滋賀医科大学解剖学講座 神経形態学部門

Department of Anatomy, Shiga University of Medical Science



研究について
 

 これまで神経形態学部門は神経回路標識法を 用いて、聴覚伝導路の 解析を中心に研究を行ってまいりました。古典的な神経解剖学・神経組織学的な研究を継続しつつ、今後は脳の形態 形成に関わる具体的な分子機構の機能解明を 行い、それら分子機構が精神疾患などとどのような関わりがあるかを調べ、臨床的研究にも貢献していきたいと考え ています。

 

 2016年に本講座教授に着任した勝山は、大学院生ポスドク研究員の 時期には遺伝子クローニングと初期胚操作を主軸に実験発生学的な実験を行い、ホメオボックス遺伝子の神 経系での発現の解析(Katsuyama et al., 1995; Wada et al., 1995; Katsuyama et al., 1996; Wada et al., 1996; Katsuyama et al., 1999; Katsuyama et al., 2002) 、レチノイン酸(Katsuyama & Saiga, 1998)FGF(Shiotsugu et al., 2004)Wnt(Tamai et al., 2000)TGF-beta(Kato et al., 2002; Ohtsuka et al., 2014)などのシ グナルの神経発生における働きを研究してきました。

 2002年 に神戸大学解剖学講座で、現在の研究テーマにつながるReelinシ グナルの研究を始めました。小脳及び大脳皮質に形態異常を示す古典的自然発症変異reeler変異マウスの 原因遺伝子がReelinで す。


 これまでにreelerマウスの新 しい表現系の発見(Muraoka et al., 2007; Katsuyama & Terashima, 2009; Dekimoto et al., 2010)Reelinの下流で 働いていると考えられる分子の解析(Sonoshita et al., 2015; Imai et al., 2016)や新規遺伝子の同定(Baba et al., 2006; Takano et al., 2010, 2011)Reelinシグナルの進化(Imai et al., 2012; 勝山&寺島, 2013)について研究を進めてきました。

 また脳形態形成の研究としては海馬など大脳皮質の中でも新皮質とは異なった形態的特徴を持 つ領域がどのような細胞移動や分子発現を行って形成されるか組織学的観察を元に調べております(Sugiyama et al., 2013; 2014; Sugiyama & Katsuayam, 2015; Blume et al., in prep)



 今後は、以下に述べる主な研究テーマを進めて、これら下流因子の分子的な機能や精神疾患や その他の疾患との関係を明らかにする研究を進めていきたいと考えております。また、細々と脳形態の進化についての研究も 再開したいと思っています。

 

 

(1)脳 形態形成の発生学的研究

 

脳は他の臓器と比べても不思議な形をしています。神経細胞は脳室に面した層の神経幹細胞から生じます。 生まれた神経細胞は神経ネットワークを作るべき場所に移動して行きます。この形態形成過程については大脳新皮質で多くの 研究がなされてきましたが、脳の他 の部位については研究が十分でなく、どのように神経核や層構造などの独特の解剖学的形態が作られていくか不明です。さら には、それぞれのニューロンが神経 繊維をどのように伸ばしてネットワークを作っているかについても、まだまだ調べるべきことがあります。我々は、古典的な 組織学的解析や免疫染色、さらには 遺伝子改変動物を用いた研究を行い、脳の複雑な形態を作る発生学的プロセスを明らかにしたいと考えています。



(2)脳の形態形成に関わる新規因子の解析

 

これまでに脳の形態形成に関わる新規因子の候補といてクローニングしたSbno1を 同定しました(Baba et al., 2006) Sbno1は ゼブラフィッシュを用いた遺伝子ノックダウン(KD)実験によっ て、脳や眼(眼は中脳の一部です)の形態が乱れることがわかりました(Takano et al., 2010; 2011)Sbno1ノッ クアウトマウスを作成すると、驚くべきことに大脳皮質がない仔マウスが生まれてきました(左図)Sbno1タ ンパク質は幹細胞の制 御に何らかの役割を持っていることが期待されます。現在はSbno1タ ンパク質の生化学的性質を明らかにするために細胞培養などのvitroの 実験を進めているところです。



(3)Reelin-Dab1シグナルは 大脳皮質層構造を形成するのに必須な分子機構です。Reelin変 異reelerマウスで は正常な大脳皮質に見られる層構造が大きく乱れています(下図;Dekimoto et al., 2010)Reelin-Dab1シグナルは小脳など脳の他の部位の形態形成にも重要な働き をしています。一方で、Reelin-Dab1シグナルがヒトの精神疾患と関連してい るという多くの報告があります。我々は大脳皮質で 特異的にDab1を欠損する遺伝子改変マウスを作成し、網羅的に 行動実験を行いました。その結果、実際にReelin-Dab1シ グナルが欠損すると精神疾患に関連しているとされる行動異常を、この遺伝子改変マウスで観察することができました(Imai et al., 2016)。今後は、このマウスのより詳細 な行動異常の解析や、症状とストレスや加齢との関係、薬理学的処理の影響を調べることで、このシグナル経路の精神疾患に おける役割を明らかにし、治療や診断法の開発などにつなげていきたいと考えています。



勝山裕 ラボホームページ
研究に大きな影響を受けたJoseph Altman博士が2016年4月に亡くなりました。
Altman博士の追悼文