モデル動物が群れをつくるメカニズムを解明

論文タイトル

C. elegans collectively forms dynamical networks

 

掲載誌


Nature Communications 10(1):683 (2019)

DOI: 10.1038/s41467-019-08537-y

執筆者

Takuma Sugi*, Hiroshi Ito*, Masaki Nishimura, Ken H. Nagai*

(*は責任著者)

 

概要 

 

 夕暮れどきに浮かぶ鳥の群れや水族館のイワシの群れなど、大量の動物による組織的な行動は多くの人を魅了します。混雑する駅やイベントなどの雑踏で人の群衆を効率的に流動させることは、重要な課題です。これまで、群れ形成について理論研究が盛んに行われ、それらに共通するメカニズムの存在が予言される一方、実験的証明はほとんどありませんでした。これは、動物の大規模な群れを実験室に再現することが難しいという、当然の理由によるものでした。 

 我々は、土壌に生息する線虫(C. elegans; 図1a)に着目しました。線虫の体長は1 mm弱であるため、仮に一度に大量飼育できれば、コンパクトな群れ形成の解析システムを作る事ができると考えました。さらに、変異体を作成し解析することができるため、理論的研究で提案されたメカニズムを実験的に検証できるモデル動物になり得ると考えました。

 本研究では、線虫を大量飼育する方法を確立し、集団によりネットワーク状に群れをつくることを発見しました(図1)。実験と数理シミュレーションを組み合わせた解析の結果、①隣接する線虫同士が相互作用し移動方向をそろえること、②線虫1個体が弧を描くように動くことが群れの形成条件であること、を明らかにしました。

 このメカニズムは、人や鳥、魚の群れ形成の理論的研究から提唱されてきたものと類似していることから、本研究は、群れ形成の根底に共通のメカニズムがあることを実験により強く示唆する初めての例となります。

 

モデル動物が群れをつくるメカニズムを解明

 

図1 線虫がたくさん集まるとネットワーク状に群れをつくることを発見

 

文責

杉 拓磨(神経難病研究センター)

 

 

ベラパミルはヒトKv1.5チャネルのポア領域に結合してチャネルをブロックする

論文タイトル

Identification of verapamil binding sites within human Kv1.5 channel using mutagenesis and docking simulation

 

掲載誌

Cellular Physiology and Biochemistry 52:302-314 (2019)

DOI: 10.33594/000000022

執筆者

Wei-Guang Ding, Ayami Tano, Xinya Mi, Akiko Kojima, Tomoyoshi Seto, Hiroshi Matsuura

Wei-Guang Ding and Ayami Tano contributed equally to this work.

 

概要 

 カルシウム拮抗薬であるベラパミルは、心房細動や発作性上室性頻拍など頻脈性不整脈の治療に用いられます。一方、Kv1.5チャネルはヒト心臓においては主に心房筋に発現し、その活動電位持続時間を規定します。本研究では、ベラパミルがヒトKv1.5(hKv1.5)チャネルのポア領域に存在する複数のアミノ酸に結合して、hKv1.5チャネルに直接の抑制作用をおよぼすことを、明らかにしました。

 はじめに、培養細胞に発現させたhKv1.5チャネルに対するベラパミルの効果を、パッチクランプ法により解析しました(図1)。ベラパミルは濃度依存性にhKv1.5チャネルを抑制し、その効果は臨床濃度(約0.1 µM)で出現しました。

 次に、hKv1.5チャネルに部位特異的点変異を導入して変異体を作成し、ベラパミルの抑制効果を調べました。その結果、図2に示す6種類の変異体ではhKv1.5 チャネルに対する抑制作用が減弱したため、ベラパミルはこれらのアミノ酸(Thr479、Thr480、Val505、Ile508、Val512、Val516)に作用して抑制作用を及ぼしていると考えられます。

 最後に、ベラパミルのhKv1.5チャネル結合状態をコンピュータ上で予測しました(図3)。その結果、ベラパミルは点変異導入法で予測されたアミノ酸との間で結合エネルギーが発生し、特にVal512とはπ-水素結合を形成することが予測されました。

 Kv1.5チャネルを抑制することは、心房内を異常な興奮が旋回するリエントリーを主な機転とする心房性不整脈に対する有効な治療法の一つとなりえます。本研究の成果は、ベラパミルがリエントリー性不整脈に対して抗不整脈作用を及ぼす可能性を示唆しています。

 なお、この研究は研究医コースの田埜郁実さん(医学科第6学年)が積極的に実験や論文作成に参加し(共第一著者)、その内容を平成29年度第3回SUMSグランドラウンド(平成29年7月24日)で発表しました。その時に学内の多くの先生方から研究の発展につながる貴重なコメントやアドバイス、激励をいただきましたことに深く感謝申し上げます。

ベラパミルはヒトKv1.5チャネルのポア領域に結合してチャネルをブロックする

図1 ベラパミルによるhKv1.5チャネルの抑制効果 (A)種々の濃度のベラパミルによる hKv1.5チャネルの抑制 (B)ベラパミルによるhKv1.5チャネルの濃度依存性抑制効果 

 

ベラパミルはヒトKv1.5チャネルのポア領域に結合してチャネルをブロックする

図2 ベラパミルによるhKv1.5チャネル変異体への抑制効果 (A)野生型および種々の変異体hKv1.5チャネルに対するベラパミルの濃度依存性抑制効果 (B)ベラパミルによる野生型および種々の変異体hKv1.5チャネルに対する抑制作用の半最大抑制濃度(IC50)
 

