1. 抗コリンエステラーゼ薬
Stacks Image 2114
Stacks Image 2510

レビー小体型認知症に対するドネペジル投与は、BPSD(精神症状、行動異常、幻覚、睡眠障害など)に改善効果あり。レビー小体型認知症においては、メマンチンや抗精神病薬に対する過敏な反応が出やすいのでドネペジルの投与を優先する。
抗コリンエステラーゼ(AchE阻害)薬における注意事項、以下の患者には慎重に投与する必要あり。
(1)洞不全症候群、心房内及び房室接合部伝導障害等の心疾患のある患者(迷走神経刺激作用により徐脈あるいは不整脈を起こす可能性がある)。
(2)消化性潰瘍の既往歴のある患者、非ステロイド性消炎鎮痛剤投与中の患者(胃酸分泌の促進及び消化管運動の促進により消化性潰瘍を悪化させる可能性がある。)
(3)気管支喘息又は閉塞性肺疾患の既往歴のある患者(気管支平滑筋の収縮及び気管支粘液分泌の亢進により症状が悪化する可能性がある)。
(4)錐体外路障害(パーキンソン病、パーキンソン症候群等)のある患者(線条体のコリン系神経を亢進することにより、症状を誘発又は増悪する可能性がある)。

2 抗うつ薬
Stacks Image 2123
Stacks Image 2506

*交感神経刺激による
NaSSA; Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬

Stacks Image 2519

*交感神経刺激による
NaSSA; Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressant(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬

Stacks Image 2516

同じSSRIの中でパロキセチンはわずかにノルアドレナリン作用、抗コリン作用があり、薬の濃度の立ち上がりが早く、効果の切れ味が良い。
三環系抗うつ薬には抗コリン作用があるため、高齢者や認知症の患者での使用は推奨されない。
セロトニン症候群は、薬を内服
してから24時間以内に現れる症状で、精神症状(=アカシジア;不安、興奮と不穏、驚きやすい、動き回る、錯乱を伴うせん妄など)、錐体外路症状(振戦、体が固くなるなど)、自律神経症状(心拍数の増加、高血圧、高熱、発汗、シバリング、嘔吐や下痢など)が起きる。服薬を中止すれば24時間以内に症状は消えるが、ごく稀に横紋筋融解症や腎不全に陥ることがある。セロトニン症候群が疑われた場合は、投薬を中止し、発熱に対するクーリング、降圧剤の投与、呼吸のケア、ベンゾジアゼピン系の鎮静剤の投与などを行う。原因はほとんどがSSRIで、MAO-B阻害薬であるレセギリン(エフピー)やラサギリン(アジレクト)でも起きることがある。MAO-B阻害薬はSSRIやSNRIと併用するとセロトニン症候群を誘発することから禁忌とされる。
三環系抗うつ剤は抗コリン作用が強いので、口渇、便秘、排尿障害、眼圧の上昇などに注意。また、抗ヒスタミン作用による眠気、ふらつきに注意が必要。
アパシーの場合、SSRIで症状が悪化する場合がある。
SSRIは吐気や下痢症状が起きやすい、消化管出血や脳出血のリスクがある。
抗うつ薬全般の副作用は、癲癇発作閾値の低下、緑内障の悪化、心血管疾患の悪化。転倒のリスク。

Stacks Image 2141

(Boyer EW et al., NEJM, 2005)

3 抗不安薬
Stacks Image 2156
Stacks Image 2523
4 抗精神病薬
Stacks Image 2165
Stacks Image 2525

アカシジアは、自覚的な落ち着きなさと観察可能なじっとしていられない動作で特徴付けられる運動障害である。わが国での非定型抗精神病薬によるアカシジアの発生率は、ペロスピロン(ルーラン)が40%、リスペリドン(リスパダール)が22.9%、オランザピン(ジプレキサ)が17.6%、クエチアピン(セロクエル)が5.2%、であった。医薬品誘発性急性アカシジアの対応は、中枢性抗コリン薬のビペリデン(アキネトン)の筋注またはベンゾジアゼピンのクロナゼパム(リボトリール、ランドセン)などの内服が推奨されている。

