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研究トピックス●コリンアセチル基転移酵素の新規スプライス異型 (pChAT)の発現
近年、我々は神経遺伝子解析分野と共同して末梢神経系に優位に発現しているコリンアセチル基転移酵素の新規スプライスバリアント(pChAT)を発見し(Tooyama and Kimura) (1)、神経細胞動態分野を加えた共同研究グループを組織して精力的に研究を進めている。pChATは翼口蓋神経節から同定されたChATのサブタイプで、小さなタイプをpChAT1 (ChAT of a peripheral type-1)、大きなものをpChAT2と命名した。pChAT1はChAT遺伝子のエクソン6, 7, 8, 9 を, pChAT2 はエクソン7と8を欠いている。両pChATともにフレームシフトはなく、酵素活性に重要な領域はすべて保存されている。pChAT1抗体を作製しこの抗体を用いて免疫染色をしてみると、脳のコリン神経はほとんど検出されず、翼口蓋神経節や 腸管神経節などで末梢のコリン神経と思われる細胞体や神経線維が検出された(2, 3)。
以上の結果はpChATが末梢優位に発現することを示唆しているが、今年度はこれまでの成果をさらに発展させ、腸管コリン神経系におけるpChAT陽性細胞の分析を進めると共に、一部の中枢神経系においてもpChAT発現神経細胞集団が存在する ことを見い出し、新しいコリン神経系の分布を明らかにした。1)腸管神経系における2種類のコリンアセチル基転移酵素ChATの分布
様式4)2)ラット視床下部・隆起乳頭体核におけるpChATの局在(5)
これまで、pChATは主に末梢の副交感神経や腸管神経に優位に発現することを報告してきた。しかし最近、我々はラットの後部視床下部・隆起乳頭体核にpChAT陽性神経細胞が局在することを見い出し報告した。TMN神経はヒスタミンやアデノ シンデアミネース(ADA)を含有し脳内に広く投射して、覚醒や学習などの高次機能に関わっていることが知られている。本研究では、ヒスタミン合成酵素HDCやアデノシンデアミネースADAとの2重染色(図1)によりpChAT陽性細胞の解析を行う とともに、逆行性トレーサーとの2重標識により、これらpChAT陽性神経の大脳皮質への投射を明らかにした。また、RT-PCRを用いて後部視床下部におけるpChAT mRNAの発現を確認した。以上の結果は、脳内における新しいコリン投射系の存在を示唆するものとして重要である。BR>
図1. 共焦点レーザー顕微鏡写真。隆起乳頭体核におけるpChAT陽性神経細胞 (緑色)
(A)、ADA 陽性神経細胞(赤色)(B)およびA,Bの合成像 (C)。殆どのpChAT
陽性細胞はADAを含有する(黄色:共存細胞)。
3)コリン作動性・網膜神経節細胞の証明(6)
中枢神経の一部である網膜においては、アマクリン細胞がコリン作動性であることがほぼ確立している。一方、網膜神経節細胞は一般にコリン作動性とは考えられていない。今回、pChAT免疫組織化学によって、ラット網膜に pChAT陽性の神経節細胞が分布することを明らかにした(図2)。さらに、逆行性トレーサーとの2重標識、ウェスタン・ブロット法、RT-PCR法、網膜と視神経を用いたChAT酵素活性測定等により、一部の網膜神経節細胞がコリン作動性であることを、 形態学的・生化学的に証明した。 pChATの発現は明暗の条件によって変化した。したがって、一次視覚情報の伝達においてコリン作動性のメカニズムが何らかの生理的役割を果たすことが示唆された。
図2. ラット網膜におけるpChAT陽性細胞。A:弱拡大、B: 強拡大。
参考文献その他の研究トピックスの課題名
中枢および末梢神経系における酸性線維芽細胞成長因子 (aFGF) 。
新生児期の一側性大脳皮質障害における皮質脊髄路の再構築。
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