その6.治療薬 -1
SARS-CoV-2に対する治療薬の開発が進んでいます。
その一つとして、私達は慶應義塾大学と共同で中和抗体薬の開発を行いました。
SARS-CoV-2に感染した人では、Bリンパ球が反応し、中和抗体が産生されます(感染者全員ではありません)。中和抗体はSARS-CoV-2が細胞に接着することを抑制するので、感染者の体内に中和抗体が増加すると、体内で新たに複製されたSARS-CoV-2が細胞に感染できなくなり、回復に向かうと考えられます。回復後、血液中には中和抗体を作るBリンパ球が循環しています。このBリンパ球と抗体を治療薬として活用することが考えられました。
回復者の血液から中和抗体を産生するBリンパ球を分離し、中和抗体の遺伝子を取り出しました。この遺伝子を利用し、中和抗体タンパク質を治療薬として使えるように大量に合成しました。また、この中和抗体の多くは、SARS-CoV-2のSタンパク質の中のACE2との結合部位RBDに結合することがわかりました。
SARS-CoV-2を感染させたサルに中和抗体薬を混合して投与しました(抗体カクテル療法)。その結果、抗体投与から2日後にはウイルスは検出されなくなり、ウイルスの複製を早期に阻害し、治療薬として有効であることがわかりました。また、複数の抗体を混合して使用すると耐性ウイルスの発生を防止できると考えられます。