内科外来実習・研修に有用な書籍④

illness script を身につけよう

2020.9.7

 内科の外来(特に初診外来)の目的のひとつに、患者さんの主訴に応じた病態を的確に把握・診断することがあげられると思います。つまり、外来診療において、患者さんから得られた病歴・身体所見をまとめて、鑑別すべき疾患(鑑別診断 differential diagnosis)を考え、最も適切な疾患を想起することが重要であると考えられています。しかし、学生さんや研修医の外来をみていると、differential diagnosis や適切な疾患の想起が困難なように思います。
 differential diagnosis にせよ、適切な疾患の想起にせよ、種々の疾患のシメージ・シナリオ、所謂 illness script の獲得が重要とされています。illness script が獲得できていないと、診察で得られた病歴・身体所見から、鑑別すべき疾患を頭の中で取捨選択をして、適切な疾患を導くということが困難になります。この illness script を得るためには、以前紹介した代表的な内科学の成書を読むことが必要となりますが、これら内科学の成書は、将棋や囲碁の定跡書のようなものであり、もっと実践的な臨床の現場に即した学習方法(書籍)はないのかという要望があると思います。よって私は、症例集の教科書を読むことを推奨します
症例集の教科書の目的のひとつに、illness script の獲得があり、さらに各々の症例の文量は少なく、日々、一例、一例、読破していくのに適していると思います。内科の症例集は、我が国から、米国や英国から多数存在しますので、ネット本屋で検索してみてください(key words case report,case file,morning report 等)。
 

参考文献:宮田靖志:プライマリ・ケアの現場で役立つ一発診断 一目で見抜く診断の手がかり

http://www.hhk.jp/gakujyutsu-kenkyu/ika/130125-070000.php 
兵庫県保険医協会のサイト 2020年8月30日 検索 

内科外来実習・研修に有用な書籍③

身体診察上達の早道とは

2020.8.31

 内科の外来においては、病歴聴取に並んで身体診察を行い、所見(身体所見)をとることが重要です。よって、身体診察・身体所見 physical examination を解説した教科書は多数存在します。
 例えば『Bates' Guide To Physical Examination and History Taking』(最新版の13版は、2020年8月下旬に発刊されたホヤホヤの新刊です)等が代表的な教科書として知られています。しかし、これらの身体診察の教科書は大書であることが多く、私の場合、購入して積ん読状態になることが常でした。
 しかし、これら身体診察・所見の教科書の中で通読できた本があります。『Mechanism of Clinical Signs』という身体所見や患者所見が発現するメカニズムやその臨床的意義を中心に解説した身体観察に関する教科書です。 私がこの本を読んだのは、2012年に発刊された第1版ですが、心雑音、呼吸音等の身体所見の各々の項目が独立して簡潔にまとめてあり、知らず知らずのうちに完読できました。本書はこの独自のスタイルが好評であったようで、2020年1月には、第3版が刊行されています。(第2版は翻訳版『身体所見のメカニズムA to Zハンドブック』も刊行されています。)身体診察から得られた所見の発現するメカニズムや、その臨床的意義を教科書で学習し理解してから、実際に身体診察を行うことが身体診察上達の早道だと私は考えています。
 

参考文献:Dennis M,Bowen TB Mechanism of Clinical Sign Elsevire

内科外来実習・研修に有用な書籍②

「症候学」「臨床推論」を体験・学習するには・・

2020.8.3

 新型コロナの影響で中止されていた臨床実習が本学でも再開されましたが、学生さんに実習の感想を伺うと、「患者さんが言われる症状・症候から鑑別診断を行う外来の診療が、疾患から症状を勉強するという学部の講義と異なり、戸惑いました」というものがありました。私が前回のブログで記載した内容と同様の感想です。この学生さんの戸惑いを減らすのに有用なものが「症候学」といえます。さらに、臨床の現場では「症候学」に加え、鑑別診断を行うのに、「臨床推論」の考え方を身につける必要があります。
 現在、「症候学」や「臨床推論」に関連した書籍は多数ありますが、本学の学生さんや研修医の皆さんにとって、一番手取り早い方法は、New England Journal of Medicine に連載中の Clinical problem solving を読むことです。この連載は毎回一つの症例を取り上げ、臨床経過を expert clinician が得られた情報から解説していく形式をとっており、「症候学」や「臨床推論」の学習に適したものとなっております。分量も多くなく、慣れれば30分程度で読了できます。私がこのClinical problem solvingの存在を知ったのは、1994年発行の黒川清先生監訳のClinical Problem-Solving Collection-from The New England Journal of Medicine を読んでからです。約30年近く継続しているすばらしい連載です。
 
