さざなみ43(図書館報) 滋賀医科大学附属図書館

  私を育んでくれた師と本

地域生活看護学講座 教授 泊 祐子
 滋賀医大に赴任して4年目を迎える。こちらに来て大学生をみているとよく自分の大学時代を思い出すようになった。特に学生の実習に接していると思い出されることは、成人看護学実習において小島操子先生(現在大阪府立看護大学学長)の臨床指導を受けたときに、机上でよく言われていた「患者の立場になり考える」ということが実践の中に如実に感じとられた。「ああ、こういうことを言っていたのか」と薄皮がはげたような気持ちになったことを覚えている。養護教諭になるつもりで進学した看護系の教育学部であったが、その後幾度か進路の相談に小島先生を煩わせながらも、看護婦になった。
  小島先生の専門の急性期の看護を専門にするつもりであったが、臨床に出た淀川キリスト教病院では、NICUの後小児病棟の配置になった。小児病棟配属の2、3日目に、夜中に「カイジュウガクル」と泣いたと申し送りのあった男の子しんちゃん(この病院では、親の付き添いはない)に与薬をすることになったが、私は嫌がられて飲んでもらえなかった。前からいる看護婦さんだと難なく飲ませることができた。子どもの発達段階から考えて、当然見知らぬ看護婦では嫌がられるのは無理はないが、当時の私は、「何でだろうか、子どもの心がわからない」と、子どもの心がわからないことが不安になった。子どもを理解しなければと思い、児童心理学の古典山下俊郎の『幼児心理学』を何冊か読み、やっと子どもに興味がわくようになった。
  しばらく勤務するうちに、子どもたちや家族の様子が観察できるようになった。喘息児の母親は他の病気の母親と違って、子どものベットサイドに座っていても、自分の子どもよりも周りの子どもや家族の様子をうかがっていることや、自分の子どもが出す要求のサインをキャッチしにくいように思えた。そのことを当時教育婦長をされていた窪田幸子先生(奈良文化女子短期大学教授)に話すと喘息児の親子関係について、親子関係テストなどを使用した研究では、溺愛的養育態度が多いというけれども、現場で感じることとはだいぶ違うでしょうと言われたことで、現場を見ることの大切さを学んだ。窪田先生からは本の紹介や子どもを理解するためのアドバイスなど、私が教育者になるための多くの教えをその後もしていただいた。とても感謝している。窪田先生の言われた親子関係というと らえ方に興味をもち、書店で手にした本が、『親子関係の心理』(大西誠一郎著 金子書房)であった。誰がどのような研究方法で、どのような結果を出しているのかを丹念に説得力よく書いている。そうしているうちにこの領域を専門にする決心がつき、大学院に進学することにした。当時は子どもが好きな訳でもなく、希望した小児病棟ではなかったが、恩師の専門とは違う領域をその後も専門にするきっかけをつくってくれた本との出会いがあった。「さざなみ」の原稿を書きながら、多くの方々や本との出会いが私を育ててくれたと改めて確認した。人や本との出会いを大切にしたい。深く感謝している。
  最後に、もう一人私の教育態度に影響を及ぼした人を紹介しておく。大学院で出会ったイギリスの自由教育の考えをもつ教育者A.S.ニイルである。ニイルの考えから学んだことは、自由と放任の全くの違いである。彼は多くの著書を残しているので、皆さんに読んでいただきたい。彼の一言を付け加えておく。


「どこにも問題の子どもというのはいない、いるのは問題の親である」
ニイル選集より
(とまり ゆうこ)

 




 


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Last updated: 1998/8/17