9. 軽度認知障害(MCI)

MCIは、認知機能の健全な状態と認知症との連続体の中間点に位置する個人を特定しようとする分類学的試みである。一般に神経変性疾患を対象としているため、明確な定義はないが、対象年齢は60歳以降になると思われる。認知症とは、独立した日常生活ができない状態であり、MCIの状態では日常生活は可能であるが、認知機能の低下により仕事、地域活動などの複雑な状況において、同じ年代の人と比較して認知機能の低下ために支障が生じる状態とされる。
MCIの概念は、曖昧な臨床的観察からコンセンサス基準へと発展してきた。MCIをどのように定義し診断するのが最善かという点は、この概念にとって極めて重要である。既存の基準では、10年間の追跡調査を経ても認知症を発症しない多くの患者が含まれており、中には認知機能正常と再分類される者さえ多い。したがって、臨床医は、転帰の多様性を踏まえ、MCIの診断には細心の注意を払わなければならない。1990年代から2000年代にかけて、MCIの研究は主にアルツハイマー病(AD)に焦点を当てていたが、近年の研究では、この概念がパーキンソン病やレビー小体型認知症、さらには血管性認知機能障害といった他の神経変性疾患にも適用されている。

MCIの診断基準

Petersen 基準(1999年){10078723}

  • 自覚的記憶障害の訴え本人または情報提供者(家族等)による指摘があること。
  • 客観的な記憶障害年齢および教育歴をマッチさせた標準データと比較し、単一の記憶テスト(ウェクスラー記憶検査再生 課題等)で1.5 SD(標準偏差)以上の低下を示すこと。
  • 全般的な認知機能の保全: MMSE24点~30点。
  • 日常生活動作(ADL)の保持基本的・日常的な生活動作は独立して行えること。
  • 認知症の非該当: DSM-IV等の認知症診断基準を満たさないこと。
 
Petersen/Winblad基準2004年){15007131}
  • 認知機能低下の訴え本人・情報提供者・または臨床医による何らかの認知領域の低下の指摘。
  • 客観的認知障害年齢・教育歴相応のレベルと比較して、該当する認知領域のテストで1.5 SD 以上の低下を示すこと。
  • 日常機能の独立性基本的ADLは正常、複雑なタスク(IADL)に軽度の非効率性・問題が見られる場合があるが、自立していること。
  • 全般的認知機能の保全と認知症の排除顕著な認知症の基準は満たさないこと。
  • 4つの分類(サブタイプ)への割り振り
   健忘型・単一領域(Amnestic Single Domain
   健忘型・多領域(Amnestic Multiple Domain
   非健忘型・単一領域(Non-Amnestic Single Domain
   非健忘型・多領域(Non-Amnestic Multiple Domain
 
Jak/Bondi 基準(2009年){19163283}
従来のPetersen基準やADNI基準が持つ「偽陽性率(誤診断)の高さ」や「単一テストの誤差」を解決するため、Jak & Bondi2009, 2014年)らによって提唱された基準。単一のテストではなく、複数の神経心理テストを組み合わせて確率的に判定するようにした。

以下のいずれか1つの条件を満たす場合に
MCIと分類する
条件A(同一領域内での重複低下)
 評価した認知領域(記憶・遂行・言語の3領域等)のうち、1つの領域内にある2つ以上の神経心理テストで、それぞれ 1.0 SD 以上の低下を示す。
条件B(複数領域での低下)
 評価した3つの認知領域すべてにおいて、それぞれの領域で少なくとも1つのテストで 1.0 SD 以上の低下を示す。
条件C(日常機能障害の証明)
  客観的評価スケール(FAQ: Functional Activities Questionnaire等)において、2つ以上の日常作業(複雑な金銭管理や買い物など)で軽度の障害(スコア1以上)が認められる。
 
Jak/Bondi基準が重視される理由 ADNIなどの大規模研究データの再解析において、従来のPetersen基準でMCIと診断された人の約3分の1が、実際には健常者であった(偽陽性)ことが明らかになった。Jak/Bondi基準を用いることで偽陽性を激減させ、将来認知症へ進行する真のMCITrue Positive)を高い精度で特定できるため、近年の研究や臨床治験の現場で強く支持されている。
 
