少し古い雑記
このページは、研究医コースのどこかにお引っ越ししました。
2014.2.18
2月7日に平成25年度神経生理学の試験を行いました。問題は、
1. 有髄神経細胞において静止膜電位が生じ、さ
らに軸索を活動電位が伝わるメカニズムを、
ネルンストの式やイオンの流れなどに言及し
ながら説明せよ。
2. 古典的向精神薬は、ドーパミンD2受容体の遮
断作用によってパーキンソン症状の副作用が
起きやすいが、最近の向精神薬はドーパミン
D2受容体部分アゴニスト作用を持つことで、
この副作用が起きにくいとされている。この
メカニズムについて、大脳基底核の神経回路
を図示しながら説明せよ。
3. 瞳孔反射、発汗、外膀胱括約筋の活動に対するアトロピンの効果の違いを簡潔に
説明せよ。
4. 左の手の平に教科書を5冊乗せた時、それが重すぎて落としてしまった時に生じ
る反射と釘を右足で踏んでしまった時に痛みを感じる前に生じる反射の違いにつ
いて説明せよ。
でした。右上のグラフに示す通り、平均点が70.56点と比較的高かったので、素点をそのまま評価としました。
等の担当はQ1, Q2でしたが、過去の神経生理学の試験でも問うている問題ですので、きちんと勉強していると思われる学生は高得点でした。特にQ1は、神経細胞が活動電位を伝えるという基本的な現象の理解を聞いていますので、全員が満点であって欲しいところです(ちなみにQ1の満点は7人のみ!)。ただし、ちょっと易しすぎたと反省していますので、来年はもっとひねりを効かせたいと思います。
2014.2.14
1月28日に平成25年度臓器生理学Iの試験を行いました。問題は、
1. 大量出血した際に起こる反応について、速い
反応から遅い反応まで全て述べよ。
2. 甲状腺ホルモンの合成・分泌調節機構・ホル
モン異常など全て述べよ。
3. 視覚および嗅覚における、バックグランドと
のコントラストを高める仕組みを説明せよ。
4. 唾液と膵液の分泌メカニズムを比較して説明
せよ。
でした。採点の結果(素点)を右のグラフに示しますが、平均点が62.15点とやや低かったので、一律に20%増しにして評価としました。
等が担当のQ1, Q2では、キーワードを5つずつ設定し、それらが簡潔に要領よく書かれているかを採点のポイントにしました。例えばQ1では、① 循環血漿量低下による心拍出量低下(スターリングの法則)と血圧の低下、② 頸動脈洞などにある圧受容体の反応、③ 交感神経の興奮、④ バソプレシンによる水再吸収、⑤ レニンーアンギオテンシンーアルドステロン系による血圧上昇とNaCl再吸収、などです。講義内容やプリントをただ覚えるだけでなく、状況(この場合は大量出血)を的確に分析して、対応を考える力を養って欲しいと思います。
2014.1.3
昨年12月20日に行った臓器生理学I実習試験の採点をしました。
Q1では、誰も正解をしらないような状況で、自分の知識をフル活用して、何とか正しい推論をする力を、Q2では、問題を解くための全ての条件が与えられていない時に、適切な仮定をおいて大まかな答えを出す能力を問いました。必ずしも、これらの推論や仮定が正しくなくても構いませんが、自分なりの理由や論理は必要です。高校までの勉強や大学入試のように、解答に必要な条件が全て与えられている問題は、これから医学を学んで医療現場に出て行ったときには、むしろ少ないかもしれません。それでも、不充分な情報から患者さんの中で何が起きているのか推論し、対処しなければならない状況があるということを、理解して欲しいと思います。
さて結果ですが、素点で計算すると40人が60点以下の不可となり、頭を抱えています。
Q1では、倒立によって頸動脈洞における静水圧が上昇し、圧受容器が働いて血圧が降下する反射(10m下では逆の反応が起きる)や、息こらえによるバルサルバ反射のように、真面目に考えても色々と書けることはあると思います(これらの要素ごとに10点)。姿勢変化による体内での静水圧変化と、体にかかる水圧とを(期待に反して、もしくは予想通りに)混同している答案が多数見受けられました。本試験までにはもっと充分に理解しておいて欲しいと思います。
ちなみに、サメを見て恐怖で交感神経が興奮して血圧が上がる...などの答えもちょっと期待しましたが、こんな解答を返してくれたのはわずか数名でした。もちろん10点あげました。