最新の「臨床推論」は、「誤診 diagnostic error」を回避することに注目しています
 
 「臨床推論」の考え方が我国に導入された頃は、検査の感度・特異度、そして検査前確率・尤度比等を利用して鑑別診断を行っていこうというのが主でしたが、最近の「臨床推論」は医療安全の最大の問題のひとつである「誤診 diagnostic error」を減らすことに注目しています。適切な診断・鑑別診断が行えない「誤診 diagnostic error」は、医学的知識の欠乏等がその原因と考えがちですが、近年は医師の心・思考のバイアスが「誤診 diagnostic error」の大きな要因であることが知られています。このことは、英国BMJが発行している最新の「臨床推論」の書籍、「ABC Clinical reasoning」の翻訳版のタイトルが「ABC of 臨床推論診断エラーを回避する」であることで理解いただけると思います。学生さん、研修医の皆さんのみならず、ベテランの医師の皆さまもこの新しい「臨床推論」の考え方、診断エラーを回避するを学習されることをお薦めします。

臨床実習 内科外来実習の前に読むべき本

内科外来 特に初診外来には「症候学」の知識が必要

2020.7.27

 医学部の講義は疾患について学ぶことが主であり、ある疾患がどのような症候・症状を呈するかという、疾患→ 症状・症候の講義が多いと思います。しかし、内科の初診外来においては、患者が有する疾患は不明であり、患者のそれぞれの症候についてどのような鑑別診断があって、どのように診断すればよいのかを考える、症状・症候→疾患、つまり「症候学」の知識が必要となります。
 私が10年前に総合内科医として地域の中核病院に出向し、内科初診外来を担当した時に、内科初診における患者の多彩な主訴・症状:症候に全く対応することができずに、自分の「症候学」の知識の乏しさを痛感しました。私の大学附属病院の腎臓内科専門外来における症候は、浮腫、血尿、蛋白尿、腎機能障害等のせいぜい10症候未満程度で十分対応可能であり、腎臓内科の外来の知識だけで、内科初診外来に対応できなういことは当然のことと思います(初期研修医の先生方が経験すべき症候は29種類が必須となっています)。そこで、内科初診外来に対応できるように「症候学」の教科書を乱読しました。
 
私が勧める「症候学」の教科書
 
 過去10年、種々の「症候学」の教科書を読んできましたが、私にとって「これだ!」という最善の一冊は未だ見つかっておりません。しかし現状において、医学部生が学生実習の前に読むべき・内科外来実習に持参すべき教科書として『診療エッセンシャルズ 新訂第3版』をあげたいと思います。本書は改訂を重ねており、最新版は本年度から医師臨床研修制度にも対応しており、携帯性に優れ、電子書籍版もあります。さらに『Field Guide to Bedside Diagnosis edition』は、英語版ですが、症候別に鑑別診断が簡潔にまとめてあります。以前のブログで取り上げた、読むべき内科学の教科書にもあげた『ハリソン内科学書』も優れた症候学の教科書であることを付け加えておきます。

参考文献:杉本俊郎『僕の内科ジェネラリスト修行』

内科外来実習・研修に有用な書籍①

内科初診外来の研修が必修となりました

2020.7.20

 今年度の初期研修から内科外来初診の研修が必須となりました。必須になったのは、cost effectiveな質の高い医療の提供に内科外来のより一層の充実が必要と考えられているからだと思います。
 私が内科外来を始めた頃は、病棟での研修が主であり、先輩に外来での対応を聞くなどして、見様見真似で日々の外来診療に対応したものです。しかし近年は、内科外来に関する良質な書籍が複数存在し、以前ほど外来での対応に困ることは少なくなっているのではないかと思います。羨ましい限りです。
 