NIA-AA 基準(2011年:バイオマーカー基準){ISBN: 978-0890425558}
1.     臨床的判定(核心基準)
  • 変化の認知本人、情報提供者、または熟練した臨床医による「以前のレベルからの変化」の指摘。
  • 客観的認知障害: 1つ以上の認知領域で機能低下が証明される(形式的な神経心理テストでは、通常1.01.5 SD の低下[第~第16パーセンタイル]を目安とする)。
  • 機能的自立性の維持日常生活の独立性は保たれている(補助が必要な場合もあるが基本自立は維持)。
  • 認知症の非該当:認知症ではない。
2. バイオマーカーによる確信度の分類(臨床基準を満たした上での二次評価):
  • 病理アミロイドPET陽性、または髄液(CSF)中のAβ42低下。
  • 神経脱落病理: FDG-PETでの代謝低下、MRIでの海馬・内側側頭葉萎縮、または髄液中t-tau/p-tauの上昇。
  • 病理マーカーの有無により「アルツハイマー病によるMCIの確信度(High / Intermediate / Unlikely)」を決定。
 
DSM-5 基準(2013年)(ISBN: 978-0890425558)
1. 認知機能低下の確証以下の両方により裏付けられること。
本人、知情者、または臨床医による「以前のレベルからの軽度な低下」に対する懸念。
標準化された神経心理学的検査(または他の目的的評価)において「標準値から 1.0 2.0 SD の範囲内(およそ第3~第16パーセンタイル)」の客観的なパフォーマンス低下。
2.     毎日の活動における独立性独立した日常活動(請求書の支払い、服薬管理など)に支障は生じない。ただし、それらを行うためにより大きな努力、代償戦略、または工夫を要する。
せん妄や他の精神疾患による説明の不成立せん妄の経過中にのみ起こるものではなく、統合失調症や大うつ病性障害など他の精神疾患で説明できないこと。

MCIを早期に発見するための認知機能検査

1. 全般性スクリーニング

·       ACE-III (Addenbrooke’s Cognitive Examination III)
o   特徴: MCI検出においてMMSEよりも明らかに高い精度を持ちます。
o   参考文献: Beishon LC, et al. (2019). Addenbrooke's Cognitive Examination III (ACE-III) and mini-ACE for the detection of dementia and mild cognitive impairment 15817019
·       MoCA (Montreal Cognitive Assessment)
o   特徴: MCI検出においてMMSEよりも明らかに高い精度を持ちます。
o   参考文献: Nasreddine ZS, et al. (2005). The Montreal Cognitive Assessment, MoCA: a brief screening tool for mild cognitive impairment. Journal of the American Geriatrics Society. 15817019
·       MMSE (Mini-Mental State Examination)
o   特徴: 天井効果(MCIでも満点近くを取れてしまう)のため、単独でのMCI検出精度は低い。
o   参考文献: Arevalo-Rodriguez I, et al. (2015). Mini-Mental State Examination (MMSE) for the detection of Alzheimer's disease and other dementias in people with mild cognitive impairment (MCI). Cochrane Database of Systematic Reviews. 25740785

2. エピソード記憶ドメイン (Episodic Memory) 

·       FCSRT (Free and Cued Selective Reminding Test)
o   特徴: 「手掛かり再生」を用いることで、単なる想起障害(加齢)と符号化障害(アルツハイマー病性MCI)を識別するため、非常に高いAUCを誇ります。
o   参考文献: Grober E, et al. (2008). Free and cued selective reminding identifies very mild dementia in primary care. Alzheimer Disease & Associated Disorders. 20683186, 41668840
·       Logical Memory II (WMS-R / WMS-IV: 論理的記憶 遅延再生)
o   特徴: Petersen基準やADNI研究における健忘型MCIとして標準的に使用された。
o   参考文献: Petersen RC, et al. (1999). Mild cognitive impairment: clinical characterization and outcome. Archives of Neurology. 10190820

