。

舌線維腫 舌血管腫

 

 ○ 非歯原性悪性腫瘍:症状として腫脹、違和感、接触痛を認めます。最も多いのは口腔粘膜上皮
より発生する扁平上皮癌、ついで小唾液腺、大唾液腺から発生する腺癌系です。その他、肉腫、
悪性リンパ腫などが発生します。扁平上皮癌の症状としては表面の潰瘍形成、腫瘤形成、白板形成
などです。腺癌は皮下または粘膜下組織の膨隆として触れることが多いです。
治療としては1.外科療法 2.化学療法 3.放射線療法があり、これらを単独または組み合わせて
行います。
1.外科療法:頚部リンパ節への転移がない場合は腫瘍とその周囲組織の切除のみをおこないますが、
頚部リンパ節転移がある場合は頚部郭清術も合わせて行います。また腫瘍が大きく、切除後の欠損が
大きい場合には他所の組織でその欠損部を補填する皮弁術を行うことがあります。
2. 化学療法:抗癌剤を用いた治療法です。当科では主に5-FUとNedaplatinの2剤を用いた化学療法
を行っており、良好な治療成績を得ております。
3. 放射線療法:単独または手術と組み合わせて行うことがあります。

下顎歯肉癌(扁平上皮癌) 上顎歯肉癌(扁平上皮癌)