ベラパミルはヒトKv1.5チャネルのポア領域に結合してチャネルをブロックする

図3 コンピュータドッキングシミュレーション法によるベラパミルの結合状態の推測 (A)ベラパミルのhKv1.5チャネルの結合状態(B)パネルAの拡大図

 

文責

松浦 博 生理学講座(細胞機能生理学部門)

 

 

日本人患者における先天性QT延長症候群の遺伝的および臨床的側面と生命を脅かす不整脈との関連

論文タイトル

Association of Genetic and Clinical Aspects of Congenital Long QT Syndrome With Life-Threatening Arrhythmias in Japanese Patients

 

掲載誌

Aging JAMA Cardiol. 2019

DOI: 10.1001/jamacardio.2018.4925

執筆者

Wataru Shimizu, Hisaki Makimoto, Kenichiro Yamagata, Tsukasa Kamakura, Mitsuru Wada, Koji Miyamoto, Yuko Inoue-Yamada, Hideo Okamura, Kohei Ishibashi, Takashi Noda, Satoshi Nagase, Aya Miyazaki, Heima Sakaguchi, Isao Shiraishi, Takeru Makiyama, Seiko Ohno, Hideki Itoh, Hiroshi Watanabe, Kenshi Hayashi, Masakazu Yamagishi, Hiroshi Morita, Masao Yoshinaga, Yoshiyasu Aizawa, Kengo Kusano, Yoshihiro Miyamoto, Shiro Kamakura, Satoshi Yasuda, Hisao Ogawa, Toshihiro Tanaka, Naotaka Sumitomo, Nobuhisa Hagiwara, Keiichi Fukuda, Satoshi Ogawa, Yoshifusa Aizawa, Naomasa Makita, Tohru Ohe, Minoru Horie, Takeshi Aiba

 

概要

 

 先天性QT延長症候群は、心電図でQT時間の延長という特徴的な波形を示す疾患です。多くは運動中や強いストレスなどで心室性不整脈を発症し、突然死の原因となります。約3/4の患者で心筋イオンチャネルに関連する遺伝子に異常を認め、そのほとんどがLQT1型、LQT2型、LQT3型のいずれの遺伝子型です。

 本論文では、日本の先天性QT延長症候群の突然死や致死性不整脈イベント発生に、原因遺伝子の種類だけでなく、個々の患者の変異部位や年齢、性別が深く関係することを報告しています。

 今回の研究では、国立循環器病研究センターをはじめ日本国内の11施設において計1,124例の先天性QT延長症候群患者(LQT1型521例、LQT2型487例、LQT3型116例)を集積し、遺伝子型および年齢・性別により致死性不整脈の発症に差異がみられるか後向きに長期追跡調査を行いました。調査の結果、まず遺伝子型別では、総イベント発生率はLQT1、2型に比べLQT3型で少ないが、致死性イベント(心室細動・心停止・突然死)の発生率には遺伝子型による差は認めず、総イベントに対する致死性イベントの占める割合はむしろLQT3型で高いことが明らかとなりました。そのほか、年齢や性別による発症率の違い、遺伝子異常の部位による影響等を詳しく検討しました。

 

文責

堀江 稔(アジア疫学研究センター最先端疫学部門) 

食事に含まれるアミノ酸の役割――食事制限下におけるマウスの寿命・腎機能・筋力への影響

論文タイトル

Role of dietary amino acid balance in diet restriction‐mediated lifespan extension, renoprotection, and muscle weakness in aged mice

 

掲載誌

Aging Cell 2018;17:e12796

DOI: 10.1111/acel.12796

執筆者

Shohei Yoshida, Kosuke Yamahara, Shinji Kume, Daisuke Koya, Mako Yasuda-Yamahara, Naoko Takeda, Norihisa Osawa, Masami Chin-Kanasaki, Yusuke Adachi,  Kenji Nagao, Hiroshi Maegawa, and Shin-ichi Araki,

概要

 

 健康寿命をいかに延ばすかは、高齢化が進展する社会において重要な課題です。マウスでは、エサの制限により腎機能の低下が抑えられ、寿命が延長することが知られています。また、ハエではエサのアミノ酸が、寿命に影響を与えていることが知られています。食事制限は健康寿命を延長する方法として有力な候補とされていますが、ヒトでは食事量を制限すると筋力の低下を引き起こすことが知られるため、筋力を低下させずに食事制限の効果が最大限に得られる方法の解明が課題でした。

 本研究では「食事に含まれるアミノ酸の内容」に着目し、マウスに対しアミノ酸の配合を変えたエサを用いて、食事量を制限する実験を行いました。その結果、必須アミノ酸群*を多く含んだエサを与えた群では、エサの量を制限しても筋力は低下しませんでしたが、腎機能が悪化し寿命が短くなりました。一方、非必須アミノ酸群を多く含んだエサを与えた群では、エサを制限しても筋力が低下せず、腎機能が保持され寿命が延長しました(図1)。食事制限によって上昇する細胞内の硫化水素が、必須アミノ酸の一種であるメチオニンによって減少しており、メチオニンを多く摂取すると腎機能や寿命に悪い影響を与えていることがわかりました。(図2)。術前にNRDC血清濃度を評価することが、術後の生命予後予測、さらには術後化学療法など集約的治療法選択の指標となる可能性が示されました。

 この結果は、食事中のアミノ酸の組成が、マウスの寿命・腎機能・筋力に影響を与えていることを示唆するものです。今後、ヒトへの応用に向けさらなる検証が待たれます。

 *必須アミノ酸群: タンパク質を構成するアミノ酸のうち、体内では合成できない、あるいは、充分量が合成できないもの。ヒスチジン, イソロイシン, ロイシン, リジン, メチオニン, フェニルアラニン, スレオニン, トリプトファン, バリン