·       MBT (Memory Binding Test)
o   特徴: 「手掛かり再生」を用いるところはFCSRTと同様であるが、同じカテゴリーの単語を与えることで記憶に干渉し、前頭葉の機能も評価するため、FCSRTよりも天井効果が少ないとされる。
o   参考文献: Buschke H, et al. (2017). Memory Binding Test Distinguishes Amnestic Mild Cognitive Impairment and Dementia from Cognitively Normal Elderly. 27680087

3. 遂行(実行)機能 & 注意・処理速度ドメイン 

·       TMT-B (Trail Making Test Part B)
o   参考文献: Llinàs-Reglà J, et al. (2017). Trail Making Test: normative data and clinical utility in mild cognitive impairment and dementia. Neurología. 18178372

4. 視空間・構成認知ドメイン
·       Clock Drawing Test (CDT: 時計描画テスト)
o   参考文献: Pinto E, & Peters R. (2009). Literature review of the Clock Drawing Test as a tool for cognitive screening. Dementia and Geriatric Cognitive Disorders. 19225234

まとめ(解釈における重要点)
·       単一の心理テストで健常者とMCIを分けることには限界がある。
·      バッテリー(Jak/Bondi基準等)化による精度向上: これら各ドメインの単独検査を複数組み合わせ(複合スコア化)、かつ標準偏差(SD)を用いたActuarial基準(Jak/Bondi基準など)を適用すると、判別精度(AUC)は 0.90 前後まで向上する。
 

 MCIを対象にした新しい認知機能検査

1. Four Mountains Test (4MT)
概要: 内側側頭葉(海馬)の視点非依存的空間記憶(Allocentric Spatial Memory)を直接評価する描画・空間テスト。
PMID: 
27990134  (Wood RA et al., 2016, 4MTがどのような検査がわかりやすく説明されている)
 
2. VR Navigation Tasks(仮想現実ナビゲーション課題)
概要: VR空間内での経路統合(Path Integration)や目的地探索能力を可視化する検査。内嗅皮質(Entorhinal Cortex)や海馬の初期アミロイド/タウ病理に極めて敏感。
PMID:
31121601(Howett D et al., 2019 / 内嗅皮質依存のVRナビゲーションによるアミロイド陽性MCIの識別)
 
3. Laser Assessment of Silently Studied Items (LASSI-L)
概要: 意図的に「前向性干渉(Proactive Interference)」と「再学習における障害」を負荷する言語性エピソード記憶テスト。通常の再認テストでは捉えきれないごく早期のアルツハイマー病理(アミロイド陽性MCI)を顕在化させる。
PMID: 
23768680(Crocco DA et al., 2014 / LASSI-LによるMCIの識別精度)
 
4. Digital Clock Drawing Test (dCDT)
概要: デジタルペン(Anoto Pen等)を用いて時計描画テスト(CDT)を行い、描画の過程(思考時間、ペンを止めている休止時間、ストローク速度、修正行動)をミリ秒単位で解析する検査。
 デジタルペンによる微小運動解析・機械学習を組み合わせることでAUCが大幅に向上する。
PMID: 
27057085(Souillard-Mandar W et al., 2016 / デジタル時計描画テストと機械学習による認知障害判別)
 
5. Altoida(アルトイダ)
概要: スマートフォンやタブレットのカメラ・加速度センサーを用い、AR(拡張現実)空間で「デジタルオブジェクトを隠して探す」などの日常様タスク(AR-NPT)を行い、微細な動作・目線・音声を解析するデジタルプラットフォーム。
PMID: 
32832589(Buegler M et al., 2020 / AR空間でのDigital BiomarkerによるMCI・アミロイド病理予測)
 
6. AI Speech Analytics(AI音声解析・音声バイオマーカー)
概要: 数分間の自然発話(自由会話や絵の説明タスクなど)から、音声特徴量(発話速度、休止頻度・長さ、基本周波数の揺らぎ)および言語特徴量(語彙の多様性、代名詞の多用、文法構造の単純化)をAI(自然言語処理・機械学習)で解析するツール。
PMID: 
37361261 (Robin J et al., 2021 / 自動音声解析によるMCIと健常者の識別)
 