外来実習・研修を始める前に読むべき本があります。
 
 私は外来診療において、英国の総合診療医General physician GP の診療に見習うべき点が多いと考えています。我国において数少ない英国家庭医学専門医GPである福島県立医科大学の葛西龍樹教授が、2013年度に一般向けに書かれた『医療大転換:日本のプライマリ・ケア革命』(ちくま新書)を読んでいただければ、私の意見に同意していただけると思います。
 実際、英国のGPが朝7時30分から午前中に18名の外来患者に対して行なった診察の様子をまとめた書籍があります。この本には、著者である英国のGPであるGraham Eaton先生が、1名診療時間10分の間に、何を考え、どのように対応しているかが詳細に記載されており、一般向けに書かれたものですが、医療者である我々にとっても、外来診療に関して非常に参考になります。是非一読をお薦めいたします。 

【参考図書】Graham Eaton The Appointment:What Your Doctor Really Thinks During Your Ten-Minute Consultation 
【翻訳版】『医者は患者をこう診ている 10分間の診察で医師が考えていること』(河出書房新社)
 葛西龍樹教授が翻訳者の一人。日本語訳では Appointment 予約外来という題名が省略されています。

内科医が読むべき内科学書 その2

米国内科学会American college of physician ACPの内科学教科書はすごい!
ACPの内科学書といえば、Medical Knowlege Self Acessement Program

2020.7.13

 ACPの卒後教育の教科書と言えば、MKSAPです。数年おきに改定されますので、最新のものは、MKSAP18です。現在は細分化された内科の専門領域ですが、非専門領域であっても、知っておくべき知識を更新できるように記載されているのが、この教科書の特徴の一つとしてあげられます。さらに、最近のものは、ACPが推進している「質の高い医療High Value Care (HVC)」や、「入院診療 hospitalist」 に関する項目が明示されていることも特徴に挙げられます。また、教科書的なテキストの部分と、約1000題ほどの臨床問題もあります。さらに、従来の書籍版のみならず、ブラウザ版、タブレット・スマートフォン端末のアプリもあり、いつでも・どこでも勉強が可能なシステムが構築されています。まさに、卒後10年以上経た内科医が、内科全般を再勉強する為に存在していると言える内科学書です。
 
ACPは、Hospitalist 向けの教科書もあります。
 
米国には、入院診療に特化した総合的な内科医
Hospitalistという専門診療科がありますが、ACPは、
Hospitalist向けの内科学書、日本にはあまりないタイプの教科書 Principles and Practice of Hospital Medicine (現在は、2版) があります。本書は、入院診療で生じる問題点等が簡潔・明瞭にまとめてあり、従来の内科学書とは違う視点から記載されていることから、非常に参考になります。日本内科学会と異なり、ACPには内科学全体を俯瞰する眼差しがあるように、私はおもっています。
 

参考サイト:ACP のPrinciples and Practice of Hospital Medicine の紹介サイト 2020年6月26日 検索
https://www.acponline.org/clinical-information/journals-publications/books-from-acp/principles-and-practice-of-hospital-medicine(現在第2版が発売中)
MKSAP 18の紹介サイト2020年6月27日 検索
https://www.acponline.org/featured-products/mksap-18

内科医が読むべき内科学書 その1

内科全体を俯瞰することの出来る内科学書は必要です

2020.7.6

 内科の専門領域は、臓器別・疾患別にどんどん細分化され、より専門的に深化しているのが現状ですが、内科全体を一冊で俯瞰することの出来る内科学の教科書は今でも必要だとは思っています。私は腎臓・リウマチ専門医ですが、専門でない循環器、呼吸器、消化器、感染症等といった領域の知識のアップデートには、一冊にまとめられた内科学書は欠かせません。日々の臨床の現場で、何か不明なことがあればまず最初に内科学書を読みます。
 
