高感度エンドトキシン測定法に関する研究


担当研究者
小幡 徹 obatat@belle.shiga-med.ac.jp
清水 智治


エンドトキシンというと何を思い浮かべるでしょうか? じつはこれは身の回りにありふれて存在する細菌(正確にはグラム陰性細菌という種類の表面に ある内毒素と呼ばれる成分です。細菌ですから“からだ”の中に入ると炎症や感染症 を引き起こし、敗血症になってしまいます。 ところが食べ物や飲み物、口内細菌など 考えると,私たちは毎日生きた細菌も含めてものすごく大量のエンドトキシンを食べ ています。 それでも健康な人はそう簡単に敗血症にはなりません。それは腸内にバリ ヤーがあって、食べたものに含まれていてもそれが簡単には腸から血中に取り込まれないようになっています。 しかし、体もいい加減なところがあって、体調などにもよりますが、いくらかは腸から吸収されて血液の中に入りこみます。 幸いなことに、そ のほとんどは肝臓を通るとき分解/無毒化されると言われています。
でもどれくらい体に入るのでしょう?
いままでそれは測ることが出来ませんでした。 その方法(ESP測定法*)を研究・開発しています。実際にこの方法で測ってみると健康な人の血液中には、平均で約0.1pg/mlくらいのエンドトキシンが存在することがわかりました。 1pg(ピコグラム)とは小数点の右にゼロを12個並べたくらい微量な量ですが、0.1pg/mlって細菌にすると何匹くらいでしょう。 成人男性で計算するとおよそ0.5匹/体くらいになります。 体に半匹という表現は、健康な人の通常の細菌感染とその防御のバランスを表していると思われます。 たとえば100匹の細菌が体に入っても,分解/無毒化されて99.5匹は無くなった結果ということです。 実際に敗血症ショックの状態のヒトでは平均で100匹(20pg/ml)くらいの値となり、細菌と防御のバランスが大きく変わっていることがわかります。
単純に考えると、「ではどれくらいに増えたら 敗血症になる?」あるいは「敗血症のヒトがどれくらい下げられたら回復する?」と いう疑問が出てきます。
いままでの方法ではこのレベルのエンドトキシンは測れませんでした。 いま当研究室では、この方法で、治療の指標として使えるこ とを証明して、臨床の現場に持ち込んで使える機器の開発を進めています。
一方、外科の治療も親しい透析治療における透析液中エンドトキシンの測定を検討しています。患者さん一人一回の透析に風呂桶一杯(約150L)の透析液が必要です。 貯めておけませんから、現場で水道水から限外濾過膜や様々な除去フィルターを使ってきれいにして、透析装置に供給しています。 これにエンドトキシンが入っていると,透析膜を通して患者さんに入ってしまう可能性があり、現場での水質管理が重要になります。 これがESP法で簡単に測ることが出来ます。今までの方法(その測定限界が、規制値(1mEU/ml)になっている)では測れなかったところまで測り(ESP法は0.05mEU/mlまで測れる)、 正しくフィルターが働いているのか監視することが出来るようになります。ただ完全にエンドトキシンフリーの状態を作ることは不可能です。 どこまでキレイにしたらいいのか?そのエンドトキシンレベルで患者にどの程度影響が出るのか?などを調べています。これはひいては手術や注射に使う器具の品質管理や、注射薬/医薬品の原材料と製造工程の品質管理にも使われてゆくと思います。
完全にエンドトキシンフリーのモノや状態を作 ることは事実上不可能です。 ヒトは生まれたときから様々な形で多少のエンドトキシンを,食べたり環境から吸い込んだりしながら、自然免疫を獲得してきたと言われています。 体に少しづつ取り込まれるエンドトキシンが、微少な炎症の原因となり、動脈硬化や血栓の発生につながる可能性が指摘されています。 さらに慢性腎炎やリウマチ、易感染性の患者さんの感染や炎症の程度を迅速に評価する方法としても、これから研究を進めてゆくつもりでいます。
当外科教室は,以前よりPMX-DHF開発など敗血症治療を中心としたエンドトキシンに関わる研究を進めてきました。末文になりますが、こんな対象で測れるだろうかという提案を、受け入れています。興味をもたれたら、コンタクトをお取りくださ
い。


ESP測定法*(Endotoxin Scattering Photometry法;エンドトキシン 散乱測光法)
従来臨床検査などでエンドトキシン測定を行っ ています。 その原理は無脊椎動物のカブトガニが、グラム陰性菌の感染に対抗して、血中のAmebocyteというリンパ球に似 た細胞に含まれる成分を使って、エンドトキシンに特異的な反応を起こし、タンパク 質の塊を形成して傷口を塞ぐという現象を利用しています。高等動物のフィブリンの 形成に似ています。当初は、患者血漿を様々に希釈し、その塊(ゲル化)を起こす最大希釈濃度を,エンドトキシン濃度として測っていました(ゲル化法)。 もう少し精密にゲル化過程を測ろうと、濁度変化を目安にゲル化反応速度から濃度を決める方法が作られました(比濁時間法)。 ただこの方法で臨床試料を測っても「結果が出ない」「時間が掛かる」「出た結果で症状の説明が出来ない」という評価が多くなされ、問題になっていました。 その過程を再検討して、「ゲル化を均一に行うため、反応溶液を攪拌する(溶液全体のゲル化が阻止されてしまう。 代わりに小さなゲル粒 子が形成される)」という今までの発想からは出なかった方法で反応を行い、その結果形成されるゲル粒子を、レーザーを当てて生じる散乱光として検出し、エ ンドトキシンの反応速度を測定するようにしたのがESP法です。
もっと詳しく知りたい方は,文献(日本血栓止 血学会誌 20:666-71(2009))を参照してください。


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