まとめ
海馬・内嗅皮質障害への直結: 1~3(4MT, VR, LASSI-L)は、アルツハイマー病の最初期に病理(タウ・アミロイド)が蓄積する領域の機能を直接タスク化している。

過程(Process)の数値化: 4~6(dCDT, Altoida, Voice AI)は、「正解したか失敗したか(結果スコア)」だけでなく、「どのように迷い、どれくらい手を止め、どう声を詰まらせたか(プロセスのミリ秒データ)」をAIで定量化するため、従来の紙筆検査よりも偽陰性・偽陽性を大幅に抑制できる。

MCIの分類
1. 記憶障害型軽度認知障害(aMCI)
エピソード記憶における顕著かつ客観的な障害によって定義される。これは、基礎にあるアルツハイマー病の病理(ADNC)と最も強く関連している。

  • 診断の要点: 記憶障害は必須である。
  • 亜型:
    • 単一領域型aMCI: エピソード記憶が唯一障害されている領域である。その他の認知領域(実行機能、言語、視空間能力、注意力)は正常範囲内である。
    • 多領域型aMCI: エピソード記憶が障害されているとともに、少なくとももう1つの認知領域においても障害が認められる。

2. 非記憶性軽度認知障害(naMCI)
少なくとも1つの非記憶性認知領域における客観的な障害によって定義され、エピソード記憶の機能は年齢相応の基準範囲内で保たれている。naMCIは、前頭側頭葉変性症(FTLD)、レビー小体型認知症(DLB)、または血管性認知障害など、アルツハイマー病以外の病因と関連することが多い。
  • 診断の要点: 記憶は保たれている。 障害は、以下の非記憶領域のうち1つ以上に該当しなければならない:
    • 実行機能(例:計画立案、抽象的推論、セットシフト)
    • 注意力/処理速度(例:視覚的スキャン、精神的な操作速度)
  • 言語(例:語の想起、対照命名、意味的生成)
  • 視空間能力(例:空間定位、視覚的構成)

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MCIの経過
MCIは、年齢から期待されるレベルを超えた認知機能低下を示しながらも、日常生活の自立性は保たれている状態像であり、その有病率は50代で5%~10%、60代で10%~15%、70代で15%~25%、80以上で25%~35%以上を占める。

MCIの臨床的予後については、認知症への進行(コンバージョン)、認知機能変化しない(安定)、正常な認知機能へと回復する(リバージョン)がある。89件の論文(合計 33,115名のMCI患者、平均追跡期間 5.2年)を解析した研究では、以下ののように報告されている{40078377}

認知症への移行リスク(Conversion Risk
MCIからあらゆる原因による認知症(All-cause dementia)への累計移行率は、調査環境によって明確な差が認められた。
    臨床ベース(66研究): 移行率は 41.5%(95% CI: 38.3%–44.7%)。年間移行率(ACR)は 10.9%。
    地域住民ベース(23研究): 移行率は 27.0%(95% CI: 22.0%–32.0%)。年間移行率(ACR)は 5.9%。
    移行先の認知症疾患の内訳: いずれの設定でもアルツハイマー病(AD)が最も頻度が高く(臨床で35.3%、地域で21.0%)、次いで血管性認知症(VaD)、レビー小体型認知症(DLB)、前頭側頭型認知症(FTD)の順であった。
    追跡期間と年間移行率(ACR)の変化: 追跡期間(3年、3.1–5年、5年以上)が長くなるにつれて、累計の移行リスク自体は大きく変わらないが、1年あたりの移行率(ACR)は低下していく傾向が観察されました(臨床設定では13.1% → 11.5% → 7.8%へ低下)。これは、MCIから次のステージに移行する場合は3年以内が多いことを反映している。
認知機能の安定確率(Cognitive Stability
    臨床ベース(34研究): 認知機能が変化せず維持された割合は 49.3%。
    地域住民ベース(15研究): 認知機能が維持された割合は 49.8%。
    観察環境に関わらず、MCI患者の約半数は数年間にわたり認知症へ進行せず「安定」した状態を保つことが判明した。
正常認知への回復確率(Reversion to Normal Cognition
    臨床ベース(14研究): 正常域へ回復した割合は 8.7%(95% CI: 5.9%–11.6%)。
    地域住民ベース(10研究): 正常域へ回復した割合は 28.2%(95% CI: 17.9%–38.5%)。
     一般住民を対象とした場合、約3割(のMCIが正常な認知状態へと可逆的に回復することが確認された(臨床専門外来の約3倍の頻度)。
健忘型MCIaMCI)のサブグループ解析
29研究のデータ解析により、aMCIにおける認知症移行率は 40.1%、安定率は 47.8%、正常回復率は 14.9%であった。