 

食事に含まれるアミノ酸の役割――食事制限下におけるマウスの寿命・腎機能・筋力への影響

(図1)必須アミノ酸を加えたエサで制限をすると、エサ制限によって得られる寿命延長効果や腎保護効果が打ち消された。必須アミノ酸や非必須アミノ酸を加えたエサで食事制限を行うと、エサ制限によって生じる筋力の低下が抑制された。


 

 

 

食事に含まれるアミノ酸の役割――食事制限下におけるマウスの寿命・腎機能・筋力への影響

(図2)メチオニン以外の必須アミノ酸を加えたエサを与えた群では、通常のエサを制限した群と同水準の寿命延長効果・腎保護効果が得られた。腎組織における硫化水素の濃度は、エサの制限によって上昇したが、必須アミノ酸群を加えたエサで低下し、メチオニン以外の必須アミノ酸を加えたエサを与えた群では上昇した。
これらの結果は、メチオニンには食事制限によって得られる効果を抑制する働きがあることを示唆する。

 

文責

山原康佑 内科学講座(糖尿病内分泌・腎臓内科)

     

     

    肝内胆管がん術後の新規予後予測マーカー ーナルディライジン

    論文タイトル

    Serum nardilysin, a surrogate marker for epithelial-mesenchymal transition, predicts prognosis of intrahepatic cholangiocarcinoma after surgical resection

     

    掲載誌

    Clinical Cancer Research December 10 2018

    doi: 10.1158/1078-0432.CCR-18-0124

    執筆者

    Tomoaki Yoh, Etsuro Hatano, Yosuke Kasai, Hiroaki Fuji, Kiyoto Nishi, Kan Toriguchi, Hideaki Sueoka, Mikiko Ohno, Satoru Seo, Keiko Iwaisako, Kojiro Taura, Rina Yamaguchi, Masato Kurokawa, Jiro Fujimoto, Takeshi Kimura, Shinji Uemoto, Eiichiro Nishi

    概要

     

    肝内胆管がん (ICC) は原発性肝がんの約10%を占め、肝細胞がん (HCC) に次いで2番目に多く、日本を含む東アジアで症例が多いことが知られています。HCCと異なりリンパ節転移を来しやすいこと、有効な化学療法が確立されていないことなどから、その生命予後は極めて不良です。

    今回我々は、外科的切除を行ったICC症例において、術前の血清ナルディライジン(NRDC)濃度が術後全生存率、無再発生存率と有意に逆相関することを、京都大学 肝胆膵・移植外科、兵庫医科大学 外科学(肝・胆・膵外科)との共同研究によって明らかにしました(図1)。また、ICC細胞株においてNRDC遺伝子の発現を抑制すると、細胞の増殖・遊走の抑制、抗がん薬感受性の増強が誘導され、上皮間葉転換 (Epithelial Mesenchymal Transition: EMT) 関連遺伝子の発現が抑制されることを示しました。さらに、切除標本病変部のNRDC mRNAレベルは血清NRDC濃度と相関し、さらにZEB1やSNAI1などEMT関連遺伝子と強く相関したことから(図2)、NRDC血清濃度がICC原発巣のEMT状態の代理マーカーになる可能性が示唆されました。

    術前にNRDC血清濃度を評価することが、術後の生命予後予測、さらには術後化学療法など集約的治療法選択の指標となる可能性が示されました。

    肝内胆管がん術後の新規予後予測マーカー ― ナルディライジン

    図1: 肝内胆管がん患者術後の生存曲線 (A: 全生存率, B: 無再発生存率)。術前の血清ナルディライジン(NRDC)値により低値群(n=39)、高値群(n=40)に層別化して比較した。

    肝内胆管がん術後の新規予後予測マーカー ― ナルディライジン

    図2: 肝内胆管がん切除標本病変部におけるNRDC mRNA発現レベルとEMT関連遺伝子(ZEB1, SNAI1)発現レベルとの相関

    文責

    薬理学講座 西 英一郎

     

     

    転移リンパ節の線維化は大腸癌における予後不良因子である

    論文タイトル

    Fibrosis in metastatic lymph nodes is clinically correlated to poor prognosis in colorectal cancer

    掲載誌

    Oncotarget

    doi10.18632/oncotarget.25636

    執筆者

    Daiji Ikuta, Toru Miyake, Tomoharu Shimizu, Hiromichi Sonoda, Ken-ichi Mukaisho, Aya Tokuda, Tomoyuki Ueki, Hiroyuki Sugihara and Masaji Tani

    概要

     線維化を含む癌の微小環境は、癌の成長および遠隔転移において中心的な役割を果たしています。癌周囲間質の線維化は発癌の危険因子として知られていますが、大腸癌における転移性リンパ節の間質の線維化が予後にどのように寄与するかについては明らかではありませんでした。本研究では、大腸切除術を施行された転移リンパ節を有する94人の大腸癌患者に対して、転移リンパ節におけるα平滑筋アクチン (α-SMA) やコラーゲンなどの線維化マーカーの発現を調査し、その臨床的意義について検討しました (図1)。

     転移リンパ節におけるα-SMAの発現やコラーゲンの産生による線維化の増強は、大腸癌患者における無再発生存率 (再発せずに生存する割合) および全生存率 (再発の有無とは関係なく生存する割合) の低下と関連していました (図2)。また、転移リンパ節の間質ではα-SMAとリンパ管内皮細胞マーカーとして知られているPodoplaninを共発現する細胞が存在し、転移リンパ節の線維化におけるfibroblastic reticular cellの存在が示唆されました (図3)。

