その5.ワクチン -1
私達は、東京都医学総合研究所と共同でワクシニウイルスをベースにしたSARS-CoV-2の組換えワクチンの開発を行っています。
ワクシニウイルスは天然痘の弱毒生ワクチンとして使用されていました。天然痘は致死率の高い感染症でしたが、ワクチンの普及により地球上から撲滅されました。多くの人に使用され、安全性が確認されています。また、必ずしも冷蔵保存を必要としないため、冷蔵庫のない地域まで運ぶことができます。
今回、SARS-CoV-2のSタンパク質遺伝子をワクシニアウイルスの遺伝子の中に挿入しワクチンを作製しました。このワクチンを接種すると、体内で遺伝子をもとにSタンパク質が作られます。このSタンパク質に対して免疫反応が起き、Bリンパ球が抗体を産生します。この抗体が感染予防に働くことが期待されます。
このワクチンをカニクイザルに接種し、SARS-CoV-2に対する効果を確認しました。
このワクチンをサルの皮内に2回接種した後にSARS-CoV-2を感染させました。感染7日後に肺のウイルスRNA量を測定したところ、ワクチンを接種していないサルに比べ、ワクチンを接種したサルではウイルスRNA量は1/50000で(左グラフ)、ウイルスの複製は抑制されました。
また、肺の組織を顕微鏡で調べたところ、ワクチンを接種しないとウイルス感染7日後肺胞壁が厚くなり、リンパ球が多数集まり、肺炎が起きた結果、肺の空気量が減少しました(中央写真)。一方、ワクチンを接種すると、感染しても肺胞壁は正常の厚さで、肺に空気は十分入り、ほぼ正常でした(右写真)。したがって、ワクシニウイルスをベースにしたSARS-CoV-2ワクチンはウイルスの複製と肺炎を予防することがわかりました。