ハワイ在住の日系アメリカ人男性を対象とした調査で、パーキンソン病の発症とミルクの摂取量に関連があることがわかった。またこの関連は非喫煙者に限って認められた。本研究結果は、Time、NBC News、U.S.Newsなどを通じて全米で報道されている。
対象となったハワイ住民は1960年代に40〜70歳位であり、2000年前後に死体解剖を受けている。1980年代初頭にハワイで供給されたミルクには有機塩素系農薬であるヘプタクロルエポキサイドが混入していたと報道されており、本研究対象者は少なくとも当該時期には汚染されたミルクを摂取していた可能性がある。
死体解剖を受けた449名の黒質(中脳の一部で、ここから放出されるドパミンの量が不十分になるとパーキンソン病を発症すると考えられている)の神経細胞密度、および脳内に残存するヘプタクロルエポキサイドを検査し解析を行ったところ、非喫煙者では、ミルクの1日摂取量が16オンス(約470ml)を超える者の黒質神経細胞密度が有意に低かった。また非喫煙者では、ミルク摂取量が多くなるに従いパーキンソン病発症率が上昇し、ヘプタクロルエポキサイドが検出される割合も高かった。
パーキンソン病やレビー小体型認知症では、黒質神経細胞の変性があることは定説である。本研究では、パーキンソン病およびレビー小体型認知症であると診断された対象者を除外した上でのミルク摂取による黒質神経細胞密度の変化率(1日のミルク摂取量16オンス以下を基準として16オンス超を比較)も解析した。その結果、非喫煙者ではミルク16オンス/日超を摂取すると黒質神経細胞が有意に減少することが示された。
喫煙経験者では上記のような関連は認めなかった。
本研究により、ミルク摂取と関連して、臨床的なパーキンソン症状に先行して黒質神経細胞の減少が起こりえることがわかった。この機序としてヘプタクロルエポキサイドの影響が示唆されるが、喫煙の神経保護効果と合わせて、今後さらなる研究・熟考を要する。
文責 アジア疫学研究センター Robert D. Abbott、 社会医学講座(公衆衛生学部門) 伊藤 隆洋 |