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MCIの症状を示すがアミロイドβが陰性の疾患(non-ADNC)

PART (SD-NFT)
自覚的健応の症例に多く見られる。脳アミロイドーシスが全くない場合(PART-definite、58%)に比べ、軽度であっても脳アミロイドーシスがある場合(PART-probable、80%)には認知機能低下の症状がよくみられた。
認知機能が低下しているPART-definiteの被験者は、無症状の被験者よりもBraakステージが高く、うつ病を併発している可能性が高い

AGD
Ambient gyrus、内嗅皮質、海馬、扁桃体を含む側頭葉内側部および辺縁系領域に好発するが、外側視床下部や隣接する側頭葉および側頭葉外皮質領域でもよくみられる
緩徐に進行する純粋な無気力症候群のことが多く、大脳辺縁優位性を反映する情動的および人格的変化を伴うこともある。
AGDはPDに合併していることも多く、幻覚、妄想、妄想症などの症候性精神病性特徴の早期発症と関連している。
FTDの臨床的表現型を示す場合、辺縁優位性に加えて、より広範な大脳皮質への分布が認められる。

LATE
海馬硬化症は従来、低酸素・虚血性傷害やコントロール不良のてんかんと関連してきたが、現在では海馬硬化症も加齢に伴う独特の変性疾患と関連している可能性や、TDP-43が関係している可能性が示唆されている。

Depression
DLBの初期やADの一部にも認められる。不定愁訴、睡眠障害の訴えが多い。純粋なうつ病性障害の場合、純粋な記憶障害はなく、むしろ、符号化または検索戦略を損なう注意障害が観察される。したがって、うつ病の症例では、同じ手がかりを用いた記憶の検索で改善される。、例えばFCSRTを用いることによって鑑別する。

発達障害
高齢者のADHD、妄想性障害などの存在を念頭に置く。若い頃からの行動を家族から聞くことによって、ある程度推測できる。

てんかん
焦点発作がほとんどで、痙攣は少ない。意識消失があるが、極めて短時間であり、本人も家族も気づかないことが多い。むしろ、発作後の朦朧状態や自動症による奇異な行動で気づかれることがある。脳波は確定的であるが、感度が高くないので注意が必要。高齢者の場合には、再発が多いので、特に運転している症例では注意する必要がある。発生源の多くは側頭葉内側であるため、脳はで棘波を認めることはあまりないので注意が必要。高齢者のてんかん波(棘波など)は、起きている時(覚醒時)には非常に捉えにくく(側頭葉深部)、軽睡眠期(N1〜N2)にのみ出現する傾向がある。1回の外来脳波でTIRDA, TIRTA(側頭部間欠性律動性 δ, θ 活動)が見つかる可能性は、およそ「1%未満〜数%程度」と極めて低いことに留意する必要がある。

