君についていこう。

 山形県で神経放射線ワークショップが催されたときのことです。私と同期のK嬢(仮名)は久しぶりに二人一緒に参加できることになり、せっかくなので、帰りの土曜日に熱海で一泊し、翌日、当時静岡に住んでいたA嬢(仮名)とランデブーしてごはんを食べる、という計画を立て、大変はしゃいでおりました。土曜日、私たちはA嬢へのお土産にさくらんぼを購入後、市内をちょこっと観光し、昼下がりにかるくお蕎麦をたぐって、山形を後にしました。しかし、東京に近づくにつれ、雲行きはどんどん怪しくなり、ついに、新横浜駅で新幹線がとまってしまう事態に。静岡県内豪雨のため、復旧は未定、とのことでした。『うわー、マジかー。ここでホテル取りなおす?キャンセル料痛ぇ・・・。まあ、駅で止まったのはまだラッキーか・・・?』などとグルグル考えつつ、携帯電話のフリップを開こうとした、その時です。
 K嬢は、すっくと立ち上がり、私に向かってにっこりほほ笑むと、「車掌さんのところへ行ってきます」と厳かに宣言しました。「・・・エ?」 「在来線が動いているか、確認してきます。」まったくもって、素晴らしい笑顔でした。「わかった、・・・荷物見てるね」以外の何が言えたでしょう。怒涛の進撃の始まりでした。
 戻ってきたK嬢は、「在来線、動いてますって。行きましょうか!」と私の手を引き、止まってしまった新幹線から抜けだすと、駅員さんに怒鳴っているおっさんを横目に、「特急券払い戻しなんていいですよね、抜けちゃいましょう!」と、乗り換えの改札をさっくり通過。通りすがりの駅員さんに行き方を尋ね、びしっと東海道線への乗り換えを敢行したのです。私は「・・・これでもう大丈夫・・・!」と一息ついておりましたが、K嬢は、その電車が小田原駅で快速と接続するという車内放送を聞き逃してはいませんでした。「じゃ、も一度乗り換えますよ!その方が早く着きますからね!!」「エェェェ―――!!?」またしてもぼんやりしている私の手を引いて、快速に乗り換え。アグレッシブに熱海を目指します。雨はその間も降り続いており、しばらくすると車内に、「この電車は熱海止まりになり、その先への運転は見合わせます」とのアナウンスが。混み合う中に、どんよりとした空気が流れます。しかしK嬢は違います。満面の笑みで、「やった!熱海までちゃんと行けますよ!!」・・・ぽじてぃぶ!!重い雰囲気の車内で、私たち二人はげらげらと笑い続けておりました。
 熱海駅のタクシー乗り場には数人しか並んでおらず、わりとすぐに乗れそうな気配でした。「おなか、すきませんか?」とK嬢。たしかに、山形でお蕎麦を食べて以来、食事をとっていません。時刻は夜の10時半を回っています。K嬢はおもむろにタクシー乗り場横の街案内チラシを手に取り、ざっと広げ、「この焼鳥屋さん、まだあいてますよ。行きましょ?」・・・タクシー待ちのたかだか1分程度で見つけましたよ、さすが放射線科医。(ちなみにその焼鳥屋さんはとっても仲のよいご夫婦がやっておられる、非常に楽しいお店でした。)さて、おなかも心も満たされて、真夜中、ホテルにやっと到着です。「お嬢、お風呂先に入る?」と珍しく気遣ってみた私に、K嬢は「一緒に大浴場行きましょうよ、こんなこともあろうかと、24時間入れるホテルにしておきましたし」。・・・私、真田さん(©宇宙戦艦ヤマト)よりそのセリフが似合うヒトを、初めて見ました・・・。ホテルの大浴場は上層階にありました。大きな窓から、眼下に新幹線の線路が見えます。ようやく動き始めた新幹線が次々行き交う姿を見下ろしながら、K嬢は「勝ちましたね・・・!!」とつぶやきました。・・・うん、なんかよくわかんないけど勝てたらしいや、よかった・・・。
 「君についていこう」。私はこのとき、しみじみとそう思ったのでした。そのあとも、私たちは診断専門医試験受験ツアーや核医学総会弾丸ツアーなど、さまざまな珍道中を繰り広げることになるのですが、その話は機会がありましたらまたいずれ。


by Y嬢

editor’s comment
同期仲良しでほほえましいですね。判断力のキレるK嬢、頼りになります。