2012年1月18日 更新 |
Takeshi Kinoshita, Tohru Asai, Tomoaki Suzuki, Atsushi Kambara, Keiji Matsubayashi. |
Off-pump bilateral versus single skeletonized internal thoracic artery grafting in high-risk patients. |
Circulation. 2011;124:S130-4. PMID: 21911802 |
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高リスク症例に対する両側内胸動脈バイパスの生命予後改善効果は術後早期から出現する |
冠動脈バイパス術は、冠動脈狭窄病変の末梢側にバイパス血管を吻合することで心筋虚血を解除する。1960年代に誕生以来、様々な検証の中で強力な生命予後改善と心筋梗塞予防効果を持つことが証明されてきた。当初は大伏在静脈のみを用いてバイパスを行っていたが、1980年代に内胸動脈の優れた長期開存性に基づく良好な生命予後が示されてからは、内胸動脈を最も還流域が広い左前下行枝にバイパスすることは必須の術式となった。その後、対側の内胸動脈も同時に用いることの付加価値が検証された結果、両側内胸動脈バイパスのさらなる生命予後改善効果が示されたが、その効果の出現には術後10年近い時間を要することも明らかになった。そのため両側内胸動脈バイパスは高齢者や合併疾患の多い高リスク症例に対しては敬遠される傾向があった。しかし、これまでの検証で対象となったのは、若年で合併症が少ない低リスク症例であり、高リスク化する現代の冠動脈疾患患者を反映しているとは言い難かった。そこで我々は過去10年に滋賀医科大学で単独冠動脈バイパス術手術を施行した患者から術前因子から高リスク症例を抽出、群間に存在する患者選択バイアスを傾向スコアマッチング法にて調整したのち、両側内胸動脈バイパスの安全性と遠隔成績を片側内胸動脈バイパスとの比較で検証した。その結果、高リスク症例において両側内胸動脈バイパスは術後2、3年の比較的早期から生存率、心イベント回避率を改善することが証明された。本研究の意義は、高リスク症例では両側内胸動脈バイパスの生命予後改善効果を術後早期から認めた点にあり、患者の高リスク化が著しい現代の冠動脈疾患の治療戦略に大きな影響を与え得る。
文責 心臓血管外科 木下 武
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