生活習慣病の代表的疾患である高血圧に対して、現在までに様々な種類の降圧薬が開発され臨床応用されているものの、日本を含む先進国では高血圧患者数は増加の一途である。このことは既存の治療薬で十分ではなく、さらに新たな機序の降圧薬が必要であるということを意味している。DPP III(Dipeptidyl peptidase III)は分子量約80kDaのタンパク質であり、3から10アミノ酸で構成されるポリペプチドのうち、特定の配列を持つポリペプチドのN末端2残基を分解するペプチド分解酵素である。これまでに、DPP IIIがアンジオテンシンII(アミノ酸8残基からなるポリペプチド)を分解できるとの報告はあったものの、その詳細については全く不明であった。
DPP IIIがアンジオテンシンIIを分解する酵素学的特性の詳細を明らかにした(ミカエリス定数Km = 3.7 × 10−6mol/L、最大反応速度Vmax = 3.3 × 10−9 mol/L/sec)。次に、アンジオテンシンII負荷により高血圧状態にしたマウスにDPP IIIを尾静脈から投与すると、有意に血圧が低下した。また、静脈投与したDPP IIIは、約1日で体内からほぼ消失した。DPP IIIによる降圧効果は、ノルアドレナリン負荷による高血圧マウスや、正常血圧マウスでは見られなかったことから、アンジオテンシンII特異的な作用であると考えられた。
アンジオテンシンII負荷の初期からDPP IIIを2日に1回ずつ長期間連続投与した場合、アンジオテンシンIIによる高血圧を抑制できた。高血圧が持続すると、心臓では心肥大や線維化、腎臓では尿中アルブミン排泄量が増加するなど様々な臓器障害が生じるが、DPP IIIを長期間連続投与するとこれらの臓器障害を抑制することができた。この様なDPP IIIの作用については、アンジオテンシン受容体拮抗薬カンデサルタンと同等以上であった。
このように本研究では、DPP IIIのアンジオテンシンII分解における酵素学的特性の詳細を明らかにすると共に、世界で初めてDPP IIIが高血圧動物モデルで降圧作用を発揮することを突き止めた。さらに、DPP IIIの長期投与で高血圧から臓器を保護できることを実証した。