1. インフルエンザの構造

ウイルスの構造
インフルエンザウイルスの表面には2種類のタンパク質(とげ)があります(HAとNA)。感染やワクチン接種により体内で作られる抗体はこれらのタンパク質に結合し、ウイルスの働きを阻害します。つまりHAに結合する中和抗体はウイルスが細胞に接着することを阻害し、NAに結合する抗体はNAの酵素活性(ウイルスを細胞から切り離す)を抑制します。
ウイルス内部には8本の異なるRNA(ウイルスの設計図、ウイルスゲノム)があります。設計図のRNAが8本に分かれていることが新型インフルエンザの誕生に決定的な意味をもちます。
1つの細胞に2種のインフルエンザウイルスが同時に感染すると新型ウイルスが生まれる

2種のインフルエンザウイルス(例えばウイルス1とウイルス2)が1つの細胞に同時に感染すると両方のウイルスに由来するRNA遺伝子が複製され、1個の細胞内に混在することになります。 新しいウイルス粒子(ウイルス3)が細胞から飛び出る時、ウイルスAとウイルスBのRNAのコピーが混在して、8本のRNAが1組となるとき、いろいろな組み合わせを作り、1個のウイルス粒子に取り込まれます(遺伝子再集合)。
このようにしてウイルスAとウイルスBの両方の特徴を少しずつもつ新しい組み合わせのウイルスが誕生します(新型インフルエンザウイルス)。
2. インフルエンザの感染史
遺伝子再集合により何十年に一度ずつ新しいインフルエンザウイルスが流行する。

抗原シフトと抗原ドリフト
ウイルス表面のとげ(HAとNA)は毎年少しずつ変異します(抗原ドリフト)。
ウイルス表面のHAとNAは数十年毎に大幅に変化し、人の間で大流行を起こすことがあります(抗原シフト=新型インフルエンザの登場)。大幅な変化は遺伝子再集合により新しい組み合わせのウイルスが登場することによって起こります。
このほかに大流行にはなっていませんが、鳥インフルエンザウイルス(H5N1、H7N9)が人間に感染しています。
ブタは鳥インフルエンザウイルスとヒトインフルエンザウイルスの両方に感染するので、遺伝子再集合はブタで起こる。

これまでの新型インフルエンザウイルスはブタの体内で遺伝子再集合により作られたと考えられています(豚から人へ)。
人の高病原性鳥インフルエンザウイルス感染者の多くは鳥から直接感染したと考えられています。
3. 豚由来新型インフルエンザの共同研究
豚由来パンデミックインフルエンザの共同研究


2009年パンデミックインフルエンザウイルスの病原性を調べるために感染実験を3つの研究室で共同して行いました。
それぞれの研究室が得意とする動物があり、その動物を飼育可能なレベル3実験室を有しています。
フェレットはイタチの仲間であり、インフルエンザに感染すると人に似た症状(くしゃみ、鼻水)が出るので、人の感染をよく反映する動物モデルと考えられています。一方、サルもインフルエンザウイルス研究に重要であることが判明しました。
2009年パンデミックインフルエンザウイルス(H1N1)は肺でも増殖する可能性がある(スペイン風邪と類似している)

季節性インフルエンザウイルスは主に上気道で複製します。
本研究室ではサルを用いて、2009年パンデミックインフルエンザウイルスが上気道と下気道で複製することをつきとめました。
4. インフルエンザワクチンは効くのか?
現行のインフルエンザワクチンは抵抗力の弱い人が重症になることを防ぎます
ワクチン(Vac-1)を投与されたカニクイザルでのウイルスの複製

現行ワクチンより効果の高いワクチンを作る研究を行っています。
不活化方法を改良した完全粒子ワクチンをサルの鼻腔あるいは皮下に接種した研究では、ワクチン接種後のサルにH5N1型高病原性鳥インフルエンザウイルスを感染させて、ウイルス複製量を測定しました。
ワクチンを打っていないと鼻腔にウイルスが5日目まで検出されました。
ワクチンを打っておくとウイルスは3日目以降検出されません。
つまりワクチン接種はウイルスの複製を抑制し、ウイルス検出期間を短縮させました。
5. インフルエンザウイルスライブラリー
インフルエンザウイルスライブラリー(北大喜田グループ作製)

高病原性ウイルスをワクチン用ウイルスとして使うためには特殊施設が必要となります。
一方、低病原性ウイルスは卵で良く増え、取り扱いが季節性インフルエンザウイルスと同様であり、ワクチンの作製に適しています。
そこで北海道大学喜田宏教授の研究室では、自然界から分離されていないHAとNAの組み合わせをもつウイルスを実験室で遺伝子再集合などにより作出しました。
どのHAとNAの組み合わせをもつウイルスが人間で流行り始めても、このライブラリーからワクチン株をすぐに供給し、大流行の拡大を抑えることが目標です。
赤:これまでにワクチン5株の有効性をサルで確認しました。サルで有効ならば、人でも効果があることが期待されます。