VAD
小血管病の場合に鑑別が必要。抑うつ症状、前頭葉の機能低下が中心。歩行障害もありiNPHとの鑑別が必要。

DLBの初期やADの一部にも認められる。不定愁訴、睡眠障害の訴えが多い。純粋なうつ病性障害の場合、純粋な記憶障害はなく、むしろ、符号化または検索戦略を損なう注意障害が観察される。したがって、うつ病の症例では、同じ手がかりを用いた記憶の検索で改善される。、例えばFCSRTを用いることによって鑑別す
る。
高齢者のADHD、妄想性障害などの存在を念頭に置く。若い頃からの行動を家族から聞くことによって、ある程度推測できる。
脳波は確定的であるが、感度が高くないので注意が必要。高齢者の場合には、再発が多いので、特に運転している症例では注意する必要がある。
小血管病の場合に鑑別が必要。抑うつ症状、前頭葉の機能低下が中心。歩行障害もありiNPHとの鑑別が必要。

甲状腺機能低下症とMCI
甲状腺機能低下症とMCIに関しては議論がある。少なくともサブクリニカルの甲状腺機能低下症(TSH上昇、fT4正常)では、認知機能に影響を及ぼさないと言われている。一方、fT4も低下しているクリニカルの甲状腺機能低下症においても、MCIのような記憶や注意集中力の低下は起きないという報告がある
(JAMA Neurol. 2014 Feb;71(2):201–207){24378475}。この報告によると、MCIの有病率は、甲状腺機能が正常な1,450名で16%、臨床的甲状腺機能低下症の313名で17%、亜臨床的(subclinical)甲状腺機能低下症の141名で18%であった。共変量(年齢、教育レベル、性別、アポリポタンパク質E ε4、うつ病、糖尿病、高血圧、脳卒中、ボディマス指数、冠動脈疾患)を調整した後、臨床的または亜臨床的甲状腺機能低下症とMCIとの間に有意な関連は認められなかった。認知機能検査には、記憶領域の「ウェクスラー記憶尺度改訂版(WMS-R)」からの「論理記憶–II[遅延再生]」および「視覚再現–II[遅延再生]」、ならびに「聴覚言語学習検査」、実行機能の「ウェクスラー成人知能検査改訂版[WAIS-R]」からの「トレイル・メイキング・テストB」および「数字記号置換検査」、 言語領域については、ボストン命名検査およびカテゴリー流暢性検査;視空間能力については、ウェクスラー成人知能検査改訂版(WAIS-R)の絵の完成検査およびブロックデザイン検査が実施された(表)。ただ、視空間認知機能の低下が認められている。
従来、甲状腺機能低下症は物忘れ外来でのスクリーニングが標準とされていましたが、高齢者集団においては「甲状腺機能低下症があるからといって、それが直接MCIを引き起こしているわけではない」可能性示されています。


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MCIと診断された人の約半数は長期にわたり安定し、地域では約3割が回復するという事実は、医療リソースの配分において重要な意味がある。すべてのMCI患者を二次・三次の専門医療機関で一元管理することは、今後の認知症人口の増加や新薬(疾患修飾薬)の登場に伴い、医療システムの逼迫を招ことが想定される。したがって、かかりつけ医(プライマリ・ケア)レベルで安定したMCIや低リスク患者をフォローし、バイオマーカーや神経心理検査を用いて進行高リスク群を精緻にスクリーニングして専門医に繋ぐという「医療連携の分散化(Decentralization)」と持続可能な集団保健戦略の構築が強く求められる

かかりつけ医で早期の段階のMCIの見逃しを防ぐためには、何らかのスクリーニング検査が必要であることは明らかである。2026年7月に開催されたAAICで、認知機能について自覚症状のない高齢者はp-tau217の採血検査をするべきかどうかについて議論された。
血漿中のp-tau217は、認知機能障害が始まる10年前から上昇し始めると考えられている。この値の上昇は90%以上の確率で脳のアミロイドβの蓄積を示唆する。BD p-tau217値が低いグループでアミロイドPET検査が陽性だったのはわずか10%であったのに対し、中間または高値のグループでは70%が陽性であった。タウ病理についても同様であった。p-tau217値が低いグループでブラークステージIII以上だったのはわずか3%であったのに対し、中間グループでは33%、高値グループでは40%が該当した。 p-tau217値が高い人々の3分の2は、2年以内にアミロイド病理を示し、何らかの認知機能低下を呈することになる。
現時点では、どの段階(例えば、全く無症状)で治療介入するべきかの結論はでていないが、少なくとも高いリスクの患者を注意深く見守ることで早期(MCIのごく初期)の治療に結びつける必要があると思われる。

