さざなみ44(図書館報) 滋賀医科大学附属図書館

  私の読書入眠法(不眠症ぎみの学生諸君へ)

生理学第一講座 教授 陣内 皓之祐

 低血圧である私は、日中は眠いのですが、夜は遅くまで起きていることが多く、午前3、4時にな りますと、「翌朝×時に起きなくては」と焦りも手伝って、かえって眠れなくなることがあります。 そんな時のために、読むと眠くなる本を数冊用意しています。今、枕元に置いているのは、道元の「正 法眼蔵」です。解説書も数多く出版されているようですので、これを難解と感じるのは単に私の浅学 非才だけによるものでもなかろうと思っています。平安末期から鎌倉時代の古文に、漢文、それも中 国の禅僧の問答などが混ざっていますので、一頁も読みますと、わからない事が一杯になり、気が付 くと眠っています。
 「正法眼蔵」は面白過ぎて眠れないという方には、メルロー・ポンティの「知覚の現象学」「行動 の構造」などをお勧めしたいと思います。
 学生時代、「脳」とか「意識」などに興味がありましたので、著者が何者であるかなど全く知らな いままに、タイトルに惹かれて買ってしまったのですが、中身は、哲学、心理学の知らない用語が続 いていますし、また、邦訳文であるせいか、一つの文が大変長く、文末まで読むと何が主語だったの かも忘れてしまい、手に負えませんでした。
 たまたま、同級生O君の下宿を訪ねた時(教室では決して会えない人でした)、この本の話をした ところ、幸か不幸か、彼はメルロー・ポンティの愛読者で、大層喜び、「二人で読書会をやろう」と 決めてしまいました。大学紛争当時で、時間はたっぷりありました。 彼に解説してもらいながら数 冊読んだ筈ですが、何が書いてあったかさっぱり覚えていません。今なら少しはわかるかと思って、 ときどき書棚から引っぱり出すのですが、半頁で眠れます。 
 学生時代の貴重な時間を何もわからない読書に費やしてしまったわけですが、全く無駄だったかと いうとそうでもないような気もします。
 内容はともかく、良かったと思える点は、一見してこれはわからないと感じることでも、視点を変 えてよく考えて見ようとする癖がついたこと、また、一見わかり切った事と思われても実はよくわか っていない事が多いことに気付かされ、何でも一応疑って見る癖がついたことなどです。
 これらの癖は、研究には案外役立っているのではないかと思っています。
 生理学の教科書にも、これらに比べて優るとも劣らない名著がたくさんありますので、ご入り用の 方には紹介致します。

(じんない こうのすけ)

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Last updated: 1999/2/16