がん幹細胞を標的化、駆除する分子を新規同定

—がんの新規創薬、治療法開発に応用—

論文タイトル

Prominent role of RAB39A-RXRB axis in cancer development and stemness

掲載誌

Oncotarget

doi: 10.18632/oncotarget.23955. eCollection 2018 Feb 9.

執筆者

Tokuhiro Chano, Hiroko Kita, Sofia Avnet, Silvia Lemma, Nicola Baldini

概要

がん細胞、とりわけ、再発・転移・治療抵抗性の原因とされる “がん幹細胞” を標的とし、駆除し得る分子 RAB39A、及び、その分子経路を、本研究で新規に同定しました。

がん幹細胞は、元の腫瘍組織、がん細胞を再生する能力を持ち、放射線、抗がん剤治療に抵抗性を示す根源と云われています。がん幹細胞が死滅するとがんは消失しますが、がん幹細胞がごく少数でも残存すると、放射線、抗がん剤治療にもかかわらず、再発、転移を来します。よって、がん幹細胞の死滅が がん根治の鍵となります。

がん幹細胞は、正常細胞ではほとんど使われていない RAB39A と云う分子を利用して、がん自身の幹細胞性を維持し、死滅を避けていることが、今回、明らかにされました。実験では、細胞培養実験、免疫不全マウスへの腫瘍移植実験に於いて、RAB39A 分子を阻害すると、がん幹細胞が死滅し、マウスへの腫瘍生着も困難になることが証明されました。研究では、RAB39Aとがん幹細胞性を繋ぐ分子としてRXRBも同定されています。 がん組織の中で、低酸素や酸性、等、腫瘍内の組織微小環境が RAB39Aの発現を誘導し、 “ RAB39A → RXRB → がん幹細胞 維持・生存 ” と云う経路を介し、がん幹細胞が生存することが明らかにされています。

がん幹細胞を標的化、駆除する分子を新規同定

本分子経路の中で RAB39A を特異的に阻害することは、がん幹細胞を死滅させ、がんを根治させることに繋がると考えられています。今後、RAB39A を阻害する化合物を同定する、もしくは、新規に作成することが、がん幹細胞を死滅させ、且つ、再発・転移の生じない、がん根治の、新しい がん治療、分子標的療法 に繋がります。

文責

臨床検査医学講座 茶野徳宏

心肥大を誘導する各種圧負荷に対する心筋アファディンの作用効果

論文タイトル

Differential effects of myocardial afadin on pressure overload-induced compensated cardiac hypertrophy.

掲載誌

Circulation Journal

Circ J. 2017;81(12):1862-1870. doi: 10.1253/circj.CJ-17-0394. PMID: 28659552

執筆者

Zankov DP, Sato A, Shimizu A, Ogita H.

概要

心筋の肥大は、高血圧や弁膜疾患などによって心臓に過剰な圧負荷がかかることで生じ、最終的には心不全に至ります。心不全の5年生存率は現在においても約50%と予後不良であるため、心不全にならないよう予防することが最も重要です。アファディンは生体内の様々な細胞で細胞同士が接着する部位に発現しているたんぱく質の一つで、心臓では心筋細胞同士が接着する「介在板」と呼ばれる構造部位に存在しています。

当研究室ではこれまでに、大動脈弓部を狭窄する処置により心臓に圧負荷がかかるマウス(大動脈縮窄モデルマウス)を作成し、アファディンの作用メカニズムを明らかにしました (Zankov DP, Sci. Rep,. 7:39335(2017))。本研究では、大動脈縮窄モデルとは別の負荷モデルを作成し、心筋に発現するアファディンの関与に違いがあることを明らかにしています。

具体的には、アンジオテンシンIIを持続投与することで大動脈縮窄モデルマウスと同等の圧負荷(正常血圧 + 40 mmHg)が心臓にかかる高血圧マウス(アンジオテンシンIIモデルマウス)を作成し、所見を比較しました。心筋細胞特異的アファディン欠損マウスに圧負荷を4週間かけた場合、大動脈縮窄モデルでは心肥大から心機能低下および肺うっ血が生じ、心不全となりました。一方、アンジオテンシンIIモデルでは心機能低下は生じませんでした。大動脈縮窄モデルマウスと比較して、アンジオテンシンIIモデルマウスでは心筋の線維化およびアポトーシスによる細胞死が有意に少なく、炎症・アポトーシスの促進に関わる増殖分化因子GDF15 の発現増加が抑制されていました。これらのことが心機能低下の阻止に働いていると考えられます。

 本研究成果を掲載した論文は、一般社団法人 日本循環器学会のCirculation Journal Award 2017 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/82/3/82_CJ-66-0149/_html/-char/ja) を受賞しました。

文責

生化学・分子生物学講座(分子病態生化学) 扇田 久和

社会的要因と高コレステロール血症の有病・治療との関連 NIPPON DATA2010より

論文タイトル

Associations between socioeconomic status and the prevalence and treatment of hypercholesterolemia in a general Japanese population: NIPPON DATA2010.