    今回の検討では、原発腫瘍だけではなく転移リンパ節においても、間質線維化が予後因子として重要であることが明らかになりました。この研究により、転移リンパ節の線維化が術後治療選択のバイオマーカーとなる可能性が考えられます。また、転移リンパ節の線維化が癌悪性化に及ぼすメカニズムが解明されれば、新たな癌治療法の開発につながることが期待されます。

    転移リンパ節の線維化は大腸癌における予後不良因子である

    図1 転移リンパ節のα-SMA(上)とコラーゲン(下)の発現。

     

    転移リンパ節の線維化は大腸癌における予後不良因子である

    図2 転移リンパ節のα-S図2 転移リンパ節におけるα-SMA(上)とコラーゲン(下)の発現による生存曲線。これらの発現が高く線維化が強いと生存率が低下した。

    転移リンパ節の線維化は大腸癌における予後不良因子である

    図3 転移リンパ節のα-SMA(左上)およびPodoplanin(右上)の蛍光免疫染色。これらの共発現する細胞を認め(右下)、fibroblastic reticular cellであることが示唆された。

    文責

    外科学講座(消化器・乳腺・一般外科) 生田大二

       

      乱流が臨床レベルの大量の血小板作製を可能にする

      論文タイトル

      Turbulence activates platelet biogenesis to enable clinical scale ex vivo production

      掲載誌

      Cell

      doi:10.1016/j.cell.2018.06.011

      執筆者

      Yukitaka Ito, Sou Nakamura, Naoshi Sugimoto, Tomohiro Shigemori, Yoshikazu Kato, Mikiko Ohno, Shinya Sakuma, Keitaro Ito, Hiroki Kumon, Hidenori Hirose, Haruki Okamoto, Masayuki Nogawa, Mio Iwasaki, Shunsuke Kihara, Kosuke Fujio, Takuya Matsumoto, Natsumi Higashi, Kazuya Hashimoto, Akira Sawaguchi, Ken-ichi Harimoto, Masato Nakagawa, Takuya Yamamoto, Makoto Handa, Naohide Watanabe, Eiichiro Nishi, Fumihito Arai, Satoshi Nishimura, Koji Eto

      概要

       ヒトiPS細胞を使った生体外における血小板作製技術は、ドナーに依存する献血にとって代わる生産システムとして期待されています。しかし、iPS細胞由来の巨核球から作られる血小板の数は、これまでの生産方法では輸血に必要な量(1千億個以上)には届きませんでした。

       本研究において江藤浩之 教授(京都大学CiRA、千葉大学再生治療学研究センター長)の研究グループは、我々を含む産学の共同研究を通じて、骨髄や血管内において発生する物理的な乱流が血小板生成の鍵であることを突き止め、必要な乱流条件を設定可能な縦型培養装置を開発しました。この装置を用い、同定した物理パラメータを調整することによって、8Lスケール装置から大量に高品質の血小板(1千億個以上)を作製することに成功しました。

      さらに、乱流に伴い巨核球からIGFBP2、MIF、ナルディライジン(NRDC)という可溶性因子が放出され、血小板生成を促進していることが分かりました。我々が長年研究しているNRDCが血小板生成においても重要な役割を担うことが、本研究で初めて明らかになりました。また作製されたヒトiPS細胞由来の血小板を2種類の動物モデルに輸血すると、血小板は体内を循環し、止血などが正常に行われていることが確かめられました。

      本研究の成果である、スケール変更可能な縦型培養装置の開発と血小板産生量に関わる二つの物理パラメータの同定は、今後、より大規模な血小板生産のための新たな培養装置の開発に大いに役立ちます。さらに、今回の血小板生成メカニズムの一端の解明と生体外における血小板作製法の開発は、これからの血小板生成の研究、輸血医療、細胞治療や再生医療に影響をもたらすことが期待されます。

      乱流が臨床レベルの大量の血小板作製を可能にする

      図: 生体内(骨髄や血管内)では、乱流が発生している時に巨核球から血小板が生成される。そこで、容器内で乱流を発生させる培養装置を開発し、輸血に必要な1千億個以上の血小板を作製することに成功した。

      文責

      薬理学講座 西 英一郎

         

        慢性膵炎、膵がん発症を制御する新たなメカニズムの解明

        論文タイトル

        Nardilysin inhibits pancreatitis and suppresses pancreatic ductal adenocarcinoma initiation in mice

        掲載誌

        Gut

        doi:10.1136/gutjnl-2017-315425

        執筆者

        Kozo Ikuta, Akihisa Fukuda, Satoshi Ogawa, Kenji Masuo, Norihiro Goto, Yukiko Hiramatsu, Motoyuki Tsuda, Yoshito Kimura, Yoshihide Matsumoto, Yuto Kimura, Takahisa Maruno, Keitaro Kanda, Kiyoto Nishi, Kyoichi Takaori, Shinji Uemoto, Shigeo Takaishi, Tsutomu Chiba, Eiichiro Nishi, and Hiroshi Seno

        概要

         膵がんは代表的な難治がんのひとつで、その罹患数と死亡数は我が国でもますます増加しています。国立がん研究センターが今年発表したデータでも、膵がんの10年生存率は5%と部位別がんの中で最も低く、新たな膵がん治療法開発に対する社会的要請は大変大きくなっています。

