新年明けましておめでとうございます。新年を迎えるにあたり、ご挨拶を申し上げる前に、まずは令和6年1月1日に発生した令和6年能登半島地震において、犠牲となられた方々に深く哀悼の意を表するとともに、被災された方々に、心よりお見舞い申し上げます。現在も懸命の救出作業が進められており、本学附属病院からも1月3日の夜にDMATが出動いたしました。出動されました教職員の皆さんにおかれましては、被災者の健康管理に尽力されますが、くれぐれも安全に任務を遂行されることを祈念いたしております。

さて、今年度最大の懸念事項は、わが国における経済状態の悪化、具体的には円安の進行と国際紛争の影響を受けた輸入品価格の高騰でした。すなわち、物価上昇による光熱費と建設材料費の増加が、本学の財政に及ぼす悪影響を懸念したところでしたが、光熱費が予想していたよりも上昇せず、現在進行中の建設材料費の上昇は施設課の粘り強い折衝で最小限に収めることができました。

そして、もう一つの懸念事項は、新型コロナウイルス感染症による影響に関することで、ポストコロナの状況下において、国や自治体からの補助金が減少したことによる病院経営の問題です。コロナ禍では、医療機関への通院・治療などに関する患者さんの意識を大きく変化させた可能性があり、その影響で診療活動が低迷し、経営難に陥る病院が増加する中で、本学医学部附属病院は早期に経営状況を回復しました。特に診療活動に重要な、診療単価、手術件数および救急搬送受入れ件数が顕著に上昇・増加傾向にあり、病院経営における将来の展望も良好です。

また、今年度当初は厳しい財政予測でしたので、研究支援の予算を極限に抑え、老朽化した設備改修も控えておりましたが、財務状況が好転したことにより、設備の改修を復活させ、特に学生の課外活動において重要度の高いグラウンド整備を行うことといたしました。このように最大の懸案事項であった財政の健全性の維持は、今年度は問題なく乗り越えることができそうですが、国全体の経済状況は未だ回復の兆しがありません。引き続き、社会情勢を注視しながら本学の運営に取り組んでまいります。

一方、人材育成では、専攻医のリクルートについて、今年度は56人と前年度比で少し低下しましたが、来年度はこれまでで最も多い70人の予定です。将来の滋賀県の医療と本学の教育・研究を担う人材ですので、非常に喜ばしく思います。この成果は、臨床医学系の各講座の充実した診療活動、関連病院と協働した丁寧な卒後教育、きめ細やかな卒前教育と学生や初期研修医へのアピール、そして医師臨床教育センターの努力の賜物です。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

ところで、本学ではこの度、令和6年4月から大学院医学系研究科に看護学専攻博士課程を設置することが、文部科学省により認められました。これまでは、本学の修士課程看護学専攻の修了者が県外の大学院博士課程に進学し、優秀な教員や看護師のリーダーとして全国で活躍されておられましたが、これからは、本学で看護学の博士取得が可能となります。これまで苦労していた修士課程の定員充足にも良い影響が予想され、滋賀県で活躍する医療人の育成に、本学がさらなる貢献ができることを期待しています。

さらに、研究活動も活発に進められております。研究内容自体の評価ではなく恐縮ですが、研究における外部資金の獲得状況で研究活動の一面を評価しておりますので、その点はどうかご理解ください。科学研究費助成事業(科研費)などの競争的資金を含む外部資金の獲得状況は、昨年度にこれまでの最高額の19億円を超えましたが、今年度も9月末時点で18億円近くになり、順調に推移しています。特に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の事業に採択された、カニクイザルでのワクチン開発支援は高く評価されており、国産初の新型コロナウイルスRNAワクチン作成に繋がりました。

以上のように、学長の立場から見た本学は、教育・研究・診療・大学運営における重要項目の進捗状況が良好ですが、教職員の皆さんにとっては、それぞれの職場におけるやりがいと個々の目標達成、そして楽しい気持ちで業務が遂行できる環境が、何より大切であると考えます。そのような環境の基本は、組織の透明性、コンプライアンスの遵守、相互の尊重、良好なコミュニケーションの4点です。そして、それらを統合して作り出されるものが、いわゆる「心理的安全性」が確保された環境であると思います。職場の構成員のみなさんが、自分の素直な意見を述べることができ、日々の業務を楽しく行うとともに、前向きに業務改善を行うことができる職場が理想です。もちろん、職場での礼儀は必要であり、言葉の使い方を選ぶことは重要ですが、その前提の上で、構成員全員が相手の立場を尊重しながら自分の意見を言えることが最も大切であり、そのことがみなさん個人の成長に繋がり、同時に多様な意見を基に議論を行うことで組織の発展に繋がるものであることと、信じております。本年も、働きやすく、働き甲斐のある職場環境の推進を皆さんにお願いいたします。

最後になりますが、今年は開学50周年の記念の年です。すでに皆さんから多くの寄附金もいただき、記念事業の準備を進めています。日々の業務でお忙しいこととは思いますが、県内を巡回する市民公開講座や、10月に開催する記念式典に多くの皆さんのご参加をお願いしたいと思います。

今年も何卒よろしくお願い申し上げます。                           

令和6年1月4日
国立大学法人滋賀医科大学長 上本 伸二