私はハリソン内科学書・セシル内科学書を愛読しています
 
 私が医学生の時に主に読んでいた内科学書は、朝倉・中山の内科学書でしたが、医師になってからはハリソン内科学書(原著第20版 電子書籍版)・セシル内科学書(原著第26版 電子書籍版)を読んでいます。
 
 米国において、セシル内科学書が先輩格で、ハリソン内科学書はセシル内科学書を超える内科学書という企画から生まれたものだそうです。ハリソン内科学書は、初版から病理生理の記載が詳しいことが特徴といわれていますが、私は「ハリソン内科学書は腹痛、胸痛、関節痛等の症候に関する記載が詳しい」、「セシル内科学書は疾患についてより簡潔・明瞭にまとめてある」という特徴があるように感じています。これらの2冊の内科学書は、非常に分厚く辞書的な運用が主ですが、通読可能な非常に記載が簡潔にまとめてある内科学書として、英国からのデビットソン内科学書(原著第23版 電子書籍版)も読んでいます。
 前世紀末に、Evidence Based Medicineの提唱者であるザケット先生から「ハリソン内科学書は、石器時代の恐竜」と酷評されましたが、ネットから無限の玉石混交の医学的evidenceが入手可能な現在においては、逆にこれら内科学書の教科書的な記載が現状において確実なevidenceを確認するのに、最も容易で確実な手段であると私は考えています。
 

参考文献: 小沢元彦訳『ハリソン物語 かくして「ハリソン」はグローバル・スタンダードになった』メディカル・サイエンスインターナショナル

基礎医学的知識は、内科医としての私のバックボーンです

基礎医学的知識は、内科医の私を常に助けてくれます

2020.6.29

 私は地域の中核病院において総合内科医として勤務していますが、解剖学、生化学、生理学、薬理学等の基礎医学と呼ばれる分野の知識が、臨床の現場において重要であることを、日々実感しています。特に、私の元々の専門が腎臓内科医ということもあり、生理学的知識は必須です。私が医学生の頃からあった医科生理学展望、つまり、Ganong's Review of Medical Physiologyや、Guyton and Hall Textbook of Medical Physiologyの電子版をスマホやタブレットに入れて、折にふれ読んでいます。
 臨床の医学的エビデンスは、最新のものに日々、変更・上書きされていきますが、基礎医学の基本的・普遍的知識はほとんど変わりません。臨床医学の知識は、スマホやパソコンのアプリ、基礎医学的知識は、Windows, MacOS, iOS, Androidといった、基本のプログラム、Operation System (OS)に相当するものであると私は考えています。OSにバグがあれば、パソコンやスマホが動かないように、基礎医学的知識の欠落は、医師として適切に働くことは出来ません。
例 腎生理の知識の欠落は、不適切な利尿薬の使用につながる。
 
臨床疫学的知識も重要です。 
 医学生や若い時に、臨床疫学についてあまり学んで来なかったことを、今、私は悔いております。
Medicine is a science of probability and an art of uncertainty  
というオスラー先生の言葉があるように、実臨床というのは、非常に複雑・不確実であり、この複雑・不確実な状況から真理を導いていくというプロセスが臨床の現場において要求されます。このプロセスに欠かすことの出来ない知識が臨床疫学です。臨床疫学の知識なくして臨床における問題の解決・決断は成り立ちません。
 
基礎医学的知識の習得は、医師になってからでも可能です。 
 医師の皆様は、学生の時に勉強した基礎医学の教科書の最新版を読まれることを薦めます。私は、The Developing Human: Clinically Oriented Embryology; ムーアの人体発生学を読んで、腎臓ネフロンの1セグメントである集合管 (collecting duct)が、集合管と呼ばれる理由を再確認することが出来ました。
腎臓の発生過程において、後腎由来である糸球体から遠位曲尿細管までのネフロンが複数集合(collect) して、尿管芽由来の集合管に接続する。
 

参考文献: 津田敏秀『医学的根拠とは何か』岩波書店2013 臨床疫学の重要性が理解できる著作です。
写真のMedical Physiology は近々新しい版が出るようです。