         当研究グループは、ナルディライジン(NRDC)というタンパク質の発現を抑えることで、関節リウマチなどの炎症性疾患や、胃・大腸がんなどの発症進展が抑制されることを報告してきました。

         本報告で我々は、膵臓特異的にNRDCを欠損させたマウスが、前がん状態と考えられている腺房導管化生(Acinar-ductal metaplasia: ADM)と類似した表現型を呈し、さらに炎症細胞の浸潤、線維化を認めたことから、慢性膵炎様所見を呈していることを示しました(図A)。さらにがん遺伝子である変異型Krasを発現させて膵がん発症を誘導したところ、膵臓特異的NRDC欠損マウスにおいて膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)形成の明らかな増加を認めました(図B)。この結果は、これまで他のがんで示してきた結果とは逆に、NRDCを抑制することで膵炎、膵がんの発症進展が促進することを示しています。

        膵がん進展におけるNRDCの役割を今後さらに明らかにすることで、新たな膵がん治療法の開発につながることが期待されます。

        慢性膵炎、膵がん発症を制御する新たなメカニズムの解明

        図 (A) ナルディライジン(NRDC)欠損膵における腺房導管化生および線維化の進行(シリウスレッド染色), (B) NRDC欠損膵における膵上皮内腫瘍性病変(PanIN)形成の増加(HE染色)

        文責

        薬理学講座 西 英一郎

         

        Epithelial membrane protein 1は、copine-III、Rac1を介して細胞運動を亢進させ、がんの転移を促進する

        論文タイトル

        Epithelial membrane protein 1 promotes tumor metastasis by enhancing cell migration via copine-III and Rac1.

        掲載誌

        Oncogene. 2018

        doi:10.1038/s41388-018-0286-0

        執筆者

        Ahmat Amin MKB, Shimizu A, Zankov DP, Sato A, Kurita S, Ito M, Maeda T, Yoshida T, Sakaue T, Higashiyama S, Kawauchi A, Ogita H

        概要

         現在の日本において死因のトップはがんであり、約30% を占めます。さらに、がん死のうち80〜90%はがんの転移が原因です。したがって、がんの転移を阻止することができれば、がんによる死亡の大半は回避できると考えられます。

         本研究では、がんの転移の初期段階である「がん細胞が原発巣から逸脱・遊離して周囲の組織(間質)に浸潤する段階」に着目しました。がん細胞が間質細胞と接触する状態を模倣する実験系を構築し、DNAマイクロアレイを用いて全遺伝子の発現状況を網羅的に調べました。その結果、細胞表面に存在する細胞膜4回貫通型タンパク質Epithelial membrane protein 1(EMP1)の発現量が、がん細胞において3倍以上増加していました。そこで、EMP1を多く発現する前立腺がん細胞(EMP1高発現LNCaP細胞)を作製し、このがん細胞をマウスの前立腺に移植すると、リンパ節や肺への転移が生じました(図1)。一方、親株のLNCaP細胞を移植した場合は、他臓器への転移は見られませんでした。また、ヒト前立腺がん組織サンプルでの解析も行い、グリーソンスコアが高い前立腺がんでは、グリーソンスコアが低い前立腺がんと比較して、EMP1の発現が有意に増加していることを発見しました(図2)。

         次に、がんの転移に重要な細胞運動能について検討しました。その結果、EMP1高発現LNCaP細胞は、EMP1低発現LNCaP細胞と比較して、細胞運動が亢進しており、EMP1はがん細胞の運動能を顕著に上昇させていました。さらに、運動能の上昇に関わる細胞内シグナル伝達機構を検討するため、EMP1の細胞内部位に結合する分子を質量分析法により探索したところ、Copine-IIIという分子を同定できました。詳細な解析により、EMP1はCopine-IIIと結合することで、細胞内でチロシンキナーゼSrc、グアニンヌクレオチド交換因子Vav2、低分子量Gタンパク質Rac1を活性化させて、がん細胞の運動能を上昇させていることを解明しました(図3)。

        Epithelial membrane protein 1は、copine-III、Rac1を介して細胞運動を亢進させ、がんの転移を促進する

        図1 EMP1を高発現するLNCaP細胞を前立腺に移植した後に形成された腫瘍 (左: 矢頭) と、肺への転移巣 (右: 矢印)

        Epithelial membrane protein 1は、copine-III、Rac1を介して細胞運動を亢進させ、がんの転移を促進する

        図2 高グリーソンスコアの進行した前立腺がんでは、EMP1 (茶色: 矢頭部分) が多く発現

         

        Epithelial membrane protein 1は、copine-III、Rac1を介して細胞運動を亢進させ、がんの転移を促進する

        図3 EMP1によるがんの転移の促進機構

        文責

        生化学・分子生物学講座(分子病態生化学) 扇田 久和

        ミクログリア標的ペプチドを用いた核酸輸送技術による神経因性疼痛の新規遺伝子治療

        論文タイトル

        Gene Therapy for Neuropathic Pain through siRNA-IRF5 Gene Delivery with Homing Peptides to Microglia

        掲載誌

        Molecular Therapy: Nucleic Acids, 2018 Jun 1;11:203-215.

        doi:10.1016/j.omtn.2018.02.007

        執筆者

        Tomoya Terashima, Nobuhiro Ogawa, Yuki Nakae, Toshiyuki Sato, Miwako Katagi, Junko Okano, Hiroshi Maegawa, Hideto Kojima

