Yuji Ozeki, Toshifumi Tomoda, John Kleiderlein, Atsushi Kamiya,
Lyuda Bord, Kumiko Fujii, Masako Okawa, Naoto Yamada,
Mary E. Hatten, Solomon H. Snyder, Christopher A. Ross, Akira Sawa |
Disrupted-in-Schizophrenia-1(DISC-1) : Mutant truncation prevents binding to NudE-like(NUDEL)and inhibits neurite outgrowth. |
Proc Natl Acad Sci U S A. 2003;100(1):289-294
PMID: 12506198
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変異により切断されたDisrupted-in-Schizophrenia-1(DISC-1)は NudE-like(NUDEL)と結合できず、神経突起の伸長を阻害する |
【要旨】 統合失調症(精神分裂病)の原因を解明し、治療法や予防法を確立することは、精神医学の大きな目標の一つです。過去数十年にわたって、 この困難な疾患に多くの研究者が挑戦を続けてきた結果、この病気に関するたくさんの情報が積み重なってきています。 しかし残念ながら、現在のところまだ疾患の原因を解明するに至っていません。我々はこうした問題を解決するために、研究を続けています。
今回の研究はDISC1といたんぱく質の働きを調べたものです。スコットランドのある家系の人たちは、 DISC1というたんぱく質を作るための遺伝情報が壊れていて、異常なDISC1しか作ることができないと予測されていたのですが、 この異常をもっている人は、統合失調症にかかりやすかったのです。このたんぱく質の働きは未知のものであったので、 このたんぱく質の働きを調べれば、統合失調症の原因を明らかにする情報を得ることができるのではないかと考えて、研究を始めました。
研究の結果、ネズミ(ラット)の脳では、このたんぱく質は胎児期や幼少期に多く作られていること、 細胞の移動や形態と関連するいくつかのたんぱく質(NUDELなど)と結合すること、 さらには神経細胞に似た突起を伸ばす培養細胞の中に患者さんと同じ異常なDISC1を作らせると、突起の成長がおきにくくなることを見つけました。こうした結果から、DISC1というたんぱく質は、脳などの神経の発達に関係があるとの推測をしました。上で述べたとおり、 これまでに統合失調症に関する多くの情報が集まってきています。その情報によると、統合失調症になる原因は胎児から出産の頃にすでにあって、 その正体は、神経の発達の軽い障害であると考えられていますが(神経発達障害仮説といいます)、 未知のたんぱく質であったDISC1の働きを調べた我々の研究は、この神経発達障害仮説と矛盾しない内容です。 それどころか、DISC1はこれまで実際にはどのようなメカニズムになっているのか明らかでなかった神経発達障害仮説を、 初めて具体的に説明するタンパク質のひとつである可能性が高まったのです。
我々は今後もこのたんぱく質の働きを詳しく調べることが、統合失調症の原因を探る上で重要であると考えています。 また同時に、患者さんにご協力をいただきながら、第二、第三のDISC1を探す努力を開始しています。
文責 精神科神経科 尾関 祐二 |
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