神経幹細胞は、胎生期の脳で大量の神経細胞・グリア細胞を産み出し、生後は嗅球に神経細胞を供給すると言われています。単純に考えると、1個の神経幹細胞がこれら全ての仕事をしているように思えますが、本当にそうでしょうか。
1つの神経幹細胞が、ある時期に神経細胞を産生し、その後性質を変えてグリア細胞を産み出す...までは想像できますが、その後再び神経細胞を作るような複雑な調節機構があるのでしょうか。
私たちは、胎生期に神経細胞やグリア細胞を作る神経幹細胞、生後に嗅球の神経細胞を作る神経幹細胞、それぞれが別物なのではないかと考えました(下記の図)。神経幹細胞を集団で観察した場合は、従来のモデルのように見えます。
私たちのモデルを検証するためには、1個1個のを個別に追跡しないといけません。そのために、レンチウイルスによる標識法を用いました。
GFPを発現するレンチウイ
ルスを生直後のマウス脳室内
に注入すると、感染した細胞
がGFPの蛍光で識別できます。
生後1ヶ月の脳から神経幹細
胞を培養すると、一部の神経
幹細胞がGFP陽性でした。
一方、レンチウイルスは感染した細胞のゲノムにランダムに組み込まれます。GFP陽性の神経幹細胞からDNAを抽出し、レンチウイルスがゲノムに組み込まれた場所を同定すれば、その神経幹細胞から産まれた細胞も同じ印を持っていますから、個々の神経幹細胞の運命を追跡することができます。
実際、生後1ヶ月脳の嗅球や大脳皮質からもDNAを抽出し、特定の神経幹細胞から産まれてきた細胞がいるかどうかを解析したところ、以下のようなことがわかりました。
すなわち、私たちのモデルを支持する結果でした。これらの結果を基に私たちは、胎生早期において、神経幹細胞の運命決定を行っている分子メカニズムを明らかにしていきたいと考えています。
本研究は、イギリスの神経科学誌 Cerebral Cortexに掲載されました。