2013.12.20
平成25年度の臓器生理学I実習の試験を行いました。問題は、
1. 右図のように、水面上に水平の位置から垂直に潜水し、水面
下10mで再び水平になった。この間の血圧(理想的な測定と
仮定する)の変動を推定し、理由とともに述べよ。
2. 下肢でのH波とM波の潜時が各々28msec, 7msecであった。
これらの値や下肢の長さなどから、下肢の末梢神経の伝導速
度を計算もしくは推定できるか。できる場合は、運動神経と
感覚神経の伝導速度は概ね同じと仮定し、平均の速度を概算
せよ。
です。各50点の100点満点で採点しようと考えています。
2013.11.9-13
アメリカSFN Annual MeetingでSan Diegoに行って来ました。今回は教室員の林君・渕上君に加えて、学部学生の黒田さんも同行しました。神経幹細胞におけるKlf5の働きを解析した結果をポスター発表し、英語で発表してディスカッションする良いトレーニングになったと思います。
例年に比べて神経発生や神経幹細胞に関する発表はやや少ないように感じましたが、幾つか目を引くものもありましたし、いつも通りpsychologyの領域は盛況でした。流行のOptogeneticsを用いたFreely moving mouseでの脳機能の解析や、様々な遺伝子改変マウスを駆使した神経幹細胞の動態解析、特にJohns HopkinsのHongjun Song Labの発表はどれも研究レベルが高く(アイデア+テクニック+結果の解釈+プレゼン)、皆さんの参考にして欲しいと感じました。
2013.9.30
自主研修の後半のプログラムは、ES細胞の誘導・樹立です。まず、マウスを交配し、プラグチェックによって妊娠成立を確認します。妊娠3日目の雌マウスから子宮と卵巣をブロックで取り出し、丁寧に脂肪組織を除去した後に卵巣を離断し、卵管采を遊離させます。その断端から培養液をフラッシュすることにより、着床前の胚を集めるという操作を行います。言葉で書くと簡単そうですが、実際にやってみると、なかなか思い通りに組織が動いてくれないことに気付くでしょう。そのかわり、フラッシュした培養液を顕微鏡下で観察し、胚盤胞期の胚を見つけた時は、結構感動的です。
胚盤胞期胚をフィーダー細胞の上で培養し、ES細胞を樹立することは、ES細胞用の培地がかなり進歩した現在では、それほど困難ではないのですが、今回は誤ってピューロマイシン入りの培地 (iPS細胞用) を使用してしまったため、細胞が全滅しました。慌ててやり直して、樹立されたES細胞を学生に見ましたが、さらなる修行が必要です。
2013.8.29
生理学研究所で指導した Akhilesh Kumar 君の仕事が the Journal of Biological Chemistry に受理されました。彼はこの仕事で学位を取ったあと、すでにアメリカに渡って活躍しています。インドから留学してきた当初は、言葉や分化の壁が高く立ちはだかり(結局日本語はしゃべれませんでした)、気分が落ち込むことも多かったようですが、持ち前のバイタリティーとポジティブ思考で頑張ってくれました。異文化の学生と一緒に仕事をしたことは、私にとっても得がたい経験でしたし、その結果が生化学分野の一流紙に掲載されたことは大きな喜びです。幹細胞と糖鎖生物学を融合させた研究を、これからも発展させていきたいと思います。
2013.8.1
7月上旬から自主研修の学生が6名ラボに来ています。前半はiPS細胞の誘導・樹立をテーマにしました。成体マウスの尻尾から線維芽細胞(TTF; tail tip fibroblasts)を採取・培養し、山中4因子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)をレトロウイルスを用いて強制発現させることで、細胞のリプログラミングを促してiPS細胞を作製します。これまで、マウス胎仔の線維芽細胞(MEF; mouse embryonic fibroblasts)からiPS細胞を誘導したことはありましたが、TTFでは初めてです。この機会を利用して試してみましたが、TTFの培養自体が今ひとつで、誘導されたiPS細胞の数もごく少数でした。もう少し修行が必要なようです。