Hideto Kojima, Mineko Fujimiya, Kazuhiro Matsumura, Tamio Nakahara, Manami Hara, Lawrence Chan |
Extrapancreatic insulin-producing cells in multiple organs in diabetes |
Proc Natl Acad Sci U S A. 2004;101(8):2458-2463
PMID: 14983031
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糖尿病では膵臓外の多臓器にインスリン産生細胞が出現する |
【要旨】 正常ではインスリンを産生する細胞は膵臓のランゲルハンス島と胸腺に限られる。膵臓で作られるインスリンは血糖値のコントロールならびにエネルギーの安定供給に不可欠である。一方、胸腺からのインスリンはインスリンを自己抗原とする抗体産生を抑制するためと考えられている。他の臓器からインスリンが産生されるなどということは、腫瘍ででもない限り常識的にはあり得ないこととされてきた。
しかし、驚いたことに、動物を糖尿病状態にするだけで、インスリンの遺伝子ならびタンパク質が肝臓、脂肪組織、脾臓、骨髄など多くの臓器内にある細胞から産生されることを見いだした。この現象は見つけた我々自身にも容易には受け入れられなかった。それも、あろうことか糖尿病で出現するなど、全く想像していなかった。
この現象が普遍的なものか否かを明らかにするために、発症原因の異なる糖尿病病態、さらに動物種を変えて確認したが、同様に認められた。また、詳細な組織学的検討ならびに遺伝子発現状態の解析の結果、インスリンを産生している細胞は骨髄由来の細胞である可能性が高いことが判明し、なぜ多臓器に出現するのかという謎が解けてきた。このことを明らかにするために、正常マウスにX線照射を行い、蛍光色を発するトランスジェーニックマウスの骨髄を移植した後、糖尿病を作成して、多臓器でインスリンを産生する細胞が骨髄由来か否かを検討した。予想通り、糖尿病動物では高血糖が刺激となって、骨髄でインスリンを産生する細胞が作り出され、肝臓や脂肪組織に侵入したものであった。しかも、この細胞はインスリンを産生するものの、その大部分が血糖を下げる作用をほとんど持たない未熟なホルモンであるプロインスリンであり、グルカゴン、ソマトスタチン、PPなど他の膵ホルモンを同時に産生する特異な特徴を有していた。
インスリン産生細胞はいったい何のために糖尿病動物の骨髄に出現し多臓器内へ侵入してゆくのか、さらに、この細胞を糖尿病治療に応用できないかなど、今後多くの検討課題が残っている。
文責 放射線基礎医学講座 小島 秀人 |