滋賀医科大学 理事(教育・学生支援・コンプライアンス担当)・副学長 松浦 博
滋賀医科大学 情報総合センター教授・医療情報部長・マルチメディアセンター長 芦原 貴司

 

人工知能(AI)に基づく自然言語処理により、様々な質問や会話において、かなり 人間味のある自然な対話が成立するようになり、漠然とした難しい質問にも、もっともらしく回答できるシステムが登場しました。こうしたシステムは、学習済みデータ をもとに新たなコンテンツを生成するAI ということで「生成AI」と呼ばれています。画像を扱う生成AI もあります。現在、類似・競合サービスが20 以上もあり、そのうち最も有名なものが、米国のOpenAI 社が開発し2022年11月30日に公開したChatGPTです。その後もたびたび改良・バージョンアップされており、進化を続けています。 この生成AI に対する本学の基本姿勢は、その利活用を禁じるものではなく、むしろ有効に利活用されることを推奨するものです。しかし、その教育現場(大学における研究等への利活用を含む)については、
 ① 思考力・創造性・独創性への影響
 ② 個人情報・機密情報の漏えい
 ③ 著作権侵害
などのリスクに係る懸念が示されています。本学の学生(大学院生を含む)の皆さん、ならびに学生教育に関わるすべての教職員の皆さんは、以下の事柄に留意するように心掛けてください。
実際、新しい医学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度版)には、医師として求められる基本的な資質・能力の1 つには、「情報・科学技術を活かす能力(Information Technology):発展し続ける情報化社会を理解し、人工知能等の情報・科学技術を活用しながら、医学研究・医療を実践する」が挙げられ、「看護学教育モデル・コア・カリキュラム」(平成29 年度版)においても、情報リテラシーの修得が学修目標に掲げられています。つまり、生成AI の利活用を禁じたり差し控えたりするのではなく、むしろ情報リテラシーを向上させることで、そうした新しい情報・科学技術を十分に使いこなせるようにすることが大切です。

1. レポート課題等への使用について

レポート・課題提出において、生成AIによる生成物をそのまま自己の成果物として提出することは適切でないと考えられるため、本学では禁止します。学生の皆さんに課されるレポートというものは、課題に対する現在の認識を調査・確認し、それに対する自身の見解を記述してもらう作業です。この作業過程を通して、情報収集能力、論理的思考力、課題発見・解決能力、独創性などを育み、知識の統合を行うことがで きます。しかし、レポート本来の目的である論理的思考力等の育成に係る部分を生成AIに頼ってしまうと、自身のためになりません。もちろん、各自でレポートをまとめた後に、足りない視点を見つけるために活用することまで禁じるものではありません。ただ、その際にも情報の真偽を確かめるプロセスは非常に重要です。生成AIで示された情報を用いる際には、教科書等の成書を含む別のソースで情報の真偽を確かめる、いわゆるファクトチェックを常に行うという基本姿勢をぜひ⾝に付けてください。

2. 個人情報や機密情報の漏えいについて

ChatGPT等の生成AIに患者個人情報や業務で知り得た機密情報等を入力することは厳禁です。生成AIは、利用者が入力した大量のデータを学習して、新たな回答に用いるようになります。そのため、個人情報や機密情報を含んだ文章を入力してしま うと、学習用のデータとしてサーバに保存され、他の利用者に向けた回答に、その個人情報や機密情報を含んだ内容が表示されてしまうことがあるのです。生成AIに限らず、インターネット上に一度保存された情報は完全に消し去ることができないという情報の特性についても認識する必要があります。
人間の目で匿名化されていると判断された情報でも、AIは容易に他の情報と紐付けることができるため、個人情報となるリスクもあります。生成AIの学習データは原則非公開のことが多いため、漏えいした情報を追うことができず、それを取り消す(回収する)こともできません。また、AI が生成した回答に、個人情報や機密情報と思われる情報が含まれている場合には、その回答を利用しないでください。漏えい情報のさらなる拡散につながります。生成AI のなかには、入力した情報を機械学習に利用されないようにする設定が用意されていることがありますが、その場合でも、情報漏えいのリスクが残るとの認識が必要です。

3. 著作権侵害について

生成AIは、ゼロからまったく新しい情報を生み出すものではありません。その生成物は、すべて機械学習に用いられた大量の過去データ、もしくは新たに入力された情報をもとに生成されるものであるため、その学習データに著作権が保護された情報が一部でも含まれていると、著作権侵害となるリスクがあります。
実際、ChatGPTの出力に著作権で保護された情報が含まれていたことも多数確認さ れており、それをそのまま用いてしまうことは著作権侵害に加担したことになります。この観点からも、生成AIが生成した文章や画像等の情報を、そのまま公表(教員等へのレポート提出を含む)することは、本学では禁止します。

繰り返しになりますが、学生の皆さんが生成AI 等の新たな技術に慣れ親しむことはとても大切ですが、それと同時にさまざまな課題や問題点についてもしっかりと学び、認識することが何よりも重要です。教育現場における生成AI の利活用に向けた理解には、文部科学省「「初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン」の作成について(通知)」(*1)や、国立大学協会「生成AI の利活 用に関する国立大学協会会長コメント」(*2)等も公表されましたので、ぜひ参考にしてください。なお、本指針は今後の情勢の変化に合わせて随時変更する予定です。
*1 https://www.mext.go.jp/content/20230704-mxt_shuukyo02-000003278_003.pdf
*2 https://www.janu.jp/wp/wp-content/uploads/2023/05/3210c7acc3d0a978c5f75eab54bc490b.pdf