細胞が持つDNAには全ての遺伝情報が書き込まれていますが、細胞ごとの特徴に応じて必要な情報だけが読み込まれ、必要でない情報は働かないように隠されています。DNAのメチル化は、不必要な遺伝情報を隠す機能を担うエピジェネティック機構の1つですが、この遺伝情報が必要になった時には脱メチル化(メチル化を取り去る)が起きます。
私達は、脳ができていく一番最初の過程でDNAの脱メチル化が必要なこと、そしてDNA脱メチル化にGcm(Glial cells missing)と呼ばれる遺伝子が必須であることを初めて証明しました。
Gcm遺伝子のノックアウトマウスでは、DNAの脱メチル化が起きないためにHes5遺伝子が活性化されず、その結果として神経幹細胞の形成がうまくいかないことも分かりました。これまでよく分かっていなかった、脳が作られる最初のステップを理解する上で、重要な研究だと私達は考えています。
早期胚の細胞ではDNAのメチル化によってHes5遺伝子が働けません。
Gcm遺伝子がDNAを脱メチル化するとHes5遺伝子が動き出します。
Notchシグナルが伝わってHes5遺伝子が活発に発現します。
正常な胎生8.3日胚では中脳や後脳でHes5遺伝子が発現します(黒く見える部分)が、Gcm遺伝子のノックアウトマウスでは発現が認められません。
その結果、神経幹細胞の形成も抑制されます。
Gcm遺伝子によるDNA脱メチル化は、ゲノムの複製を必要としない能動的脱メチル化と呼ばれるもので、これまで分子メカニズムがよくわかっていませんでした。能動的DNA脱メチル化は、卵子と精子の受精直後にも起きているとされ、胚の発生に非常に重要だと考えられています。今後は受精直後の胚発生や、ゲノムの初期化のメカニズム解明にも研究が発展しそうです。
大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構が発信するライフサイエンス新着論文レビューで取り上げられました。
日本神経化学会が発信する神経化学トピックス(トピックス13)で取り上げられました。