教授よりご挨拶


 岡村富夫先生の後任として、2017年1月1日付けで薬理学講座の教授を拝命いたしました。
 私は京都大学医学部を卒業後、3年間の内科研修を経て京都大学大学院(老年科)に入学しました。大学院では北徹先生、久米典昭先生にご指導いただき、動脈硬化形成に重要な酸化LDLの脂質成分がTリンパ球を活性化することを明らかにし、学位を取得しました。同研究で増殖因子HB-EGFを扱ったことがご縁となり、東山繁樹先生(現愛媛大学)のご紹介で、同因子を発見したハーバード大学Klagsbrun博士、故Folkman博士の研究室に留学し、HB-EGFの新規受容体としてメタロペプチダーゼのひとつ「ナルディライジン(NRDC)」を単離同定しました。留学後は、当時新設された先端領域融合医学研究機構に独立ポジションを得てNRDCの機能解明をテーマに研究を続け、2007年には機構解散に伴い循環器内科に異動し、北徹先生、木村剛先生のもとで臨床・学部教育とともに、グループリーダーとして研究を継続させていただきました。
 NRDCは一次構造上可溶型ペプチダーゼですが、その後の研究から、細胞外・核内にも局在し、局在に依存して異なる機能を有することがわかりました。すなわち細胞外においては、膜タンパク質の細胞外ドメイン切断を増強する作用を持ち、核内においては種々の転写調節因子と協調し転写コレギュレーターとして働きます。NRDC欠損マウスが成長障害、エネルギー代謝異常(低体温、糖代謝異常など)、循環動態異常、炎症・発がん抵抗性など非常に幅広い表現型を呈したことから、生体でも重要な働きを持つことが明らかになりました。
 また独自にモノクローナル抗体、測定系を作製し、ヒト血清濃度が測れるようになったことで、様々な疾患におけるNRDCの役割にアプローチすることが可能になり、さらに急性冠症候群やがん、炎症性疾患の診断バイオマーカーとしての可能性も追求できるようになりました。
 本学におきましては、NRDCの複数の機能がいかに協調して生命現象の制御にあたっているかをさらに追求し、NRDCに軸足を置きながら、より普遍的な生命原理の解明に挑みたいと思っております。また、できるだけ多くの先生方と共同研究を展開させていただき、NRDCを標的とする創薬、診断バイオマーカーとしての有用性の検討などにも精力的に取り組みたいと考えております。今後ともご指導、ご鞭撻を賜りますよう、何とぞよろしくお願い申し上げます。

西 英一郎


経歴
1990年 3月 京都大学医学部卒業
1990年 6月 京都大学医学部付属病院 老年科研修医
1991年 4月 島田市民病院内科、循環器科医員
1993年 4月 京都大学大学院医学研究科博士課程入学
1997年 3月 京都大学大学院医学研究科博士課程内科系専攻修了
1997年 4月 京都大学医学部附属病院 老年科医員
1998年 3月 ハーバード大学医学部小児病院 研究員
2001年 7月 ハーバード大学医学部小児病院 インストラクター
2003年 4月 京都大学大学院医学研究科 先端領域融合医学研究機構 助教授(特任)
2007年 4月 京都大学大学院医学研究科 循環器内科学 産官学連携准教授
2010年 4月 京都大学医学部附属病院 循環器内科学 特定准教授
2016年 8月 京都大学大学院医学研究科 循環器内科学 講師
2017年 1月 滋賀医科大学医学部医学科 薬理学講座 教授