呼吸器内科には、患者さんが咳、痰、発熱、呼吸困難、胸痛といった症状を訴えて受診されます。
呼吸器内科を受診する患者さんは、気管支炎・肺炎・肺結核に代表される感染症、COPDや喘息といった閉塞性肺疾患、肺癌に代表される悪性疾患、間質性肺炎に代表されるびまん性肺疾患などを罹患されています。
このような疾患を持つ患者さんに対し、症状、喫煙歴や職業歴を含めた問診、胸部聴診などの身体所見、血液検査、動脈血ガス分析、呼吸機能検査などの生理学的検査、胸部単純レントゲンやCTなどの放射線学的検査、内視鏡検査を主に組み合わせて評価を行い、病態を明らかにしていきます。
その上で、感染症に対しては適切な抗生剤を使用し、閉塞性肺疾患に対しては吸入剤などを用いて治療を行います。膠原病に合併する間質性肺炎ではステロイドや免疫抑制剤を用いた治療に当たります。また、呼吸障害のある患者さんには、酸素吸入や非侵襲的陽圧換気などを導入します。
近年、従来では予後不良であった進行期肺癌において、免疫チェックポイント阻害剤やEGFRチロシンキナーゼ阻害剤などが治療に導入され、飛躍的に治療成績が向上しました。また、有効な治療法がなかった特発性間質性肺炎においても抗線維化薬による治療が行われるようになり、呼吸機能の悪化を遅延することが可能になってきました。このように、呼吸器疾患の治療は目覚ましい進歩を遂げています。
70代男性 肺扁平上皮癌 (Tumour proportion scores 80%) カルボプラチン、nab-パクリタキセル、ペムブロリズマブ併用化学療法を4コース施行し、原発巣、縦隔リンパ節が縮小した
しかし、呼吸器疾患には未だ完治できない病態が多数残されており、残念ながら呼吸不全に至り亡くなられる患者さんも未だ多数いらっしゃいます。このような患者さんに対しても、苦痛を取り除くような治療・対応を行っています。
このように、呼吸器内科ではプライマリケアから集中治療、癌治療、終末期ケアに至るまで幅広く、非常に ”内科的” な診療を行っています。
呼吸器内科で日常診療のために行う検査や手技には以下のようなものがあります。
1) 胸部レントゲン写真、胸部CT、FDG-PETなどの画像検査
2) 呼吸機能検査
3) 血液検査
4) 呼吸器内視鏡検査(気管支鏡検査)
5) 局所麻酔下胸腔鏡検査
世の中で問題となる病気には変遷があります。死亡統計を見ても結核や肺炎などは第2次世界大戦後急激に減少し、我が国における3大死因は悪性新生物(がん)、心疾患、脳血管疾患と言われてきました。しかし、近年では肺炎が再び増加し、死因の第3位となっています。また、悪性新生物の中でも肺がんが男性の1位、女性の2位となっています。さらには、慢性閉塞性肺疾患(COPD)も問題となっています。同様の傾向は滋賀県でも見られています。
一般に、内科の中で患者さんの数が多いのは、呼吸器内科、循環器内科、消化器内科です。しかし、呼吸器の医師の数は学会員数、専門医数ともに循環器や消化器の医師の半分以下です。加えて、人口あたりの呼吸器専門医数をみると、滋賀県は近畿2府4県の中で最低となっています。
このように、呼吸器内科医は日本中で不足しており、滋賀県ではその傾向は顕著なのです。
専門医数 | 人口(万人) | 人口10万人あたり | |
---|---|---|---|
京都府 | 164 | 258.2 | 6.35 |
大阪府 | 497 | 881.7 | 5.64 |
奈良県 | 74 | 133.4 | 5.55 |
兵庫県 | 261 | 546.6 | 4.77 |
和歌山県 | 40 | 96.4 | 4.15 |
滋賀県 | 57 | 141.2 | 4.03 |
全国 | 6,426 | 12623 | 5.27 |
そのために、一生懸命に診療をしています。病気を正しく診断し、最もふさわしい治療法を選択し、患者さんとともに病気に立ち向かう。この簡単なようで難しいことを日々実践することが、私たちの仕事です。
私たちは、滋賀県にたったひとつの医科大学の呼吸器内科として、一人でも多くの呼吸器内科医を育て、広く滋賀県内で活躍できるように教育や研修にも情熱を注いでいます。また、新しい診断法や治療法を開発するために、研究にも力を入れています。