肝胆膵外科

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肝臓

【手術を行う肝臓の病気】

 滋賀医科大学附属病院では、肝臓の腫瘍、おもに、肝細胞がん、転移性肝がんに対して、手術を中心とした集学的治療(様々な治療を組み合わせて病気を治療すること)を行なっています。
 肝細胞がんは肝細胞の遺伝子に傷がつくことでがんができてきます。肝細胞がんの原因は、以前はB型やC型肝炎ウイルスが多かったのですが、最近では、脂肪肝や、アルコール多飲からの発がんが増えています。肝細胞がんは、非常に再発率が高いため、くり返し治療を行うことが多くなりますが、手術が可能であれば、手術の成績が最も良好です。肝細胞がんの治療はがんを治すことと肝機能維持のバランスをとることが非常に大事になります。当院では、消化器内科、放射線科と合同で毎週カンファレンスを行い、手術での切除、ラジオ波での焼灼、血管カテーテルでの治療、抗がん剤治療、また、肝炎ウイルスの治療まで、一貫して各分野の専門医が治療を行います。肝臓の中や外にある胆管にできる胆管がんも手術の対象となります。
 一方、肝臓には他臓器にできたがんが肝臓に流れ着いて大きく根を生やすことがあります。これを転移といいます。どのがんでも肝臓に転移を起こす可能性はありますが、手術を行う転移性肝がんの原因は大腸がんが最も多く、手術の成績が最も良好です。また転移性肝がんは複数個できることがあり、手術が難しいとされますが、抗がん剤を使用することで、手術が可能となる場合もあります。
 

【大腸がんの多発肝転移について】

大腸がんの転移性肝がんに対する積極的外科治療
 最近、食事の欧米化にともない大腸がんが増加し、男性ではがん死亡の3位、女性では1位になっています。大腸がんの治療ガイドラインでは、大腸がんの肝転移は、根治手術が可能な場合は、他の治療方法(抗がん剤など)とくらべて、手術が良好な成績であると明記されています。ただし、肝臓に数多く転移がある場合も少なくありません。切除の可能性を診断するためには専門的な知識が必要であるため、肝臓外科専門施設でなければ、本当は手術できる状態なのに手術できないと判断される場合があります。当院では、多発転移肝がんであっても、さまざまな工夫を用いて、切除を行っています。滋賀医科大学附属病院では日本で施行している施設が少ないアルプス(Associating Liver Partition and Portal vein embolization for Staged hepatectomy; ALPPS)手術にも取り組んでいます。ぜひ一度、ご相談ください。
 
多発肝転移に対する、アルプス手術(多段階手術)
いずれにせよ、肝臓の治療は、様々な治療の組み合わせや、手術のタイミングなどが重要となります。そのため、肝臓専門施設での治療をお勧めします。 

 

【肝臓の手術】

 肝臓はたくさんの血管が通っている臓器であり、肝臓を大きく切除する肝切除術は、高度な技術が必要となります。日本消化器外科学会や日本肝胆膵外科学会では高難度手術として認定されています。滋賀医科大学附属病院は、日本肝胆膵外科学会で認められた高度技能認定施設であり、高度技能指導医・専門医が中心となって手術を行っています。

腹腔鏡下肝切除
 2016年4月から、多くの腹腔鏡下肝切除術は保険適応となっています。腹腔鏡手術の良い点は、お腹のキズが小さいため、手術後の回復が早いところです。しかし、従来のお腹を大きく開く手術にくらべて、手術の難易度が高いため、認定施設でのみ手術が認められています。当院では、日本内視鏡外科学会の技術認定医(肝臓)が中心となって、最新の画像処理技術を用い(シミュレーション・ナビゲーション)、腹腔鏡での手術を行っています。
 
  シミュレーション画像

 
 
  術中ナビゲーション


【手術対象症例】

 肝腫瘍(肝細胞がん・転移性肝がん・肝内胆管がん・肝血管腫・肝のう胞など)、胆管・胆のう腫瘍(肝門部領域胆管がん・胆のうがん)、肝膿瘍、肝内結石症など
 

【手術症例数(肝切除)】


 

【治療成績】

 当院における肝細胞がんの手術症例の1 年生存率は89%、3 年生存率は69%、5 年生存率は51%と、良好な成績です。転移性肝がんの手術症例の1 年生存率は88%、3 年生存率は57%、5 年生存率は40%と、こちらも良好な成績です。
 
 