5 睡眠導入薬
Stacks Image 2177
Stacks Image 2527

非ベンゾジアゼピン系と言われるが、実際にはベンゾジアゼピン結合部位に作用してGABAの作用を増強する。ベンゾジアゼピンにはω1(沈静、抗痙攣)とω2(抗不安、筋弛緩)という2つの結合部位があるが、ベンゾジアゼピン系が「ω1」「ω2」両方の受容体に作用するのに対し、非ベンゾジアゼピン系は筋弛緩作用と抗不安作用がある「ω2」へはほとんど作用しない。
GABA受容体にはA,B,Cの3つのサブタイプが存在するが、GABAA受容体はイオンチャンネル受容体で、GABAが結合することで、Clイオン(Cl-)の細胞内流入が促進され、細胞内のマイナス電荷が増え、過分極となり神経の興奮が抑制される。抗不安、催眠・鎮静、抗けいれんなどの生理機能に関与するのはGABAA受容体となる。
GABAA受容体は、αが2個、βが2個、γが1個のサブユニットからなる。ベンゾジアゼピン(BZD)はγとαの間に結合部位がありアロステリックに調節(促進)している。BZDの結合部位にはω1~ω3のサブタイプが存在しており、中枢に存在しているものはω1、ω2になる。

ベンゾジアゼピンは、GABAA受容体上のαサブユニットとγサブユニットの界面で結合する。一旦ベンゾジアゼピン受容体に結合すると、ベンゾジアゼピンリガンドは、ベンゾジアゼピン受容体を、GABA神経伝達物質に対してより大きな親和性を有するコンフォメーションにロックする。これにより、関連する塩化物イオンチャネルの開通頻度が増加し、関連するニューロンの膜が過分極化する。利用可能なGABAの抑制効果が増強され、鎮静効果および抗不安効果につながる。さらに、異なるベンゾジアゼピンは、異なるサブユニットのコレクションからなるBzRに対して異なる親和性を有することができる。例えば、α1で高い活性を有するものは、より強い催眠効果と関連しており、一方、α2および/またはα3サブユニットを含むGABAA受容体に対するより高い親和性を有するものは、良好な抗不安活性を有する。
アルコール分子がGABAと一緒に結合すると、GABA-A受容体が大きく開き、より多くの塩化物イオンを許容する。

Stacks Image 2494
6 LBD、パーキンソン関連薬

  • DLBのパーキンソニズムに対してはレボドパの使用が推奨される。通常のパーキンソン病よりも反応は悪い。パーキンソン病治療薬であるトリヘキシフェニジル(アーテン、アキネトン)は抗コリン作用薬であるため使用しない。

  • ゾニサミドの少量投与(保険;トレリーフ錠25mg)はパーキンソン病の振戦(25mg/日)や日内変動の改善(50mg/日)に有効とされている。

  • パーキンソン病、パーキンソン症候群に対する治療薬のまとめ

1) L-dopa(レボドパ)

最も強力なパーキンソン病治療薬。ドパミン自体は血液脳関門を通過しないが、L-ジヒドロキシフェニルアラニン(L-dopa)は脳内に移行して、ドパ脱炭酸酵素(DDC)によりドパミンになる(ドパミンはさらにノルアドレナリンやアドレナリンになる)。L-dopaの作用時間は短いため2時間もすると効果が切れて急に動けなくなる(wearing-off現象)。L-dopaを過剰に服薬すると、ジスキネジアが出現する。
血中のL-dopaは消化管や血液中のドパ脱炭酸酵素(DDC)によってもすぐにドパミンに分解されてしまうため、L-dopaと末梢性DDC阻害薬(ベンセラジド)との合剤(イーシードパール、マドパー、ネオドパゾール)、同じくDDC阻害薬(カルビドパ)との合剤(メネシット、ネオトパストンなど)が使われる。なお、L-dopaはCOMTによっても分解される。そこで末梢性COMT阻害薬であるエンタカポン(商品名:コムタン)を同時に服薬することも行われる。L-dopaとDDC阻害薬(カルビドパ)とCOMT阻害薬(エンタカポン)の合剤(スタレボ)がある。

Stacks Image 2294

COMT; catechol-O-methyltransferase, DDC; dopa-decarboxylase, DOPAC; 3,4-dihydroxyphenylacetic acid, MAO-B; monoamine oxidase type B.

2) ドパミンアゴニスト

レボドパの副作用に対応するために開発されたのが、作用時間の長いドパミン受容体刺激薬(アゴニスト)である。ドパミンアゴニストは長く服用しても、ウェアリングオフ(on-off)現象やジスキネジアが起きにくい。レボドパより効くのに時間がかかり、また吐き気や幻覚・妄想などの副作用に注意が必要となる。薬効の変動やジスキネジアが起きやすい若年の症例は、なるべくドパミンアゴニストで治療を開始する。高齢者ではウェアリングオフ現象やジスキネジアが起きにくいため、最初からレボドパで治療を開始した方が効果は確実と思われる。
ペルゴリド(ペルマックス)やカベルゴリン(カバサール)は心臓弁膜症や肺線維症を引き起こす危険性があるため、心エコー検査等で定期的に心臓弁をチェックする必要がある。
プラミペキソール(ビ・シフロール、ミラペックス)、タリペキソール(ドミン)やロピニロール(レキップ)、貼付薬のロチゴチン(ニュープロパッチ)、自己注射薬のアポモルヒネ(アポカイン)は、運転中に突然入眠して事故を起こす「突発的睡眠」を起こすことがあるため、使用中は運転しないよう注意する必要がある。

