清水教授からのメッセージ

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滋賀医科大学
耳鼻咽喉科学教室 教授
清水猛史

 耳鼻咽喉科は頭頸部の広範な領域の疾患を担当しています。大きく耳科学、鼻科学、頭頸部腫瘍学の三つに分けることができますが、めまいやアレルギー性鼻炎など内科的治療が中心となる疾患と、中耳炎、副鼻腔炎、頭頸部腫瘍など手術加療が中心となる分野があります。滋賀医科大学では、すべての耳鼻咽喉科・頭頸部外科疾患に対応できる医局員の養成に努めています。しかし、より高度の専門性を追求する目的で、各種の専門外来を開設して対応しています。
臨床
 臨床面での大学病院の役割は、高度先進医療やより専門性の高い医療を通じて、現時点で最高の医療を患者さんに提供することにあります。近年、再建外科における形成外科手技の発展により、これまで手術不能と考えられていた症例にも、根治手術が試みられるようになっています。当教室では症例ごとに慎重に手術適応を考慮した上で、他科とも協力しながら、拡大手術にも積極的に取り組んでいます。

 一方、患者さんの負担を少なくした低侵襲手術や機能を温存したMinimum Invasive Surgery の追求をもうひとつの理念としています。耳科学における聴力改善手術、鼻科学における内視鏡手術、発声機能を温存した喉頭癌手術、保存的な頸部郭清術などに、動注化学療法や放射線療法などを併用しながら取り組んでいます。また、高齢化社会に対応して補聴器外来を開設し、高度先進医療の一つである人工内耳治療も行っています。難聴・めまい外来、喉頭・嚥下外来など以前から定評のある専門外来に加えて、平成16年からはアレルギー外来を新設し、アレルギー性鼻炎患者さんの専門治療にも積極的に取り組んでいます。
教育
 教育面での最も重要な役割は、耳鼻咽喉科医師としての全人的な卒後教育にあります。患者さんがどの病院の耳鼻咽喉科を受診しても、安心して平均レベル以上の十分な医療を受けることができるようにすることが、最大の使命だと考えています。そのため、技術面では側頭骨や鼻副鼻腔のCadaver dissection のシステムにより、医局員の耳科・鼻科手術手技の修得に役立てています。さらに、頭頚部の再建外科に必要な微小血管吻合の技術を学ぶシステムも確立しています。 診療の理念として、現在の医療の目的は患者さんの Quality of Life の向上にあることは言うまでもありません。機能保存をめざしたMinimum Invasive Surgery の追求とInformed Consent の考え方を通して、患者側の視点に立った医師の養成に努めています。
研究
 研究のテーマは、伝統的に難聴・めまいなどの内耳機能や喉頭・音声機能に関する研究が優れています。私自身の研究は上気道の免疫・アレルギーに関するもので、今後は、鼻アレルギーの臨床も含めた気道炎症の研究にも力を入れたいと思っています。
 個々の研究内容については個人の自主性を尊重しますが、常に耳鼻咽喉科領域を超えた一流国際誌への投稿をめざしています。最終的な目標は研究結果を臨床に還元することであり、常にこうした視点を保ちながら研究をすすめることが大事だと考えています。
若い先生方に伝えたいこと

 私は平成16年2月16日付けで滋賀医科大学に着任いたしました。前任地の三重大学を去るにあたって、若い先生方に次の三つのことを話してきました。

 第一に「Do No Harm」ということです。毎年正月になると今年の抱負はどうしようかと思いをめぐらすことが多いと思いますが、私の抱負は医学部を卒業して21年間ずっと同じ「Do No Harm」です。つまり私たちが何かを行った結果、患者さんの状態を悪くするようなことは決してあってはいけないと思っています。こういうことを言うと消極的だと言う批判があるかもしれませんが、これは消極的ということではなく、何かする以上100%成功するだけの準備を尽くせという意味です。たとえ99%の成功率でも患者さんにとって、残りの1%に入ってしまえば成功率は関係ありません。私たちには、患者さんの状態を悪くしてはならない宿命があると思っています。

 二番目は「看護記録を愛読する」ことです。インフォームドコンセントということがよく言われていますが、看護記録を読むと実際は説明とか説得だけでは十分伝わっていないことに気づかされます。特に根本治療が望めないときなど、ベッドサイドに座っていると患者さんは自分の生涯についていろいろ話してくれます。患者さん一人一人がそれぞれの長い人生を背負っていることに気づかされ、私たち自身が謙虚な気持ちになるとともに、患者さんにとっても自分のバックグラウンドを聞いてもらえたというだけで、安心して信頼してもらえることも多いようです。

 三番目は研究姿勢についてです。研究というと、自分の有している技術で何ができるかを考え、あまりつながりのない論文をいくつも作成することはありがちです。しかし、本来の研究は、目的をはっきりさせた上で仮説を立て、その解明のために何を行えば良いか考えるものです。手段や技術から研究を選ぶのではなく、目的を見すえた「大河小説のようなストーリー性のある研究」が理想です。実際は小論文程度のものしかできないのが現状ですが、目標は高く持って、数年に1編でいいから質の高いストーリー性のある論文を書くことを目指していきたいと思っています。

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