Pancreas

膵臓

【膵臓について】

膵臓は胃の裏側にある長さ15cm程度の臓器です。膵臓は、①食べたものを消化するための消化液(膵液)をつくる外分泌機能、②インスリンやグルカゴンなど糖の代謝に重要なホルモンなどを調整する内分泌機能、③強い酸性の液である胃液の中和、おもに3つの仕事をしています。膵液はアミラーゼ、リパーゼ、キモトリプシン、トリプシン、エラスターゼなど多くの消化酵素を含むアルカリ性の液体です。

【手術対象となる主な膵疾患】

・膵癌
・膵嚢胞性腫瘍(膵管内乳頭状粘液性腫瘍、膵粘液性嚢胞性腫瘍など)
・膵内分泌腫瘍(膵神経内分泌腫瘍(ガストリノーマ、インスリノーマなど))
・慢性膵炎(膵石症)

 膵臓には膵臓癌をはじめとする多くの腫瘍ができます。また、腫瘍以外でも手術する場合があります。

【膵癌】

 膵癌とは、膵臓から発生した悪性腫瘍です。非常に悪性度が高く、治療成績も悪いとされています。我が国の膵癌は近年増加傾向にあり、毎年3万人以上の方が膵癌で亡くなっています。膵癌の発生には、膵癌の家族歴、糖尿病、慢性膵炎などとの関連が指摘されています。
 膵癌は早期には自覚症状がほとんどないため発見が困難で、ある程度進行してから腹痛や背部痛、体重減少、褐色尿、皮膚の黄染などで気付かれることがほとんどです。また糖尿病の方の血糖値のコントロールが急に悪くなった時にも膵癌が発症している可能性があります。
 治療は、膵癌の進行度や患者さんの健康状態によって異なります。手術が最も効果的な治療法ですが、手術で取り切れないと判断した場合には、手術ではなく抗癌剤の使用が優先されます。また、近年では、初診時に切除不能と診断された場合でも、抗癌剤治療の効果が極めて良好で切除可能となった場合には、手術を行うことで余命の延長につながると報告されており、当科でも患者さんの状態に応じて手術をご提案させていただきます。
 
当院における膵癌切除症例の生存・無再発生存曲線

 

【膵嚢胞性腫瘍】

 基本的には自覚症状の乏しい病気で、腫瘍により分泌された液体がたまった病気を指します。膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)、粘液性嚢胞腫瘍(MCN)、漿液性嚢胞腫瘍などに分類されますが、頻度はIPMNが最も多いです。
 IPMNやMCNは良性のものから悪性のものまで存在することが知られています。そのため、良性か悪性かを慎重に診断することが重要となります。その診断には、CT検査やMRI検査、さらには超音波内視鏡検査、内視鏡的逆行性膵管造影などが必要であり、当科では当院消化器内科と連携して診断治療にあたっており、適切な時期に手術加療を行っています。

【膵神経内分泌腫瘍】

 膵神経内分泌細胞から発生した腫瘍で、比較的まれな疾患です。ホルモン症状があるもの(機能性)とないもの(非機能性)があります。ホルモン症状としては、低血糖発作(インスリノーマ)、治療しても治らない胃潰瘍(ガストリノーマ)、壊死性遊走性紅斑(グルカゴノーマ)激しい水様性下痢(VIPoma)、皮膚の紅潮(カルチノイド症候群)などがあります。非機能性では、症状はないため、偶然発見されることが多いです。基本的には、進行は比較的緩やかですが、急激に進行して肝臓などへ転移するものもあり、注意が必要です。PanNETsは遺伝性のものも存在しており、他疾患の合併に注意が必要です。
 診断は、CT検査や超音波検査などがあります。また転移の有無の検索では、MRI検査やソマトスタチン受容体シンチを行います。
 治療は、転移も含めて切除可能であれば、外科的切除で完全に取り切ることが最も有効です。切除不能であれば、分子標的薬や抗癌剤、血管内治療(肝動脈塞栓術)などを行います。

