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滋賀医科大学
生化学・分子生物学講座
分子病態生化学部門 
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研究紹介

循環器疾患、がんの病態解明に向けた基礎研究

「循環器疾患」「がん」というと別々の病態のように思われますが、その病態の中でも共通してみられる機構がいくつもあります。ここでのキーワードは「異種細胞間コミュニケーション」です。具体的にどのようなことか、以下に概説します。

がんの病態の中でも、特に、がんの浸潤や転移のメカニズムについてはまだ解明されていないことが多く残っています。がん死は日本で最大の死因であり、がんの浸潤・転移が、がん死の大部分を占めることから、そのメカニズムを明らかにしていくことは医学における大きな検討課題です。がんの浸潤・転移が起こる際、まず、原発巣のがん細胞がその周囲にある結合組織に入っていきます。そこでは、結合組織にある細胞(ストローマ細胞)と異種細胞であるがん細胞との間に接触が生じ、ダイレクトな異種細胞間のコミュニケーションが起こります(図1)。しかし、このコミュニケーションがどのようにがん細胞の性質を変化させるのか、また、その分子機構はどのようになっているのか、ということはほとんど分かっていません。

一方、がんに次ぐ死因となっている循環器疾患では、動脈硬化が原因となる心筋梗塞や狭心症が多数を占めます。動脈硬化が生じる過程については、血管内を流れている白血球の一種である単球が血管外に出ていってマクロファージとなり、さらに、コレステロールなどを取り込んで泡沫細胞に変わり、これが血管の外側にある平滑筋をむやみに増殖させるために血管が細くなってしまうという機序が提唱されています。単球が血管外に出て行くためには、血管の内側を覆っている内皮細胞の間をすり抜けていく必要があります(図2)。その際、単球と内皮細胞との異種細胞間で巧みなやりとり(コミュニケーション)が行われることになりますが、その分子機構についても少ししか分かっていません。

これまで、同じ細胞どうし(同種細胞間)のコミュニケーションについては多くのことが明らかになってきましたが、違う種類の細胞どうしによる異種細胞間コミュニケーションの機構に関する研究は全体的にまだまだ遅れています。現在、いくつかの分子にターゲットを絞り、異種細胞間コミュニケーション機構の一端を明らかにすべく研究を行っています。

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疾患の発症原因に迫る遺伝子解析研究

循環器疾患には上記の動脈硬化が原因となる狭心症や心筋梗塞以外にも「不整脈」があります。特に、心室細動などの致死性不整脈は、突発的に発症することが多く、瞬時に生命の危機に至ることがありますので、その発症を厳重に予防することが重要です。このような不整脈の発症に関わる遺伝子はこれまでにいくつか発見されています。例えば、QT延長症候群などでは原因遺伝子同定が進んでいます。しかし、まだ致死性不整脈との関連が明らかになっていない遺伝子が残っていると考えられます。このような遺伝子を明らかにするため、最近進展の著しい次世代シーケンサーを用いた解析を行っています。

当研究室では長年にわたって、眼科学教室と共同で、先天色覚異常の遺伝子解析研究に取り組んでいます。色覚に関わる網膜細胞の錐体には、S錐体、M錐体、L錐体の3種類がありますが、この内、L錐体視物質とM錐体視物質をコードする遺伝子はX染色体上に近接して存在します(S錐体視物質の遺伝子は常染色体に存在)。男性ではX染色体が1つしかないため、LやM錐体視物質の遺伝子欠損の結果生じる先天色覚異常が起こりやすくなります。しかし、詳細に検討してみますと、L、M錐体視物質の遺伝子が共に存在するにもかかわらず、色覚異常のある人がいることが分かりました。このような人において、LやM錐体視物質の遺伝子にどのようなことが起こっているのかを詳しく解析しています。

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高血圧に対する新たな治療開発を目指した基礎研究 〜DPP IIIをターゲットとして〜

 高血圧は、日本において代表的な生活習慣病の一つであり、国内で約3,000万人もの人が該当すると言われています。高血圧に関わる重要なホルモンとしてアンジオテンシンIIがあり、このホルモンをターゲットとした降圧薬(ACE-IやARBなど)が多数臨床応用されています。しかし、複数の降圧薬を用いても血圧のコントロールに難渋することはしばしばあり、更なる降圧薬の開発が必要と考えられています。

 最近、当研究室ではDipeptidyle Peptidase (DPP) IIIという酵素が、アンジオテンシンIIを分解する生化学的性質の詳細と生体内で降圧作用を有することを初めて明らかにしました(図3)。さらに、DPP IIIを実験的に投与することによる高血圧からの臓器保護効果が、既存の降圧薬よりも良好な面もありました。DPP IIIは、糖尿病と関連のあるDPP IVと性質が似たタンパク質で、N-末端に存在するArg-Arg やAsp-Argなどの2残基のアミノ酸を特異的に認識して遊離させるエキソペプチダーゼです。今回明らかにしました知見については、現在、特許出願をしており、臨床応用に向けた基礎研究を精力的に行っています。

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