        概要

         近年、核酸医薬や分子標的薬の開発が進んでいるが、体内での安定性や標的部位以外での副作用が問題となっている。それらを解決する方法として、当教室では、目的の臓器のみに薬物や遺伝子を輸送する技術開発として、ホーミングペプチド(組織特異的結合ペプチド)に着目して研究を行っている。このペプチドは、全身組織へ選択的に到達するためのシグナルのようなもので、ピンポイントな薬物輸送を実現させるツールとして注目されている。

         本報告では、炎症惹起型 (M1) と細胞保護型 (M2) の各脊髄内ミクログリア、および、アストロサイトに指向性がある特異的結合ペプチドを同定した。また、このペプチドを用いて、神経因性疼痛マウスへの疼痛緩和を目指した遺伝子治療を行った。神経因性疼痛マウスでは、脊髄後角にM1ミクログリアが多数集簇し、インターフェロン制御因子 (IRF) 5を発現することで、炎症及び痛みが惹起される。そのため、M1ミクログリアに指向性があるペプチドを用いて、IRF5遺伝子の発現を抑制するsiRNA-IRF5の遺伝子輸送実験を行ったところ、顕著な疼痛緩和作用を示した。

         今後、この方法による神経因性疼痛およびミクログリア関連疾患への新規分子治療、核酸医薬の新しいドラッグデリバリーシステムとしての応用が期待される。

        ミクログリア標的ペプチドを用いた核酸輸送技術による神経因性疼痛の新規遺伝子治療

        図1 ミクログリア標的ペプチドを用いた核酸輸送技術

        文責

        生化学・分子生物学講座(再生修復医学部門) 寺島智也

        二つのタンパク質分解経路への指向性を有する細胞内抗体を用いた、筋萎縮性側索硬化症(ALS) 関連蛋白質TDP-43凝集体の除去

        論文タイトル

        Elimination of TDP-43 inclusions linked to amyotrophic lateral sclerosis by a misfolding-specific intrabody with dual proteolytic signals

        掲載誌

        Scientific Reports 8:6030 (2018)

        doi:10.1038/s41598-018-24463-3

        執筆者

        Yoshitaka Tamaki, Akemi Shodai, Toshifumi Morimura, Ryota Hikiami, Sumio Minamiyama, Takashi Ayaki, Ikuo Tooyama, Yoshiaki Furukawa, Ryosuke Takahashi & Makoto Urushitani

        概要

         筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は、脳が意図する筋肉の運動を司る運動ニューロンが脳と脊髄で徐々に死滅することにより全身の筋力が低下し、筋萎縮が進行する神経難病です。呼吸に必要な神経も障害されるため、発症後3~5年で自ら呼吸することが困難になり、人工呼吸器による補助が必要となります。長らく原因が不明でしたが、遺伝しない孤発性ALSでは、本来細胞の核の中に存在するRNA結合タンパク質であるTAR DNA-binding protein 43 kDa (TDP-43) が核外の細胞質に異常な局在をした結果形成される凝集体がALSを引き起こすことが発見されました。

         私達は、凝集体を形成する「通常とは異なる構造となった異常なTDP-43」を特異的に認識するモノクローナル抗体3B12Aを2012年に開発しました。今回の論文では、3B12Aを使った遺伝子治療薬への応用に向けて、1) 3B12Aと抗原である異常なTDP-43との結合に関係する領域のみを取り出した一本鎖抗体の遺伝子 (3B12A scFv)、2) 異常なTDP-43と結合した3B12Aを細胞が持つタンパク質分解経路の一つであるオートファジーに導くためのシグナル配列 (CMA) を付加した自己分解型細胞内抗体3B12A scFv-CMAの遺伝子を作製し、その機能をヒトの培養細胞やマウスを用いた実験で検証しました。

         まず、ヒト腎臓細胞由来のHEK293A細胞にTDP-43 (野生型と3つの異常型 (細胞質型,核内凝集型, 細胞質凝集型)) と3B12A scFvの遺伝子を導入し、3B12A scFv抗体が異常型の TDP-43 のみを認識することを確認しました(図1)。

         つづいて、3B12A scFv-CMAが異常なTDP-43と結合した後、細胞内のタンパク質分解経路によって分解されることを確認しました(図2)。3B12A scFv-CMAはオートファジー分解シグナルに加え、重鎮(VH)内にプロテアソームに導くためのシグナル配列を有しており、この細胞内抗体に認識された異常なTDP-43はユビキチン―プロテアソーム系とオートファジー系の両者で分解されることも明らかになりました(図3)。

         今後、ALSモデルマウスやサルなど霊長類を用いた効果確認や安全性評価が進めば、難病であるALSの根治治療の道を開く可能性を示唆する研究成果です。

        図  二つのタンパク質分解経路への指向性を有する細胞内抗体を用いた、筋萎縮性側索硬化症(ALS) 関連蛋白質TDP-43凝集体の除去

        図1 TDP-43と3B12A scFv抗体を同時発現させたHEK293A細胞における細胞内局在 3B12A scFv抗体の存在箇所は異常TDP-43存在箇所と一致する (f, i, l) が、野生型TDP-43の存在箇所とは一致しない (c)。

        図2 二つのタンパク質分解経路への指向性を有する細胞内抗体を用いた、筋萎縮性側索硬化症(ALS) 関連蛋白質TDP-43凝集体の除去

        図2 TDP-43の細胞質凝集体毒性に対する3B12A scFv-CMAの効果 HEK293A細胞にGFPタグを付加したTDP-43と3B12A scFv-CMAあるいは対照ベクターを同時発現させた。3B12A scFv-CMAが発現していない条件ではTDP-43 (緑) の凝集体が多数認められ生存細胞 (青) が少ない。一方、scFv-CMAが発現している条件ではごく少数であり、生存細胞が多数認められる。