掲載誌

Journal of Atherosclerosis and Thrombosis

doi:10.5551/jat.42531

執筆者

Fujiyoshi N, Arima H, Satoh A, Ojima T, Nishi N, Okuda N, Kadota A, Ohkubo T, Hozawa A, Nakaya N, Fujiyoshi A, Okamura T, Ueshima H, Okayama A, Miura K, NIPPON DATA2010 Research Group

概要

長期追跡研究 “NIPPON DATA 2010*1” の分析から、男性において高コレステロール血症の有病に経済的要因が、治療状況に婚姻状態が影響していることが示唆されました。

本研究では、NIPPON DATA 2010のうち、必要なデータに欠損のない男性999人 (平均年齢59.1歳)、女性1,418人 (平均年齢57.2歳) の計2,417人を対象に分析を行い、血清総コレステロール240mg/dl以上若しくはコレステロール低下薬の服用者を有病者、有病者の中でコレステロール低下薬を服用していない者を未治療者と定義しました。社会的要因は、婚姻状態、就業の有無、学歴、世帯等価支出(世帯支出を世帯構成員の平方根で除した額)の4項目とし、男女別に比較しました。

有病者は、男性において21.5% (うち55.4%が未治療)、女性では31.0% (同 55.1%) でした。多重ロジスティック回帰分析の結果、男性の有病オッズ比は世帯等価支出『第2五分位以上 (支出額を順に並べ対象人数で5等分した際、低い方から20%を超える群)』を基準とした『第1五分位 (同 20%以下の群)』で1.66倍 (95%信頼区間: 1.16 – 2.38)、未治療オッズ比は『既婚群』を基準とした『独身群』で2.53倍 (95 %信頼区間: 1.05 – 6.08) と有意な差をみとめました。女性は、有病・治療ともに、社会的要因とも関連をみとめませんでした。

これらの知見は、今後の我が国における、健康格差が及ぼす高コレステロール血症への影響について保健指導や医療政策などの施策を検討する際に、考慮すべき要因となると考えられます。

*1 NIPPON DATA 2010: 無作為抽出された日本全国300 地区の一般住民に対して実施された平成22年国民健康・栄養調査の参加者のうち、20歳以上の男女2,898人対象とした長期追跡研究。NIPPON DATA研究は、厚生労働科学研究費補助金 (循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)(指定型)「社会的要因を含む生活習慣病リスク要因の解明を目指した国民代表集団の大規模コホート研究: NIPPON DATA80/90/2010 (研究代表者: 三浦克之)」として実施されている。

ウェブサイト:  https://hs-web.shiga-med.ac.jp/Nippondata/NIPPONDATA2010/

画像 Associations between socioeconomic status and the prevalence and treatment of hypercholesterolemia in a general Japanese population: NIPPON DATA2010.画像 Associations between socioeconomic status and the prevalence and treatment of hypercholesterolemia in a general Japanese population: NIPPON DATA2010.

文責

社会医学講座(公衆衛生学部門) 三浦 克之

神経難病である多系統萎縮症の細胞内封入体形成メカニズムを一部解明

―病態解明と治療法開発に向けた細胞モデルの樹立―

論文タイトル

Pathological Endogenous α-Synuclein Accumulation in Oligodendrocyte Precursor Cells Potentially Induces Inclusions in Multiple System Atrophy

掲載誌

Stem Cell Reports

DOI

https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2017.12.001

執筆者

Seiji Kaji, Takakuni Maki, Hisanori Kinoshita, Norihito Uemura, Takashi Ayaki, Yasuhiro Kawamoto, Takahiro Furuta, Makoto Urushitani, Masato Hasegawa, Yusuke Kinoshita, Yuichi Ono, Xiaobo Mao, Tran H. Quach, Kazuhiro Iwai, Valina L. Dawson,Ted M. Dawson, Ryosuke Takahashi,

概要

多形性萎縮症は、小脳や自律神経の異常から歩行障害や自律神経障害を発症する神経難病の一つです。診断からの予後が6-7年といわれており、現時点で有効な治療法はありません。発症原因は不明ですが、α-シヌクレインという機能不明のタンパク質がオリゴデンドロサイト細胞 (OLG)内に凝集体として蓄積していることが知られています。OLGは神経細胞の活動を助けたり保護する細胞で、オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) が分化して作られます。

この論文では、1) OPCの外部に異常なα-シヌクレインが存在すると、OPC内部のα-シヌクレインが異常な構造に変化し蓄積すること、2) 異常なα-シヌクレインが蓄積したままOLGに分化すると封入体と呼ばれる構造が形成され、多形性萎縮症患者のOLGと似た状態となること、を報告しています。

多形性萎縮症の細胞状態を実験的に再現することができたことから、病態の解明や治療薬の発見につながる研究を加速することが期待できます。

画像 Pathological Endogenous α-Synuclein Accumulation in Oligodendrocyte Precursor Cells Potentially Induces Inclusions in Multiple System Atrophy

文責

内科学講座(神経内科) 漆谷 真