
「肺がん」は、現在、日本の中でとても多く見られるがんの一つです。2023年には、新しく約12万4千人が肺がんと診断され、これはすべてのがんの中で第2位の多さです。また、2024年の統計では、肺がんで亡くなった方は年間で約7万5千人を超え、がんによる死亡原因の第1位となっています。【図1】私たちが暮らす滋賀県でも、毎年1,300人前後の方が新しく肺がんと診断されています。【図2】
実は、日本で肺がんと診断された人のうち、実際に手術を受けることができるのは全体の約4割にすぎません。なぜなら、肺がんは初期の段階ではほとんど自覚症状が出ないため、咳や息苦しさを感じて病院に行ったときには、すでに肺がんが進行してしまっていて、手術で取り切るのが難しくなっていることが多いからです。
しかし、もし肺がんを早期発見できれば、手術で治せる可能性がぐっと高まります。そして現代の医学では、患者さんの体にできるだけ負担をかけずにがんを取り除く「低侵襲手術(ていしんしゅうしゅじゅつ)」という治療法が大きく進歩しています。今回は、この「体に優しい肺がんの手術」について、分かりやすくご紹介します。

昔の肺がん手術は、胸の皮膚を20センチメートル以上も切り開き、外科医が目で直接肺を見ながら行う「開胸手術(かいきょうしゅじゅつ)」が一般的でした。この方法はがんを直接確認できる一方で、筋肉や骨、神経に大きな影響を与えるため、術後の痛みが強く、退院までに長い時間を要していました。
そこで、体への負担を減らすために登場したのが「胸腔鏡手術(きょうくうきょうしゅじゅつ)」です。これは、胸に1~2センチメートル程度の小さな穴を数か所あけ、そこから細いカメラや専用の器具を差し込んで、テレビモニターを見ながら行う手術です。傷が非常に小さいため、痛みが少なく、手術の翌日からリハビリを始められるほど、患者さんの回復が早くなりました。
さらに現在、この胸腔鏡手術を進化させた最先端の形として「ロボット支援手術」が広く行われるようになっています。
「ロボットが自動で勝手に手術をするの?」と驚かれるかもしれませんが、そうではありません。手術をするのは、特別なトレーニングを積んだ経験豊富な外科医です。外科医は患者さんから少し離れた操縦席に座り、立体的に見える特別なゴーグルをのぞき込みながら、両手両足のコントローラーを使ってロボットカメラやロボットアームを遠隔操作します。
ロボット支援手術には、これまでの手術と比べて大きく3つの優れたポイントがあります。

低侵襲手術のもう一つは、「取り除く肺の範囲をできるだけ小さくする」という工夫です。人間の肺は、右側が3つの肺葉(はいよう)、左側が2つの肺葉に分かれています。これまでは、がんを取り残さないために、がんがある肺葉を丸ごと一つすべて切り取る「肺葉切除」が標準的な手術でした。しかし、これではがんが小さくても、健康な肺の多くを一緒に切り取ってしまうため、手術の後に息苦しさを感じやすくなるという課題がありました。
現在では、CT検査という画像技術がとても進化し、がんの大きさだけでなく、その「中身の性質(性状)」まで詳細にわかるようになっています。これによって、がんのタイプに合わせて切り取る肺の範囲を最小限にする「縮小手術」が可能になりました。
このように、がんの個性に応じて手術の大きさを決めることで、体への負担をさらに減らすことができるようになっています。


現代の肺がん手術は、「傷を小さくする工夫」と「取る肺を少なくする工夫」の2つのアプローチによって、体に優しいものへと進化しています。
ただし、ここで最も大切なのは、「低侵襲」と「根治性」の両立を目指すことです。いくら傷が小さく、切り取る範囲が狭くても、がんを取り残してしまっては命を救うことができません。外科医は患者さん一人ひとりの状態をしっかりと検査し、最も安全で、最も治る可能性が高いバランスを考え抜いて、最適な手術方法を選んでいます。
そして最後に知っておいてほしいのは、このような「体に優しい最新の手術」を受けられるのは、がんがまだ小さく、他の場所に広がっていない早期発見の段階に限られるということです。どれほど医学やロボット技術が進化しても、早く見つけることができなければ、その恩恵を十分に受けることはできません。
がんを早く見つけるためには、定期的にがん検診を受けることがとても大切です。身近な人と声を掛け合い、毎年検診を受けること。それが、大切な人の命を最新の医療で守るための、一番の近道になるはずです。