        図3 二つのタンパク質分解経路への指向性を有する細胞内抗体を用いた、筋萎縮性側索硬化症(ALS) 関連蛋白質TDP-43凝集体の除去

        図3 自己分解型細胞内抗体3B12A-scFv-CMAによる異常構造TDP-43の認識と分解の概要

        文責

        内科学講座(神経内科) 漆谷 真

        ナルディライジンは、HDAC1/p53依存性の転写調節を介して腸の腫瘍形成を制御する

        論文タイトル

        Nardilysin controls intestinal tumorigenesis through HDAC1/p53–dependent transcriptional regulation

        掲載誌

        JCI Insight, 3(8):e91316

        doi:10.1172/jci.insight.91316

        執筆者

        Keitaro Kanda, Jiro Sakamoto, Yoshihide Matsumoto, Kozo Ikuta, Norihiro Goto, Yusuke Morita, Mikiko Ohno, Kiyoto Nishi, Koji Eto, Yuto Kimura, Yuki Nakanishi, Kanako Ikegami, Takaaki Yoshikawa, Akihisa Fukuda, Kenji Kawada, Yoshiharu Sakai, Akihiro Ito, Minoru Yoshida, Takeshi Kimura, Tsutomu Chiba, *Eiichiro Nishi and *Hiroshi Seno(* Co-corresponding author)

        概要

         我が国において大腸がんは、女性では死亡率第1位、男性では第3位を占めており、その死亡者数はこの30年間で約3倍に増加しています。飲酒、喫煙、肥満、動物性の食肉などが危険因子として知られています。大腸がんの大半は、複数の遺伝子に変異が生じることで発症することがわかっており、家族性大腸腺腫症の原因遺伝子であるAPCや、ゲノムの守護神と呼ばれるp53などはその中でも代表的な原因遺伝子として知られています。

         当研究グループは、ナルディライジンというタンパク質が体温調節やインスリン分泌など様々な生命現象を制御しており、関節リウマチ、アルツハイマー病や胃がんなどの病態生理にも関わっていることを報告してきました。

         今回の研究では、APCに変異を有する大腸がんモデルマウスを用いて、腸管上皮のナルディライジンの産生を抑制すると大腸がん進展が抑制され、逆にナルディライジンの産生を促進すると大腸がん進展が促進されることを示しました。また、ナルディライジンの産生を抑制すると、脱アセチル化酵素 (HDAC1) によるp53の脱アセチル化が減少し、p53の機能が活性化されることも、本研究により初めて明らかになりました。本研究の成果を基盤とし、p53の新調節因子であるナルディライジンを標的にした新たながん治療法が開発されることが期待されます。

        図 ナルディライジンは、HDAC1/p53依存性の転写調節を介して腸の腫瘍形成を制御する

        図 (A) p53の機能とナルディライジンの関与, (B) 大腸がんモデルマウスの野生型およびナルディライジン欠損マウスの比較

        ・京都新聞(2018年4月20日 朝刊)、日刊工業新聞(2018年4月20日 朝刊)、日本経済新聞(2018年4月20日 朝刊)に掲載されました。

        ・NHKのニュースで報道されました(2018年4月20日)。

        文責

        薬理学講座 西 英一郎

        がん幹細胞を標的化、駆除する分子を新規同定

        —がんの新規創薬、治療法開発に応用—

        論文タイトル

        Prominent role of RAB39A-RXRB axis in cancer development and stemness

        掲載誌

        Oncotarget

        doi:10.18632/oncotarget.23955

        執筆者

        Tokuhiro Chano, Hiroko Kita, Sofia Avnet, Silvia Lemma, Nicola Baldini

        概要

        がん細胞、とりわけ、再発・転移・治療抵抗性の原因とされる “がん幹細胞” を標的とし、駆除し得る分子 RAB39A、及び、その分子経路を、本研究で新規に同定しました。

        がん幹細胞は、元の腫瘍組織、がん細胞を再生する能力を持ち、放射線、抗がん剤治療に抵抗性を示す根源と云われています。がん幹細胞が死滅するとがんは消失しますが、がん幹細胞がごく少数でも残存すると、放射線、抗がん剤治療にもかかわらず、再発、転移を来します。よって、がん幹細胞の死滅が がん根治の鍵となります。

        がん幹細胞は、正常細胞ではほとんど使われていない RAB39A と云う分子を利用して、がん自身の幹細胞性を維持し、死滅を避けていることが、今回、明らかにされました。実験では、細胞培養実験、免疫不全マウスへの腫瘍移植実験に於いて、RAB39A 分子を阻害すると、がん幹細胞が死滅し、マウスへの腫瘍生着も困難になることが証明されました。研究では、RAB39Aとがん幹細胞性を繋ぐ分子としてRXRBも同定されています。 がん組織の中で、低酸素や酸性、等、腫瘍内の組織微小環境が RAB39Aの発現を誘導し、 “ RAB39A → RXRB → がん幹細胞 維持・生存 ” と云う経路を介し、がん幹細胞が生存することが明らかにされています。

        がん幹細胞を標的化、駆除する分子を新規同定

        本分子経路の中で RAB39A を特異的に阻害することは、がん幹細胞を死滅させ、がんを根治させることに繋がると考えられています。今後、RAB39A を阻害する化合物を同定する、もしくは、新規に作成することが、がん幹細胞を死滅させ、且つ、再発・転移の生じない、がん根治の、新しい がん治療、分子標的療法 に繋がります。

        文責

        臨床検査医学講座 茶野徳宏

        心肥大を誘導する各種圧負荷に対する心筋アファディンの作用効果

        論文タイトル

        Differential effects of myocardial afadin on pressure overload-induced compensated cardiac hypertrophy.

