甲子園の話1

人混みは嫌い、並んで待つのも嫌い。そんな人間が人混みで並んだ話。

ちょうど2年前、高校野球を見に行こうと思い、甲子園球場に行った。
前々から甲子園球場で高校野球を見たいと思っていたのだが、夏休みに実行することにした。だが、夏の甲子園を選んだのは、完全に判断ミスだった。

夏の甲子園に行くのなら、外野席は暑いので、屋根のある内野席の方が良い。
内野席の当日券を購入するためには、朝早くに行った方が良い。
とのアドバイスをもらっていたので、滋賀から始発に乗って行くことにした。

3時過ぎに起きて、4時台の始発に乗るために、駅に到着。
駅には甲子園に行くのだろうと思われる親子連れがいた。
「わざわざクーラーボックスまで持って行くなんて、親子連れは大変だな、早朝からご苦労様」と思いつつ、始発に乗る。

揺られること1時間半。6時頃に大阪駅に着き、阪神電車に乗り換える。JRとは違い、早朝からかなり多くのお客さんが乗っていた。その中に、滋賀の駅で見かけたクーラーボックスを持った親子連れもいた。やっぱり行き先は同じだった。

電車が甲子園駅に到着する。
扉が開いた瞬間、ゲートが開いた瞬間の競走馬のように、親子連れは猛ダッシュで改札口へと消えて行った。

始発に乗ったのだから、当日券はなんとか手に入るだろうと思っていた私は、他の乗客が走って、改札口に向かう背中を見ながら、のんびりと改札口を出た。
しかし、改札口を出た時の光景は、私の想定外だった。


甲子園から駅まで間の広場を埋め尽くす人々。
何千人か、何万人か。数え切れないほどの多くの人が並んでいた。

「6時過ぎにこの状況ということは、先頭の人は、一体何時からここにいるのだろう」と自然な疑問が湧いてきた。
(あとで知ったことだが、先頭の人は徹夜をして並んでいたらしい。)

列の最後尾は甲子園駅の改札口近くだった。
内野席に入るのは無理かも、との不安が頭をよぎったが、とりあえず並んでみた。先頭は全く見えない。

後ろを振り向くと次から次へと、甲子園駅の改札口から人が掃き出されてくる。30分もしないうちに、最後尾もわからなくなった。

チケット販売が開始してから、徐々に列が動き出した。
7時を過ぎたころには、やっと阪神高速の高架下まで来ることができた。

早朝に「炎天下」という言葉を使ってはいけないような気がするが、周囲の熱気も混じって、まるで炎天下にいる気分だったので、高架下の日陰に入れたことで、少し安堵した。

高架の向こうに見えるのは、甲子園球場。あと少しでチケットが手に入る。そんな状況が不安な気持ちをかき消し、少し興奮していた。

しかし、そんな気持ちに水を差すような、残酷なアナウンスが流れる。

「チケットは後少しで売り切れます!」

「いやいや、そうは言っても大丈夫でしょう!」という、根拠のない自信を抱きつつ、少しずつ列が進み、売り場が近づいて来る。

そしてまた、「チケットは後少しで売り切れます」のアナウンス。
何回もアナウンスするってことはもう少し余裕があるのかな。
そんな楽観的な思考が駆け巡っていた。

そして、その時がきた。

あと5人で、自分の順番。

という時に、チケット売り場のカーテンが一斉に締まった。


「・・・・。」


そして、「内野席当日券の販売は終了しました!」というアナウンス。
後ろに並んでいる人たちが、落胆の声を上げたことで、実感した。

始発乗っても購入できない内野席当日券。

現実は厳しかった。

一緒に始発に乗って来た親子連れが、内野席入口に入って行くのが見えた。
私は諦めて外野席に向かった。


by 酒のみ甘党


editor’s comment
M教授の母校、彦根東高校の甲子園出場にふさわしいお話ありがとうございました!
甲子園の話2、心からお待ちしてます。