令和2年4月1日
滋賀医科大学長 上本 伸二(うえもと しんじ)

令和2年4月1日付で、塩田浩平前学長の後任として滋賀医科大学の学長に就任いたしました。これまで築き上げてこられました歴史と伝統を踏まえて、滋賀医科大学のさらなる発展に教職員の皆さんとともに取り組んでまいりたいと思います。

まず重要なのは現在の滋賀医科大学の立ち位置の認識を共有することですが、2004年から始まりました国立大学法人化の厳しい環境の中、全国の多くの国立大学が運営費交付金の持続的減額で四苦八苦している中で、滋賀医科大学は機能強化経費の獲得を維持することで、運営費交付金の減額をできるだけ抑制して、大学の活動を維持してこられたことは高く評価されます。また、教職員の頑張りによって附属病院の活動と経営状況は比較的順調であり、教職員数の増加もあって大学附属病院としての高度医療の提供という社会貢献を継続していることも高く評価されます。
一方で、今後も続く厳しい環境を確実に乗り切り、さらなる滋賀医科大学の発展のためには新たに取り組むことが多くあります。しかしながら、世界中が新型コロナウイルス感染の脅威に晒されている状況の中においては、滋賀医科大学としてまずはこの脅威を乗り切ることが最も重要であります。情報収集に努め、滋賀医科大学の教職員の皆さんのこれまでの英知をフル活用して学生の教育と患者さんの診療に対してはできるだけ支障がないように、かつ安全に進めていきたいと思います。

さて、滋賀医科大学のさらなる発展のために必要なのは、滋賀県の医療においてリーダーシップを発揮することと医学研究において全体的な底上げをすることの2つが重要であると考えております。医療におけるリーダーシップのためには、人口当たりの医師数が近畿の中で最も少ない滋賀県において、これまで以上に多くの滋賀医科大学卒業生を滋賀医科大学と関連病院でキャリアアップさせることが具体的な目標になります。そのためには関連病院と連携した卒後教育の充実、滋賀医科大学における高度医療のさらなる発展がポイントになります。つまり若い医師から見て自分を高めてくれる魅力ある環境作りが大切であり、その方向を目指すことで、結果的にわれわれ自らのレベルアップにもつながります。その流れの中では、県内のマグネットホスピタルへ滋賀医科大学からの優秀な中堅医師を派遣することで新たなキャリアアップ環境を作り上げることへのチャレンジも進めたいと思います。

また、全国的な女性医師の増加の中で滋賀医科大学は特に女性医師が多い利点を生かして、すでに大学においては女性医師に配慮した職場環境の改善が全国に先駆けて進められていますが、この取り組みを関連病院へも展開することで、滋賀県全体の女性医師キャリアアップ支援の充実が、滋賀県というスケールでの地域医療構想において大きなアドバンテージになると思います。さらに、滋賀医科大学の看護教育で推進されております訪問看護師コース、看護師特定行為研修も加わり、滋賀県民への社会貢献という大きな目標の中で滋賀医科大学の強いリーダーシップが近い将来目に見えることを期待しております。
初期研修の後の新しい専攻医育成制度が開始されて3年目になりますが、幸いにも滋賀医科大学卒業生だけでなく、学外からの採用者も併せて年間60名近くの専攻医が滋賀医科大学プログラムの中でキャリアアップに励んでおります。滋賀県においては多くの診療科において専攻医募集シーリングが無いというアドバンテージはありますが、やはり皆さんのこれまでの地道な努力が実を結び始めている成果でありますので、滋賀県の医療における滋賀医科大学のプレゼンスをより大きくするために、一層の前向きな取り組みを進めていきましょう。

滋賀医科大学においては神経難病研究センターでのアルツハイマー病に対する国際的なリーダーとしての先進的な研究、遺伝子改変カニクイザルを有する動物生命科学研究センターでの特色ある研究が展開され、研究面での評価だけでなく機能強化経費の持続的獲得を通して運営費交付金の維持に大きく貢献してこられました。今後も両センターは滋賀医科大学の顔として研究を引っ張っていかれることが期待され、まさに選択と集中のコンセプトが実った成果であります。一方で、選択と集中というコンセプトは永続的に優秀な医療人を育成することが大前提の医科大学にとっては両剣の刃であり、限定された領域のみに依存しているとこれからの社会環境の変化に翻弄される危険性をはらんでいます。つまり、全体的に高いレベルの研究活動の上での選択と集中が大学という公共施設におけるあるべき姿だと考えております。滋賀医科大学の研究活動を評価する指標は種々ありますが、外部資金の獲得状況、より具体的には教員1人当たりの外部資金獲得状況から評価しますと全国の国立大学の中間位であります。決して悪くないのですが、今後の不透明な国立大学法人の運営を考えますと、また昨年度からの国立大学法人に対する評価指標において外部資金獲得のウェイトが大きくなったことを考えますと、研究活動を活発にすることが本来の目的ではありますが、外部資金獲得の増加を目指すことは妥当であると思います。まずは今年度の科学研究費の申請において100%申請を目指し、個々の教員への働きかけとともに科研費申請をサポートするURAの機能強化に取り組みたいと思います。そして、研究活動を活発にするという本来の目的達成のためには、研究に専念する大学院生の増加が不可欠であると考えております。特に臨床の講座においては診療でクタクタに疲れた状態での研究では無理があり、研究に没頭できる若い大学院生と指導教員との日々のディスカッションの上に斬新な研究は展開されるものだと思います。また、研究に邁進し、国際的にも活躍する大学院生や中堅医師の存在は滋賀医科大学の大きな魅力として学生や若手医師の目に映り、若手医師のリクルートにも大きく影響し、近い将来にポジティブな循環形成ができる状況になることを期待しております。

それ以外にも、4年後実施に迫った働き方改革に向けての取り組み、グローバルな教育と研究の推進、コンプライアンスの強化、などの行動目標がありますが、いずれにおいても上からの押し付けではなく、あるべき姿の追求として滋賀医科大学の教職員も納得の上で前向きに取り組んでほしいと思います。そういう意味でも滋賀医科大学という組織のガバナンスのありようは極めて重要でありまして、トップダウンとボトムアップのバランス、及び両者におけるアカウンタビリティーが組織運営のキーだと考えております。そして各講座や分野の代表者である教授で構成される教授会の役割が改めて重要であり、そこでの利害関係を離れた前向きな議論、忖度のない現実的な議論が基盤となって、それを踏まえて執行部との議論が展開され、正しい舵取りの上で滋賀医科大学の発展につなげていきたいと考えております。

最後に、「サスティナブルでアトラクティブな滋賀医科大学」、というメッセージを伝えたいと思います。楽しくなければやる気は起りません。将来が不安だとやる気は起りません。前向きになれる、明るく透明な環境の中で、よりよい滋賀医科大学を作り上げましょう。