これからはビックジャーナルを読もう

これからは、週刊◯◯よりも、週刊の医学雑誌の目次の確認を

2020.6.22

 医師になっても、最新の医学情報を獲得する為に勉強していく必要がありますが、その方法は各々で確立する必要があります。 
 米国の研修医向けのマニュアルに「New England Journal of Medicine (NEJM)と米国医師会雑誌 (Journal of the American Medical Association JAMA)の目次を毎週確認しよう。そして、その確認を一生続けましょう」という言葉があり(正確な出典は忘れてしまいました)、私はこの方法を、二十数年間実践しています。より正確には、世界4大雑誌と呼ばれる NEJM, the Lancet, JAMA, British Medical Journal (BMJ)の目次を毎週確認しています。さらに私は総合内科医でもありますので、米国内科雑誌 (Annals of Internal Medicine 隔週)JAMA Internal Medicine の目次も確認しています。各々のジャーナルには、最新号を電子メールで知らせてくれるサービスがあり、私はそれを利用しています(最近は、social network service を利用する方法もあります)。
 
目次の確認だけで十分か? 継続は力なりです。
 
 学習方法の確立に、負担なく継続できることことも重要な因子であると私は考えています。よって、雑誌の目次を毎週確認することは、負担なく有用な医学情報を得ることが出来ると私は考えています。負担が無いので、継続も容易なはずです。目次というのは、現在においては、各々の雑誌のサイトと言い換えてもいいと思います。これらの雑誌のサイトは非常に見やすく工夫されており、一見(いや毎週)の価値があります。
さらに、余裕があれば、、 
 実際に、これらの雑誌に目を通していただければわかりますが、ほぼ毎週、一流の医師・医学者による総説論文が掲載されています。これらの総説論文の有用性に関しては、西伊豆健育会病院長の仲田和正先生の著作や病院のサイトをみていただければ一目瞭然です。これらの雑誌は滋賀医科大学図書館から全文を読めますので、余裕があれば一度読んでみられることをお薦めします。一度読んだら、また次の論文が読みたくなるはずです。
 

参考文献:西伊豆健育会病院 早朝カンファレンスhttp://www.nishiizu.gr.jp/intro/conference.html 
仲田和正『トップジャーナルから学ぶ総合診療アップデート 第3版』(株)シービーアールこの勉強会を書籍化したもの 

医学学習のプロフェッショナルになろう

医師はずーっと医学の勉強が必要である

2020.6.15

 私は平成元年に滋賀医科大学を卒業し、内科医として働いていますが、学生時代はもちろんのこと、医師になってからも、ずーっと勉強しているように思います。これは私だけでなく、全ての医師・医学者も、ずーっと勉強しているはずです。なぜ、ずーっと勉強が必要であるかというと、この言葉に現れていると思います。
 
「医学部で学んだことの半分が、ウソになる。問題は、医学部卒業時には、どれがウソかはわからないことである。」(昔読んだevidence-based medicine (EBM)の教科書にのっていた言葉ですが、どこにのっていたか正確には思い出せません。)
 
Walking Dictionaryは古い
 
 医師なってからも、ずーっと勉強する必要があることから、私は医師としてプロフェッショナルになるということは、医学の学習のプロフェッショナルになるということが最低限必要であると私は考えています。しかし最近、医学の学習のプロフェッショナルという意味が変化してきているいると思います。以前はハリソンの内科学書を全部記憶しているようなwalking dictionary 型が尊いとされていましたが、人工知能 (AI)時代には、記憶型学習はAIに取って代われること間違いありません(今後数年以内に、家庭にあるスマートスピーカーでハリソン内科書の記載の検索・読み上げが可能となるはず)。よって今後は、問題解決型学習が必要となると思っています。「解決すべき問題」を考えることは、人間にしかできないと私が信じているからです。このことは、記憶中心のcontinuing medical education (CME)から、問題解決能力を重視するcotinuing professional development (CPD) と医師の卒後教育に関する言葉の変化からも伺い知れると思います。今後はこのブログで「医学の学習のプロフェッショナル」になる方策についても考えてみたいと思います。
 

論文や教科書は印刷版で読むべきか?電子版で読むべきか?