3) 抗コリン薬

パーキンソン病ではドパミンの減少に伴ってアセチルコリンの作用が相対的に強まるため、抗コリン薬であるトリヘキシフェニジール(アーテン)が使われる。なお、アルツハイマー病や高齢者では脳内のアセチルコリンが減少している可能性があり、服用により物忘れや幻覚・妄想などの症状が出ることがあるので、70歳以上では原則として使わないようにする必要がある。

4) 塩酸アマンタジン

塩酸アマンタジン(シンメトレル)は抗ウイルス薬として開発され、A型インフルエンザの治療薬としても使われている。線条体でのドパミン放出を促す作用や、ジスキネジアを抑制する効果がある。全ての症例に有効ではなく、幻覚や妄想が出やすいので注意が必要。特に腎機能低下のある方では用量を減らす必要がある。

5) MAO-B阻害薬

塩酸セレギリン(エフピー)やラサギリン(アジレクト)はMAO-Bを阻害してドパミンの分解を抑制する。軽症例ではL-dopaと併用なしでも効果がある。これによりL-dopaの効果が増強するため、ジスキネジアは悪化することがある。MAO-B阻害薬はノルエピネフリンやセロトニンなど他の神経伝達物資の分解も抑制するので、服薬すると意欲が出て気分が明るくなる傾向がある。その一方で、幻覚・妄想や夜間不眠、血圧などに注意が必要となる。

6) ゾニサミド

てんかんの治療薬(エクセグラン)として開発されたもので、2009年にパーキンソン病に対してレボドパ含有製剤との併用薬として適応(トレリーフ)が承認された。パーキンソン病に対して、トレリーフ(25mg)、25〜50mg/日の使用となる。L-dopaとの併用で、ウエアリングオフや振戦に特に有効。なお、てんかんに対しては、エクセグラン(100mg)を100〜600mg/日の使用する。

7) アデノシン受容体拮抗薬

イストラデフィリン(ノウリアスト)はL-dopaと併用でウェアリングオフを改善させる。

8) カテコール-O-メチル転移酵素(COMT)阻害薬

L-dopaはCOMTによって3-O-メチルドパに分解される。末梢性COMT阻害薬のエンタカポン(商品名:コムタン)はL-dopa製剤と併用して用いることによりウエアリングオフに対して効果がある。コムタンの効果は短いので、毎回L-dopaと同時に服薬する必要がある。L-dopaの作用増強によるジスキネジアや悪心が出やすい。

9) ドロキシドパ

パーキンソン病の症状に、「足のすくみ」があるが、これにはノルエピネフリンの関与が示唆されている。ノルエピネフリンはβ水酸化酵素によってドパミンから合成されるため、ドパミンが減ると不足することになる。前駆体であるドロキシドパ(商品名:ドプス)はそれを補うための薬。ただし全ての患者に有効ではない。意欲低下や立ちくらみを改善するのに有効。

パーキンソン病とパーキンソン症候群における保険適応

Stacks Image 2267
Stacks Image 2529
7 誤嚥性肺炎

ドパミンニューロンにおけるドパミンの現象は、迷走神経知覚繊維のサブスタンスPの量を減少させるため、嚥下反射と異物の喀出反射はドパミンとサブスタンスPのどちらも関係している。誤嚥性肺炎の予防薬として以下のものがある。
アマンタジン:ドパミンの合成促進
ACE阻害薬:ACEはサブスタンスPの分解酵素を阻害してサブスタンスPを増加させる
シロスタゾール:サブスタンスPの増加
カプサイシン:唐辛子の辛味成分で、少量投与によりサブスタンスPの合成を刺激する
半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ):サブスタンスPの増加

8 アパシー

うつ病と異なり、気分の落ち込みや苦痛感に乏しい。抗うつ薬の効果はあまり期待できない。L-Dopa、ロチゴリン(ニュープロパッチ)などのドーパミン賦活、ドネペジルなどのアセチルコリン賦活、メチルフェニデート(リタリン、コンサータ)などの精神刺激薬が有効とされている。

専門医のための認知症テキスト

椎野顯彦 M.D., Ph.D. 滋賀医科大学 脳神経外科 非常勤講師 株式会社 シグラス 代表取締役 株式会社 ERISA 顧問
Contact me