論文の紹介


Mariko Omatsu-Kanbe, Nozomi Nozuchi, Yuka Nishino, Ken-ichi Mukaisho, Hiroyuki Sugihara and Hiroshi Matsuura
Identification of cardiac progenitors that survive in the ischemic human heart after ventricular myocyte death.
Scientific Reports, 2017, 7: 41318. DOI:10.1038/srep41318
(ヒト虚血心筋において生き残る心筋前駆細胞の同定)

 Atypically-shaped cardiomyocytes(ACMs)は,成体マウスの心室組織から単離された細胞である。ACMsは低酸素環境に耐性を有し,培養すると自発的に大 きく成長して拍動を開始することから,分化の進んだ心筋前駆細胞の一種であると考えられている。正常なマウスおよびヒトの心室組織では,ACMsはプリオ ンタンパク質(Prion protein, PrP)と収縮タンパク質である心筋型トロポニンT(cardiac troponin T, cTnT)を共発現する小型の間隙細胞(PrP+ cTnT+細胞)として存在している。今回,心筋梗塞を伴うヒト左心室組織のパラフィン標本を組織学的に調べた結果,正常部位と梗塞部位の境界領域に ACMs(PrP+ cTnT+細胞)が存在することを見出した。また,慢性的な虚血によって引き起こされる冬眠心筋組織中にもその存在が確認された。正常な心室組織では全細 胞に対するACMsの細胞数の割合は0.3〜0.8%であった。梗塞心筋におけるその割合の有意な増減は観察されず,虚血によるACMsの増殖は確認され なかった。死後約2時間半にて施行された病理解剖で得られた左心室組織を酵素処理したところ,心筋の生細胞は見られなかったが,約25日間の培養後に収縮 タンパク質を発現するACMsの存在が確認された。
 これらの結果から,ヒト虚血心筋においてACMsは心室筋細胞の死滅後も生き残り,周辺環境の変化によって心筋細胞のsubtype細胞に成長する可能性が示唆された。

 本研究は、登録研究医コースの学生2名が実験に参加し、共著者となった研究である。
文責 尾松万里子

Mariko Omatsu-Kanbe, Yuka Nishino, Nozomi Nozuchi, Hiroyuki Sugihara and Hiroshi Matsuura
Prion protein- and cardiac troponin T-marked interstitial cells from the adult myocardium spontaneously develop into beating cardiomyocytes Scientific Reports, 4, 7301; DOI:10.1038/srep07301 (2014)
(プリオンタンパク質および心筋型トロポニンTをマーカーとする成体心筋組織の間隙細胞は拍動する心筋細胞へと自発的に成長する)

 成体マウスの心室組織から調製した「心筋細胞を除いた分画」中 に,培養数日後から自発的に大きく成長し拍動を始める細胞が存在することが発見され,その特徴的な形態からatypically-shaped cardiomyocytes(ACMs)として同定されている.ACMsの多くは多核であり,ペースメーカー細胞に類似した自動性を示す.また,新生仔 から老齢にいたるまで心室組織に存在する.今回,心筋前駆細胞のマーカーとして知られるプリオンタンパク質(Prion protein, PrP, CD230)がACMsの細胞膜に強く発現していることを見いだし,心筋型トロポニンT(cardiac troponin T, cTnT)との共発現を指標として,ACMsを識別する方法を確立した.ACMsの増殖は観察されなかったが,小型で丸い形状のPrP陽性細胞が遊走し, 拍動しているACMsに融合することによって,大型で複雑な形態の多核細胞に成長することが確認された.また,マウス心室組織の心筋細胞間隙にPrPと cTnTを共発現する細胞(PrP+cTnT+細胞)が存在することがわかった.これらのPrP+cTnT+細胞は,孤立あるいはクラスター状の細胞とし て見いだされ,native ACMsであると考えられた.さらに,ヒト心室組織においても同様のPrP+cTnT+細胞が存在することが明らかになった.

【結論】ACMsは,マウスおよびヒト心室組織において,PrP+cTnT+細胞として生涯にわたって存在していることが示唆された.ACMsは細胞単離 などの周辺微小環境の変化により,単独で,あるいは細胞融合を経て自発的に拍動細胞へと成長する可能性があると考えられる.
文責 尾松万里子




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