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図はCU(認知機能に低下なし)SCD(自覚的に認知機能の低下あり)MCIADにおける遺伝子検査、血液検査、画像検査、認知機能検査が表示されている。APOEPRS(polygenic risk score)は、遺伝子から被験者がアルツハイマー病になるリスクを調べるものである。APOE ε4対立遺伝子を1つ保有している個人や、多遺伝子リスクスコアが高い個人であっても、良好な生活習慣を維持することで、リスクの大幅な低減と記憶機能の低下速度の鈍化が見られる。
質量分析法(IP-MSなど)を用いた高精度の血液Aβ42/40検査は、脳内のアミロイド状態を予測する際、およそ84%から88%の精度を達成する。血液中のAβ42/40のみでは、アッセイのばらつきによる限界があるため、最新の臨床診断では、これを他の血液マーカーと組み合わせることが多い。例えば、p-tau217を組み込んだ血液検査や、アミロイド比とAPOE4の遺伝子型を組み合わせた検査では、血液検査の精度が90%以上に劇的に向上し、脊髄穿刺との差を大幅に縮めている。
中年期におけるCAIDEスコアが高いことは、タウ病理の重度化、白質高信号域の拡大、認知機能の低下と相関していることが示されている。
ごく初期のMCIを検出するためには、SCDの段階で積極的な検査が必要とおもわれる。SCD-QSCD plusMCIへのリスク評価に役立つ。また、PACCFCSRTなどの認知機能検査は、一般に行われている、MMSEMoCA試験よりもMCIの検出感度が高いと言われている。

ポリジェニックリスクスコア(PRS

ポリジェニックリスクスコア(
PRS)やアポリポタンパク質EAPOE)の遺伝子型判定などのゲノム予測モデルは、アルツハイマー病(AD)の発症リスクを推定し、認知機能に異常のない個人における微細な認知機能の低下や病理学的変化を予測する能力について、広く研究されている。
1. Independent Contributions of APOE and Polygenic Risk to Memory Decline

