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ベトナムにおける心臓血管外科手術への支援

Asai.jpgベトナムホーチミン市にあるチョーライ病院と、平成18年に学術交流協定を結んで以来、医師やコメディカルが相互に行き来して活発な交流を行ってきました。2010年から毎年連続5年、同院の心臓外科を訪れて、心臓血管外科手術の技術指導を行っている浅井 徹教授にお話をうかがいました。(SHIGA IDAI NEWSより抜粋)

チョーライ病院について

ChoRay.jpg国立チョーライ病院は、ベトナムの南部、ホーチミン市に1900年に開設されました。1970年代から日本の国際協力機構(JICA)が支援に乗り出し、技術協力や施設整備が行われてきました。11階建ての現在の病院は、日本の援助によって1 9 7 4 年に建設されたものです。
 ベトナムの北部、中部、南部にそれぞれ置かれている保健省直轄の3大医療機関の一つで、現在の病床数は約1700床、スタッフは約300人、外来患者数は年間100万人に上っています。

IMG_5701.jpg ホーチミン市はベトナム最大の都市で、今もなお地方からの人口流入が続いていることから、ベトナム南部の拠点病院として、地域の小病院からの紹介患者を受け入れたり、毎日非常に多くの患者さんの治療に当たっているほか、教育病院としてベトナム人医学生の実習や専門医教育研修なども行っています。

滋賀医科大学との交流の経緯

IMG_7791.jpg JICA事業による放射線部職員の技術支援等がきっかけとなってチョーライ病院との交流が始まり、2006年2月に当時の吉川隆一学長がチョーライ病院を訪れて、学術交流協定を締結しました。以後、放射線部、看護部、外科学講座などが学術交流を行ってきました。

IMG_2034.jpg 滋賀医科大学では、海外研修生・留 学生支援といった制度によりチョーライ病院から医師や看護師、放射線技師を受け入れて研修を行っています。私の講座でも2 0 1 0 年11月から1 年間、チョーライ病院の心臓外科医Doan Van Phung 医師が心臓血管外科で研修を行い、他の講座でも研修されています。
 滋賀医科大学からも、医師のほか、看護師長が講演及び視察を行ったり、放射線技師も技術指導などをしています。

滋賀医科大学による心臓外科支援

IMG_2106.jpg経済状況の厳しいベトナムで、狭心症に対する心拍動下の冠動脈バイパス手術に対するニーズが激増し、本格的な手術を指導できる日本を代表するエキスパートをチョーライ病院はさがしていました。当時国際交流担当であったHai教授は滋賀医科大学の馬場忠雄学長に相談され、私(浅井)に支援の要請を伝えました。その要請を受け、2010年から毎年同院を訪れて、現地のスタッフとともに心臓血管外科手術を行い、スタッフへの指導に取り組んでいます。

IMG_0225.jpg チョーライ病院の心臓外科では、現場では40歳前後の7 ~ 8 名の心臓外科医が、年間約1000例の手術を行っています。人口1000万をはるかに超えるホーチミン市を含むベトナム南部から患者さんが集まってくるだけあって、初めて同院を訪れた時は、エントランスや待合室にひしめく患者さんや、病室に納まりきれない入院患者さんが、廊下などにあふれているのを見て驚きました。

IMG_0221.jpg 2010年は、大動脈瘤破裂の緊急手術を含む10例ほどの手術を5日間で行い、カンファレンスに参加して意見交換を行いました。次の年は5日間で、重症感染性心内膜炎の僧帽弁形成手術や破裂例に対する 緊急大動脈弓部全置換術、心拍動下バイパス術など、難易度の高い10 例の手術を行いました。

IMG_5690.jpg また、昨年は、チョーライ病院では前例のなかったバチスタ手術(拡張型心筋症に対する左室縮小形成術)を行ったほか、循環器学会にコメンンテーターとして参加して、他病院の専門医らとも交流を図りました。