学習した知識の記憶としての定着に関しては、紙媒体で学習した方が優れている?

2020.6.8

 私は現在、論文や教科書は、ほぼ100%電子版で読んでいます。論文は、PDFファイルをダウンロードして、パソコンやタブレット端末で、書籍は、電子書籍端末・タブレット端末、もしくは、ブラウザで読んでいます。この方式を採用してから、小生の医局の机や自宅の自室にコピー用紙の束や、本が散乱することは有意に減っているように思います。また、重要な部分を、パソコンのスクリーンショットで撮影し、データベース化して、学習した内容を保存しております。
 しかし、学習した知識の記憶としての定着に関しては、紙媒体で学習した方が優れていることが複数の研究から報告されています。確かに教科書に関しては、携帯に不便という点を除けば、紙媒体の教科書の方が、電子媒体の書籍(現状では)よりも、検索性や視認性等に優れていると私も思います。電子書籍に向いているのは、小説や漫画の単行本のように、内容を後に確認する必要性の少ない書籍であり、記載内容を検索する必要のある医学教科書の電子書籍は非常に使いづらいのは間違いありません(ハリソン内科書の電子版は検索能力が低い)。私がほぼ電子媒体を利用している理由は「老眼で細かい字が読めない。もう紙の本が読めない。」からです(電子媒体は高齢者対策です)。よって若い時は、紙媒体で勉強する方することを私は推奨します。ただ、学習した内容を保存する時には、電子化する必要があります(また方法を紹介します)。
 

注)電子書籍には、老眼対策以外に大きな利点があります。電子書籍には、辞書機能があり、英語の教科書は読みやすくなります。また、内容を音読する機能も有用です。 
参考文献:杉本 俊郎, 相見 良成, 相浦 玲子 携帯用電子書籍端末(Amazon Kindle)は若手医師の医学英語習得に有用か?Medical English Education for Residents Using Electro-Book Device Journal of Medical English Education 2011 10 104-105
写真は小生が利用している電子書籍の本棚 二種類のサービスを利用している。

勉強した内容を公表し、仲間・みんなで共有しよう

臨床の現場に役立つ知識の定着には、アウトプットにあり

2020.6.1

 勉強・学習は、論文・教科書を読んで、内容を理解・整理して、記録・保存するということから、‟インプット中心の作業のように思われている方が多いと思います。私は、水電解質異常・酸塩基平衡異常の臨床を専門にしており、私の勉強・学習方法は、この領域の教科書・論文全てに目を通すことを目標としています(目標であり、実現には程多い状況でありますが)。ここ数年、水電解質異常・酸塩基平衡異常の臨床に関する書籍を執筆する機会がありました。書籍の執筆には、知識を‟インプットすることは当然必要です。しかし、臨床の現場に役立つ知識の定着により有用なのは、得られた知識を公表する‟アウトプットにあることに執筆の過程で気がつきました。
 そこで学生の皆様には、学習した内容を効率良く定着させる為に、得られた知識をまとめて公開・公表する、つまり、アウトプットを意識して勉強することを強く推奨いたします。勉強した内容を公開・公表するということは、友人や仲間が読んで理解してもらうように表現する必要があります。この他人に説明する過程が勉強になると思います。learning by teaching です。
  ICTが進歩した現状において、学習した内容を仲間・みんなで共有することは、以前より容易になっていると思います。今年に入り急速に汎用化したオンラインミーティング(zoomGoogle meet等)においても、画面共有機能があり、パソコン等のデスクトップを共有することでまとめた内容を公開することが可能となっています。得られた知識を仲間・みんなに公表することで、得られる知識は、効率よく増加していくと思います。
 

注)知識の公開・公表には、ルールがあり、その遵守が必須です。
写真は杉本俊郎著『日常診療ツールキットシリーズ① 内科医の自己学習ツールキット』カイ書林より2020.5.29発刊