  • 論文タイトル: PRSおよびAPOE遺伝子型は、アルツハイマー病多遺伝子リスクスコアとは独立して、認知機能に異常のない高齢者の記憶力低下を予測する
  • PMID 36522743 (Tomassen et al., 2022)
  • 内容: この縦断研究では、EMIF-AD PreclinADコホートに属する認知機能に異常のない高齢者276名を対象とした。著者らは、83のゲノムワイド有意変異(別途評価されたAPOE領域を除く)からなるAD-PRSを算出し、[18F]フルテメタモール-PETを用いてベースライン時のアミロイド)状態を評価した。2年間の追跡期間中、記憶、注意力、実行機能、言語能力を含む認知領域を追跡した。その結果、APOE遺伝子型と高いAD-PRSの双方が、ベースライン時の異常な状態と有意に関連していることが明らかになった。これらを組み合わせてモデル化したところ、APOE遺伝子型とAD-PRSの双方が、記憶機能の経時的低下をより急激に独立して予測し、アミロイド病理の有無にかかわらず、非APOE遺伝的リスク変異体が、当初は認知機能に障害のない成人における早期の認知機能低下に寄与していることが示された。
  • 2. Non-不明 Genetic Risk and Early Neurodegeneration Biomarkers
  • 論文タイトル: アルツハイマー病に対する非APOE多遺伝子リスクスコアは、認知機能に異常のない70歳者の代表的なサンプルにおいて、脳脊髄液中のニューロフィラメント軽鎖と関連している
  • PMID 33512503 (Skoog et al., 2021)
  • 内容: 本研究は、ヨーテボリH70出生コホート研究から得られた、認知症がなく認知機能に異常のない70歳成人303名からなる集団ベースのサンプルに焦点を当て、非APOEアルツハイマー病ポリジェニックリスクスコア(AD-PRS)およびAPOE ε4保有状況が、脳脊髄液(CSF)バイオマーカー(Aβ42、総タウ、 リン酸化タウ、ニューログラニン、およびニューフィラメント軽鎖[NfL])に及ぼす影響を評価した(Skoog et al., 2021)。研究者らは、非APOE PRSと、CSF中のNfL(活動性神経変性のマーカー)およびAβ42 との間に強固な関連性を確認し、特にベースライン時の病理学的状態と相互作用していることが分かった。これらの知見は、主要なAPOE遺伝子座以外の累積的な遺伝的リスクが、認知機能が正常な個人においても、すでに無症候性の神経変性過程と関連していることを示唆している。
  • 3. Preclinical Biomarker Burden and Genetic Risk-Weighted Scoring
  • 論文タイトル: 前臨床アルツハイマー病における認知機能低下の進行率を予測するための、アルツハイマー病リスク加重多遺伝子リスクスコアの有用性:前向き縦断研究
  • PMID: 30412495 (Porter et al., 2018)
  • 内容: オーストラリア老化イメージング・バイオマーカー・ライフスタイル(AIBL)研究から得られた、認知機能が正常な高齢者570名のデータを活用した。この前向き研究では22変異からなるADリスク加重PRSを評価した(Porter et al., 2018)。研究者らは、PET画像による脳内アミロイドβ)負荷、脳脊髄液(CSF)バイオマーカープロファイル、および3つの認知複合指標における縦断的変化と、このスコアの相関関係を検証した。PRSは、認知機能正常な参加者において、脳内負荷、総タウ、p-タウと有意な正の相関を示し、重み付けされた遺伝的リスクモデルが、明らかな臨床症状が現れる前の早期前臨床病態メカニズムを捉えることができるという基礎的な証拠を提供した。
  • 参考文献
    Porter, T., Burnham, S. C., Milicic, L., Savage, G., Maruff, P., Lim, Y. Y., Li, Q.-X., Ames, D., Masters, C. L., Rainey-Smith, S., Rowe, C. C., Salvado, O., Groth, D., Verdile, G., Villemagne, V. L., & Laws, S. M. (2018).
    Skoog, I., Kern, S., Najar, J., Guerreiro, R., Bras, J., Waern, M., Zetterberg, H., Blennow, K., & Zettergren, A. (2021).
    Tomassen, J., den Braber, A., van der Lee, S. J., Reus, L. M., Konijnenberg, E., Carter, S. F., Yaqub, M., van Berckel, B. N. M., Collij, L. E., Boomsma, D. I., de Geus, E. J. C., Scheltens, P., Herholz, K., Tijms, B. M., & Visser, P. J. (2022).

    Voxel-based morphometry (MRI)
     
    MRIは認知機能に障害が疑わられる場合には、鑑別診断を含めて実施される検査であるが、撮像の際に3D画像(MPRAGE)をしておくと、VBMが可能となる。日本ではPMDAの認証をえているソフトとしてBAADがある。図はアミロイドβが陽性の認知症(ADNC)とMCI(due to AD)における脳萎縮パターンをアミロイドβが陰性の健常者(CU)と比較したものである。年齢と頭蓋内容積は共変量として補正し、表示はz scoreとなっている。これでわかることは、AD連続体では側頭葉外側の後半部、進行すると頭頂葉や後部帯状回、楔状回の萎縮が指標になることである。一方、MCIであってもアミロイドβが陰性の場合(おそらくPART)の場合は、側頭葉前1/3や前頭葉の萎縮が指標になることである。

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    CU, SCI, MCIにおけるAPOEごとのAβ陽性率 {25988462}
     

    APOE-ε4 キャリアのAβ(+)有病率は非キャリアの2~3倍である。日本人の80%はε4ノンキャリアのため、70歳のMCIの人がAβ陽性である頻度は30%前後となる。健常者の場合は、これが20%程度となる。


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