【慢性膵炎】

 慢性膵炎は進行性の難治性慢性疾患であり、持続・反復する膵炎により膵組織が破壊され、徐々に機能障害(膵内外分泌障害)をきたす疾患と考えられています。アルコール性のものと、非アルコール性(特発性、遺伝性、家族性など)があります。慢性膵炎の主症状は、上腹部痛、背部痛、消化不良、糖尿病等がありますが、特に上腹部痛、背部痛は鎮痛薬投与でも改善せず、難治性疼痛を有する症例も少なくありません。
 保存的治療で改善しない難治性疼痛例に対する治療としては、体外衝撃波破砕術や内視鏡治療および外科治療が選択肢として挙げられます。慢性膵炎診療ガイドラインでは保存的治療で改善しない慢性膵炎の疼痛では、内科的インターベンション治療が推奨されており、内科的インターベンション治療でも改善しない場合には、外科治療が推奨されています。また慢性膵炎では、膵癌が潜んでいることもあり、その評価は重要となります。
 外科治療は、膵管と小腸をつなぐことで膵液の流れ道を作る手術(Partington手術)、またプラスアルファで膵液が流れることができなくなった原因(膵石)を除去する手術(Frey手術)などがあります。

【主要な術式】

膵頭十二指腸切除 (PD):膵頭部の切除
膵体尾部切除 (DP):膵体尾部の切除
膵全摘術 (TP)
慢性膵炎手術(Partington手術、Frey手術など)

【術後合併症】

 膵切除術は解剖学的な複雑性に加え、経験が必要な手技も含まれており、高難度手術とされており、膵切除術後の合併症は依然高率です。膵頭十二指腸切除術は、膵頭部を切除するだけでなく、消化管を使ってつなぎ直し(再建といいます)が必要になります。日本全体での膵頭十二指腸切除術の手術後の死亡率は2.8%と未だに高率です。また、手術後の合併症も40-60%に起こるとされています。これは、10%以上にものぼる膵液瘻(膵液が腹腔内に漏れ出すること)が大きく関係しています。もともと膵臓自体が非常に柔らかな組織であることに加え、膵液に含まれる消化酵素は、腸液や胆汁が混じることで活性化され、この活性化した膵液がおなかの中に漏出すると、膿瘍を形成したり、動脈壁が破綻して仮性動脈瘤を形成することがあります。
 これらの合併症は生死にかかわる重篤なものです。膵癌診療ガイドラインでも、多くの膵臓手術を手掛けている病院(ハイ・ボリューム センターといいます)で手術すべきと書かれています。ハイ・ボリューム センターの定義はいろいろありますが、年間の膵切除術20例以上が一つの目安となります。
 また、術後合併症に対して安全に対応するためには、消化器外科のみならず消化器内科による内視鏡治療や放射線科によるカテーテル治療が24時間体制で施行可能であることが必要です。滋賀医科大学附属病院では、普段から消化器外科、消化器内科、放射線科と密に連携を取り情報を交換しており、あらゆる合併症に対して安全かつ迅速な対応が可能となっております。
 それゆえに膵切除術は高難度手術をより安全に確実に行うことができる認定を受けた施設で施行されるべき手術です。滋賀医科大学附属病院は日本肝胆膵外科学会高度技能専門医修練施設A(肝胆膵高難度手術50例/年以上)に認定されており、高度技能指導医および専門医のもとで手術を行っております。

【当科における膵切除術症例数の推移】


 

【当科における膵疾患診療のトピックス】

 当院では、当科、消化器内科、放射線科、病理診断科との合同カンファレンスを毎月2回定期的に行い、各科で密な連携を取りながら、最善の治療を提供できるよう努めております。
 
・術前化学療法
 膵癌に対しては、外科切除が唯一、治癒が見込める治療法です。近年では、以前では切除不能とされてきた局所進行切除不能膵癌に対しても術前化学療法などを施行して外科的に切除することがあります。また、遠隔転移を有する膵癌に対しても化学療法で病勢コントロールできている場合に限り外科的に切除することで、非切除例よりも良好なことが、世界的に報告されています。わたしたちも切除不能膵癌に対しても、化学療法が非常によく効き完全切除が可能となれば、身体の状態も考慮した上で積極的に外科的切除を行っております。



 

・血管合併切除
 手術手技および化学療法の進歩とともに外科的切除の適応範囲が広がってきましたが、その分、血管合併切除という危険度の高い手術手技が必要となってきております。滋賀医科大学附属病院では完全切除が可能であれば血管合併切除(門脈合併切除、総肝動脈合併切除)を含めた膵切除術を積極的に行なっております。



 

・腹腔鏡手術
 腹腔鏡手術では創部が小さく術後の回復が早いとされ、また術後腸閉塞発症の危険性も減少します。しかしながら、手術手技には制限などもあります。最も大事なのはご病気をきちんと直すことです。お身体の状態や腫瘍の根治性などを総合的に判断して、腹腔鏡手術をご提案させていただきます。