勉強した内容・成果を記録・保存しよう

平静の心を保つには、不明なこと、解らないことを減らす

2020.5.25

 大学生の間、さらに将来医師になってからも、講義の資料、提出したレポート、教科書、論文等の分量が、今後どんどん増えていきます。
  私が若かりし頃は、論文のコピーや資料を、内容に応じてファイルしておりましたが、次第にファイルすることが困難となり、未整理のコピー資料の量が膨大となり、コピー用紙が机の隅にうず高く平積みの状態になってしまうものでした。この状態では、読了した論文・資料等の勉強した成果を後から振り返ることが困難であり、資料・論文を探すのに時間がかかり、同じ論文を何度もコピーしてしまうことが度々ありました。
 しかしICTが進歩し、パソコン・タブレット端末が個人で使用できる現在においては、講義の資料、レポート、教科書、読んだ論文等勉強した内容全てを電子化してクラウド等に保存し、容易に検索・閲覧することが可能となっています。今後、この項で、私が地域中核病院に出向後に行なっている方法を紹介していきたいと考えております。
 
 優れた臨床家であり、医学教育の先駆者でもあったオスラー博士は、医師にとって沈着な姿勢、「平静の心」これに勝る資質はありえないと述べています。残念ながら私には、このような資質は望むべくもありませんが、私の「平静の心」が失われる原因のほとんどが、「不明なこと、解らないこと」から生じる「不安」であることを、総合内科医に転身してから再認識いたしました。よってできる限り「不明なこと、解らないこと」を減らしていくように日々努力することが「平静の心」に近づく一つの方法ではないかと考えています。勉強した内容・成果を記録・保存することは、この努力の証となり、この証が「不安」を減らすのではないかと思い、日々、記録・保存を実践しております。

遠隔講義でレポートが大変

楽しくレポートを書くコツ

2020.5.18

 今年度の前期は、遠隔講義が中心となっております。遠隔講義は、滋賀医科大学のみならず、全国の大学で行われている様です。当講座の秘書さんのご子息も大学生ですが、遠隔講義は例年と異なり、レポート提出の課題が増えて大変だそうです。おそらく、本学の学生さんも同様だと思います。そこで、今回はレポートを楽しく書く秘訣を紹介したいと思います。
 
 医師の仕事というのは、基礎系であろうが、臨床系であろうが、文章を書くことを強制されます。医師の文章というのは、読み手に、より正確な情報を伝えることを要求されます。よって、文章の書き方の修練が必要であるとされ、医師になってから修練するより、学生の間に修練しておくべきです。文章の書き方の修練に関して、私は物理学者の木下是雄先生が著した「理科系の作文技術」が役にたちました (この本をさらにわかりやすくした「まんがでわかる 理科系の作文技術」という書籍もあります)。木下先生は「理科系の作文技術」のなかで、日本語と比較して主語・述語が明確な英語の利点を述べられておられることから、杉原厚吉先生の「理科系のための英文作法 文章をなめらかにつなぐ4つの法則」を併読すると、「理科系の作文技術」の内容がより理解出来ると思います。
 
 さらに、文章を楽しく書くには、それなりの道具が必要です。レポートは、パソコンを用いて書かれる学生さんがほとんどでしょう。特に学生さんが使われるパソコンはノートパソコンが主だと思います。最近のノートパソコンは、デスクトップパソコンと引けを取らない性能を有していますが、大きな弱点を有しています。それはキーボードです。パソコン仕事において、直接身体に接するキーボードは非常に重要です。ノートパソコンのキーボードはその構造上ペチペチした入力であり、執筆していて楽しくありません。楽しく入力・執筆するためには、私は皆さんに、ノートパソコンに外付けする「高級キーボード」、特に、入力して疲れない、スコスコ入力できて楽しいことからどんどん文章を書きたくなる、一回購入すると最低10年は壊れない、静電容量無接点方式のキーボードを購入することを推奨します。入力しやすいキーボードを使用すると、文字を入力するのが楽しくなり、レポート作成の効率が改善することを間違いなしです。
 

注)ネットで静電容量無接点方式のキーボードと検索してみてください。キーボードとしては、非常に高額ですが、10年使うと思えば、一日100円ほどのコストであり安い買い物です。わからなければ杉本までご連絡ください。