2013年の滞在について

IMG_7795.jpg 3回目にあたる2013は、木下武医師と、2013年3月17 日から23 日まで滞在し、月曜日から金曜日まで毎朝7時45 分から行われるモーニングカンファレンスに参加して意見交換を行い、自ら執刀したほか、チョーライ病院のスタッフへの指導も含めて1日4~5例の手術に協力しました。

IMG_0273.jpg 1例目はリウマチ性僧帽弁狭窄症の患者さんに対して行った僧帽弁形成術で、人工弁や人工弁輪を使わずに順調に形成術を終えました。また、 高周波アブレーションデバイスや冷凍凝固装置がなくても、電気メスで心房細動に対するメイズ手術が行えることを、実践しながら指導しました。
 2例目は感染性心内膜炎の僧帽弁形成手術、その後、巨大左房腫瘍の緊急手術に対するレクチャーを行いました。2日目以降、リウマチ性心臓弁膜症の僧帽弁形成術や心拍動下バイパス術など、1 日2 例のペースで手術を行いました。

IMG_7859.jpg また、主に第一助手として手術に協力した木下医師は、滋賀医科大学でPhung 医師とともに行った基礎研究の内容と成果についてプレゼンテーションを行い、滋賀医科大学の実績を紹介しました。心臓外科だけでなく病理部部長なども交えて活発な討論を行いました。

制約のある中でベストを尽くす

IMG_1967.jpg毎回、日本から手術機器や消耗品などを持って行くようにしていますが、チョーライ病院にはまだ高額な医療機器や手術用機材のほか、日本では普通に使っている生体糊なども普及していません。

IMG_0279.jpg 心臓の機能を評価する心エコーやスワンガンツカテーテル(心機能を連続的に測定する医療機器)もない中で、難易度の高い心臓手術を安全に行うという、日本と同じ高い目標を持って治療に当たってきました。
 コミュニケーションは英語と片言のベトナム語ですが、英語が堪能でないスタッフも少なくない状況で、目の前にいる患者さんをなんとか救いたい、より良い治療をしたいという思いが共通言語になっていると思います。

IMG_2115.jpg チーム医療で最大限の力を発揮してもらえるよう、向こうのスタッフ一人ひとりの名前を覚えて、パーソナリティもよく理解しておくように心がけています。

意欲的なスタッフ

IMG_2061.jpg現地を訪れるたびに、若い心臓外科医やコメディカルのみなさんの熱意、貪欲に学 び取ろうとする意欲に圧倒されます。ベトナム人心臓外科若手スタッフは、学び取ろうとする真剣なまなざし、何とか伝えようとする姿勢には感動を憶えました。

IMG_5595.jpg 毎回、滋賀医科大学の心臓血管外科チームから若手医師1名が同行していますが、彼らもさまざまな刺激を受け、得るところも多いと思います。今回もリアルタイムにチーム医療の素晴らしさを学んでくれたのではないでしょうか。

IMG_0275.jpg 日本では設備や医療機器など、さまざまな面で充実していることが当たり前になっていますが、外に出てみて改めて気付くことも多いと思います。いろいろな困難を解決してより良い治療を行うためには、やはり人の力、心を一つにして治療に当たることが何より大切であることに気付かされます。

IMG_7939.jpg 現場を離れるとスタッフのみなさんは非常にフレンドリーで、多忙なスケジュールの中、送迎や食事など親切で手厚いもてなしで私達を迎えてくれます。アットホームな雰囲気の中で食事をとりながらミーティングをしたり、和やかな交流を毎回楽しんでいます。

現地での経験を通して学ぶこと

IMG_7890.jpg 設備が整った施設で手術や治療を行っている日常に対して、ベトナムでは毎回、大きな刺激を受けることができます。いろいろ不自由なことがある中で、使えるものはすべて使って、スタッフ全員が本気になって意見を出し合い、患者さんの命を救おうと努力する、いわば医療の原点に立ち返ることができるのが一つの大きな魅力です。

