滋賀医科大学は、第4期中期計画に「プログラミング、データサイエンス、AI等を含む情報科学系授業やSTEAM教育を積極的に導入して、生命科学の技術革新によって大きく発展した医学・医療・看護学領域の課題を幅広い視点から探求できる人材を養成する。」ことを掲げています。
これに関連し、2023年度から「数理・DS・AI時代の医療人育成教育プログラム」を立ち上げ、医学科においては2023年度入学生、看護学科においては2024年度入学生の教育課程から適応することとし、「数理・データサイエンス・AI」に関する教育を更に加速させます。
当該教育プログラムを通じて、確かな倫理観と高度な専門技術はもちろんのこと、「情報・科学技術を活かす能⼒」をもって、これからの時代を切り拓いていける医療人の育成を目指します。

1.背景

なぜ今「数理・データサイエンス・AI」を学ぶのか?

近年、インターネットの社会への広範囲な浸透、情報通信・計測技術の⾶躍的発展によって、従来とは質・量ともに全く異なるビッグデータが産み出されるようになった。
ビッグデータや人口知能(AI)技術の活⽤領域は予測、意思決定、異常検出、⾃動化、最適化など多岐に亘って急速に拡⼤しており、⾃動運転、画像認識、医療診断、防犯、コンピュータゲームなど、従来の社会システムの在り⽅を⼤きく変えつつある例は枚挙に暇がない。
さらに、ビッグデータやAI の利活⽤に関し、⽶国や中国の巨⼤企業等を中⼼とした競争が激化しており、国内外の経済成⻑の要因も従来の労働⼒・資本・技術⾰新から、データから価値を⽣み出す産業領域へと⼤きくシフトしている状況である。
⽇本政府においても、「AI 戦略2019」(令和元年6⽉統合イノベーション戦略推進会議決定)において、「我が国が、⼈⼝⽐ベースで、世界で最もAI 時代に対応した⼈材の育成を⾏い、世界から⼈材を呼び込む国となること。さらに、それを持続的に実現されるための仕組みが構築されること」を第⼀の戦略⽬標としたところである。
以上のように、世界中でデジタル化が不可逆的に進み、社会・産業の転換が⼤きく進んでいくVUCAの時代においては、「数理・データサイエンス・AI」は、今後のデジタル社会の基礎知識(いわゆる「読み・書き・そろばん」的な素養)として捉えられ、⼤学・⾼専の全ての学⽣が⾝に付けておくべき素養であるとみなされている。

(出典:数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアム,2021,「数理・データサイエンス・AI(応⽤基礎レベル)モデルカリキュラム 〜 AI×データ活⽤の実践〜」)

医学⽣・看護学⽣に「数理・データサイエンス・AI」の知識は必要か?

近年、ビッグデータの利活⽤、バイオインフォマティクス、画像診断、病理診断など、最新の医学・医療の分野においても、数学・統計学・データサイエンス・情報科学・AI・機械学習の理論や技術等が応⽤されている。医学部の学⽣が将来医療現場に出たとき、これらの理論・技術を正しく理解することで、活⽤の幅が拡がると共に、新しい医療技術を⽣み出すことが期待されている。
さらに、医学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)においては、今後ますます情報・科学技術の医療・医学への活⽤が進むことを考慮して、「医師として求められる基本的な資質・能⼒」の1つに「情報・科学技術を活かす能⼒」が新たに規定され、「発展し続ける情報化社会を理解し、⼈⼯知能等の情報・科学技術を活⽤しながら、医学研究・医療を実践する」ことが学修⽬標として⽰されたところである。

(出典:モデル・コア・カリキュラム改訂に関する連絡調整委員会,2022,「医学教育モデル・コア・カリキュラム(令和4年度改訂版)」)

2.教育プログラム概要

前述の背景を受け、本学医学部医学科及び看護学科においては、以下のとおり数理・データサイエンス・AI に関する知識及び技術について、「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル/応⽤基礎レベル)モデルカリキュラム」の学修項⽬に準拠した体系的な教育を⾏っている。

教育プログラム名称

 数理・DS・AI 時代の医療⼈育成教育プログラム(応⽤基礎)

学修⽬標

今後のデジタル社会において、データから意味を抽出し現場にフィードバックする能⼒や、AI を活⽤し課題解決につなげる基礎能⼒を修得するとともに、医学・看護学に数理・データサイエンス・AI を応⽤するための⼤局的な視点を獲得すること。

