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SETA DAYORI No. 10

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病気が完治しない場合でも、ケアによって残りの人生

を豊かにすることが可能です。生活環境もものの考え

方も一人一人異なる患者さんに向き合い、その気持ち

をくみとって最善の治療やケアを提供することこそ、

滋賀医科大学が目ざす「全人的医療」であります。

皆さんは医学・看護学を勉強する中で、William

Osler(1849-1919)の名前を聞いたことがあると思い

ます。Osler博士は、米国のJohns Hopkins大学の内

科初代教授を務めた医師で、優れた研究者・臨床家で

あると同時に、近代的な医学教育の基礎を築いた人物

です。Osler博士は20世紀の初めに「医学の中にヒュ

ーマニズムを取り戻し、人間を全人的に見る」という

「全人的医療」の考えを提唱し、今でも世界中の医療

関係者の多くから信奉されています。Osler博士は「医

学ほど教養が大切な職業はない。臨床医学ほど教養を

必要とするものはない」と述べ、医療に従事する人間

は枕元に本を置き、就寝前、または朝起きたときに本

を読む習慣を身につけることを奨めました。皆さんの

これからの生活は、これまでの学生生活とは比較にな

らないほど忙しく、また緊張を強いられるものとなり

ます。しかしその中で、医療人としての目標を見失わ

ず、また自ら健全な心身の状態を保って医療の仕事に

当たるためにも、医学・看護学などの専門の勉学に加

えて、古典や歴史など幅広い書物もひもとき、人格と

教養を高める努力を続けていただきたいと思います。

最後に、皆さんに是非申し上げたいことがあります。

昨今、ごく一部の医師、医学研究者、医学生などによ

る非常識な行為が、相手の人を傷つけ、また社会的に

も強く非難されるという事件が起こっていることを、

誠に残念に思います。大多数の医学生、医師などが日

夜勉学に励み、患者さんのために献身的に診療に当た

っている中で、一部の不心得な人間の行いによって医

学界全体が不信感を持ってみられるという状況は慚愧

に堪えません。医療は人の生死を扱う職業であり、医

師などには大きな権限が与えられていますが、その反

面大きな責任と高い倫理観が求められます。

皆さんは医学部へ入ってまもなく「ヒポクラテスの

誓い」を学びました。本学のキャンパスには、開学以

来先輩達が育ててきた「ヒポクラテスの木」がそびえ

ています。言うまでもなく、ヒポクラテスは紀元前の

ギリシャの医師で、当時の科学に基づいて医学の基礎

を築くと同時に、医師が心得るべき職業倫理を記した

「ヒポクラテスの誓い」が、今日でも医療倫理の基本

になっています。この「ヒポクラテスの誓い」の精神

を現代的に書き直したのが、1948年の世界医師会

(WMA)総会で採択された「ジュネーブ宣言」であ

ります。その中には次のように述べられています。「医

師として、生涯を人類への奉仕の為にささげる、良心

と尊厳をもって医療を実践する、患者の健康を最優先

のこととする、そして力の及ぶ限り医師という職業の

名誉と高潔な伝統を守り続けることを誓う」。ここで

は医師について言われていますが、これらは医療に携

わるすべての職業人が心得るべき重要な精神でありま

す。皆さんは、自らが医学・看護学を志したときの初

心をもう一度思い起こし、患者さんや社会から真に尊

敬される医師、看護師、保健師、助産師などになって

ください。

本日巣立たれるすべての皆さんが健康で充実した生

活を送り、幸福な人生を過ごされることを心より祈念

して、御卒業に当たってのはなむけの言葉といたします。

本日は誠におめでとうございます。

平成29年 3 月10日