IMG_7928.jpg そして、交流4年目を迎えて、チョーライ病院心臓外科のレベルが確実に上がってきていることを感じます。症例数が多いことも幸いしていますが、例えば当初の技術指導の目的であった、人工心肺を使わない心拍動下冠動脈バイパス手術が行える医師も育っていますし、それ以外の技術の修得も着実に進んでいます。

IMG_8035.jpg 心臓外科チームのチーフになったAnh医師が、先日、神戸で開催されたアジア心臓血管外科国際学会で、私が指導した心筋梗塞による心破裂の新しい治療術式について発表してくれました。チョーライ病院との交流が始まってから4年間で、10 数例の心破裂手術が行われていることからも、彼らの成長に貢献できていると感じています。

IMG_7805.jpg また、一方的に教えるだけでなく、互いに学び合うという姿勢を持ち続けることで、良い関係が構築できると思います。例えば日本ではほとんどなくなってしまったリウマチ性の心臓弁膜症は、ベトナムでは症例数が圧倒的に多く、治療技術を向上させることで、国際舞台でリーダーになるポテンシャルを持っていると思います。左の写真はそのリウマチ性僧帽弁疾患に対する形成術です。日本の若い医師にとっても、数多い症例を経験できる現地での研修は、貴重な経験になるはずです。

IMG_7832.jpg 今後は全体の治療方針の構築をしっかり行って、どうすればより安全に、また、患者さんの負担をより少なくする治療を行えるかといったことを指導していきたいと思っています。
 さらに、若い医師や心臓外科医を目指す人との交流を図ったり、麻酔科医や臨床工学技士などの指導にも協力して、治療レベルの向上に包括的に貢献できるような支援と交流を続けていきたいと考えています。

チョーライ病院訪問を終えて 心臓血管外科 木下 武

IMG_7786.jpg毎朝7時45 分からのカンファレンスでは、術前管理の問題や具体的な手術手技について詳細に渡るまで意見交換を行い、1日2例の担当症例に主に第一助手として参加しました。浅井教授は自らの執刀症例はもちろん、現地スタッフ執刀の症例でも指導を依頼されていたため、僧帽弁形成術や大動脈弁形成術、心拍動下冠動脈バイパス手術はもちろん、急性大動脈解離や冠動脈瘤破裂など、非常に難易度が高い1日4、5例の手術に携わりました。

IMG_7850.jpg 限られた医療材料や経験でも、適切な手術計画と迅速で的確な判断、確実な手技を行うことで、難しい症例においても安全性や再現性の高い手術が可能であることを、手術室のスタッフ全員が実感することができました。確実に5、6時間を要していた手術が、浅井教授なら3時間で終了することを実際に目の当たりにしたことで、大きな驚きと感銘を受けたことが感じられました。英語でのコミュニケーションもスムーズではない、普段と異なる環境でも、何としても患者さんと救うという強靭な精神力と冷静な判断力を備えた浅井教授の「すごさ」を感じられたことが、私にとって最も大きな収穫となりました。

IMG_7864.jpg 3月20 日の朝カンファレンスの後に、2011 年から1年間、チョーライ病院から滋賀医科大学に受け入れたPhung 先生と共に行った研究とその成果、また現在進行している研究も含めて英語で約30 分にわたって紹介する機会を得ました。

IMG_7866.jpg この発表会には病理部部長も参加され、発表後に多くのコメントや質問をいただきました。また、研究に興味を持ち、可能であれば滋賀医科大学に留学してみたいという参加者からの申し入れもありました。

IMG_8333.jpg 年間1000 例以上の心臓手術をこなす多忙なスケジュールの中、私たちの送迎や食事など、早朝から夜遅くまで親切に手厚くもてなしてくださったスタッフのみなさんに心から感謝しています。