⾝につけることができる能⼒

  1. 適切なデータ分析・可視化⼿法を選択し、収集したデータを⼗分に観察するとともに、それらの分析結果を元に事象の背景や意味合いを理解する能⼒
  2. ビッグデータの集積・蓄積のための技術やIT セキュリティを理解したうえで、データベースから必要なデータを抽出し、データ分析のためのデータセットを作成する能⼒
  3. 機械学習、深層学習の基本的な概念を理解したうえで、⾃らの専⾨分野にAI を応⽤する際に求められるモラルや倫理について理解するとともに、AI 技術を活⽤した課題解決の可能性を思慮する能⼒

教育プログラムの修了要件

当該教育プログラムに含む授業科⽬をすべて履修・合格のうえ、在籍する学科の卒業要件を満たすこと(該当の授業科⽬はすべて必修科⽬のため、卒業時に全員が修了する⾒込み)。
修了時には、修了証書を交付するが、各授業科⽬の成績や統計検定の合否を詳述し、それらの成績を総合的に勘案して4段階の修了レベル(PLATINAM/GOLD/SILVER/BRONZE)を 認定することとしている(※修了レベルの換算⽅法については、学科別に別途定める)。

履修上の注意事項

  • 当該教育プログラムにおいては、履修者全員が「統計検定(データサイエンス発展)」を受験し、その受験費⽤については受験者負担とする。
  • 当該教育プログラムにおいて実施する授業科⽬においては、BYOD を導⼊することとし、統計分析ソフト等を個⼈所有のPC 端末にDL のうえで演習を⾏うことを想定している。
  • 医学科第2学年編⼊学⽣の「情報科学」「数理科学Ⅰ/Ⅱ」は、⼊学前の学修経験や⼊学試験における学⼒評価をもって単位を認定したものとして取扱う。ただし、当該教育プロ グラムにおいて期待する学修内容を⼗分理解していないと判断される場合は、⼤学から⽰す教材等により別途学修機会を提供することとする。

3.教育プログラム詳細

医学科

履修系統図(Curriculum Tree)履修系統図(医学科)
● Step1 DS・AI を理解するために必要な、情報科学の基礎と数学の素養(特に、解析・線形代数・確率/統計)を⾝につけます。
● Step2 DS・AI の基本的な理論とそのハンドリング技術について、個⼈のPC を⽤いた演習形式の授業によって⾝につけます。
また、第3学年前期には、統計検定(DS 発展)を受験し、⾃らの学修成果の客観的評価を受けることとなります。
● Step3 DS・AI が実際の医療現場にどのように活⽤されているのかを学びます。
特に、臨床実習においては、実習中に診療現場におけるDS・AI の活⽤事例を体感することや、それらの事例から医療分野へDS・AI の知識を応⽤・活⽤した課題解決の可能性について展望することでプログラムの総まとめとします。
学修項⽬と授業科⽬の対応

授業科目と数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムが策定する「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラム」及び「数理・データサイエンス・AI(応⽤基礎レベル)モデルカリキュラム」に示す学修項目と本学医学医部医学科で開講する授業科目とのマトリクス表を以下のとおり整備しています。

学修項目と授業科目の対応(医学科)

看護学科

履修系統図(Curriculum Tree)履修系統図(看護学科)
● Step1 DS・AI を理解するために必要な、情報科学の基礎と数学の素養(特に、微分積分⼊⾨・ベクトルや⾏列・確率/統計の基礎)を⾝につけます。
● Step2 DS・AI の基本的な理論とそのハンドリング技術について、個⼈のPC を⽤いた演習形式の授業によって⾝につけます(「DS・AI ⼊⾨」)。また、第2学年では、保健医療分野へのDS の応⽤事例をテーマに、DS・AI への理解を深めます。さらに、第3学年前期には、統計検定(DS 発展)を受験し、⾃らの学修成果の客観的評価を受けることとなります。
● Step3 DS・AI が実際の医療現場でどのように活⽤されているのかを体感することや、それらの事例から医療分野へDS・AI の知識を応⽤・活⽤した課題解決の可能性について展望することでプログラムの総まとめとします。
なお、保健師課程の履修学⽣は上記の内容に加え、公衆衛⽣の現場におけるDS・AI の 活⽤を体験し、現職の保健師からフィードバックを受けることで発展的な学修内容を計画しています。
学修項⽬と授業科⽬の対応

授業科目と数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムが策定する「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラム」及び「数理・データサイエンス・AI(応⽤基礎レベル)モデルカリキュラム」に示す学修項目と本学医学医部医学科で開講する授業科目とのマトリクス表を以下のとおり整備しています。

学修項目と授業科目の対応(看護学科)

4.実施体制等

当該教育プログラムに関しては、こちらの体制で教育プログラムの点検・評価・継続的改良を⾏っています。