        掲載誌

        Circulation Journal

        doi:10.1253/circj.CJ-17-0394

        執筆者

        Zankov DP, Sato A, Shimizu A, Ogita H.

        概要

        心筋の肥大は、高血圧や弁膜疾患などによって心臓に過剰な圧負荷がかかることで生じ、最終的には心不全に至ります。心不全の5年生存率は現在においても約50%と予後不良であるため、心不全にならないよう予防することが最も重要です。アファディンは生体内の様々な細胞で細胞同士が接着する部位に発現しているたんぱく質の一つで、心臓では心筋細胞同士が接着する「介在板」と呼ばれる構造部位に存在しています。

        当研究室ではこれまでに、大動脈弓部を狭窄する処置により心臓に圧負荷がかかるマウス(大動脈縮窄モデルマウス)を作成し、アファディンの作用メカニズムを明らかにしました (Zankov DP, Sci. Rep,. 7:39335(2017))。本研究では、大動脈縮窄モデルとは別の負荷モデルを作成し、心筋に発現するアファディンの関与に違いがあることを明らかにしています。

        具体的には、アンジオテンシンIIを持続投与することで大動脈縮窄モデルマウスと同等の圧負荷(正常血圧 + 40 mmHg)が心臓にかかる高血圧マウス(アンジオテンシンIIモデルマウス)を作成し、所見を比較しました。心筋細胞特異的アファディン欠損マウスに圧負荷を4週間かけた場合、大動脈縮窄モデルでは心肥大から心機能低下および肺うっ血が生じ、心不全となりました。一方、アンジオテンシンIIモデルでは心機能低下は生じませんでした。大動脈縮窄モデルマウスと比較して、アンジオテンシンIIモデルマウスでは心筋の線維化およびアポトーシスによる細胞死が有意に少なく、炎症・アポトーシスの促進に関わる増殖分化因子GDF15 の発現増加が抑制されていました。これらのことが心機能低下の阻止に働いていると考えられます。

         本研究成果を掲載した論文は、一般社団法人 日本循環器学会のCirculation Journal Award 2017 (https://www.jstage.jst.go.jp/article/circj/82/3/82_CJ-66-0149/_html/-char/ja) を受賞しました。

        文責

        生化学・分子生物学講座(分子病態生化学) 扇田 久和

        社会的要因と高コレステロール血症の有病・治療との関連 NIPPON DATA2010より

        論文タイトル

        Associations between socioeconomic status and the prevalence and treatment of hypercholesterolemia in a general Japanese population: NIPPON DATA2010.

        掲載誌

        Journal of Atherosclerosis and Thrombosis

        doi:10.5551/jat.42531

        執筆者

        Fujiyoshi N, Arima H, Satoh A, Ojima T, Nishi N, Okuda N, Kadota A, Ohkubo T, Hozawa A, Nakaya N, Fujiyoshi A, Okamura T, Ueshima H, Okayama A, Miura K, NIPPON DATA2010 Research Group

        概要

        長期追跡研究 “NIPPON DATA 2010*1” の分析から、男性において高コレステロール血症の有病に経済的要因が、治療状況に婚姻状態が影響していることが示唆されました。

        本研究では、NIPPON DATA 2010のうち、必要なデータに欠損のない男性999人 (平均年齢59.1歳)、女性1,418人 (平均年齢57.2歳) の計2,417人を対象に分析を行い、血清総コレステロール240mg/dl以上若しくはコレステロール低下薬の服用者を有病者、有病者の中でコレステロール低下薬を服用していない者を未治療者と定義しました。社会的要因は、婚姻状態、就業の有無、学歴、世帯等価支出(世帯支出を世帯構成員の平方根で除した額)の4項目とし、男女別に比較しました。

        有病者は、男性において21.5% (うち55.4%が未治療)、女性では31.0% (同 55.1%) でした。多重ロジスティック回帰分析の結果、男性の有病オッズ比は世帯等価支出『第2五分位以上 (支出額を順に並べ対象人数で5等分した際、低い方から20%を超える群)』を基準とした『第1五分位 (同 20%以下の群)』で1.66倍 (95%信頼区間: 1.16 – 2.38)、未治療オッズ比は『既婚群』を基準とした『独身群』で2.53倍 (95 %信頼区間: 1.05 – 6.08) と有意な差をみとめました。女性は、有病・治療ともに、社会的要因とも関連をみとめませんでした。

        これらの知見は、今後の我が国における、健康格差が及ぼす高コレステロール血症への影響について保健指導や医療政策などの施策を検討する際に、考慮すべき要因となると考えられます。

        *1 NIPPON DATA 2010: 無作為抽出された日本全国300 地区の一般住民に対して実施された平成22年国民健康・栄養調査の参加者のうち、20歳以上の男女2,898人対象とした長期追跡研究。NIPPON DATA研究は、厚生労働科学研究費補助金 (循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業)(指定型)「社会的要因を含む生活習慣病リスク要因の解明を目指した国民代表集団の大規模コホート研究: NIPPON DATA80/90/2010 (研究代表者: 三浦克之)」として実施されている。

        ウェブサイト:  https://hs-web.shiga-med.ac.jp/Nippondata/NIPPONDATA2010/

        画像 Associations between socioeconomic status and the prevalence and treatment of hypercholesterolemia in a general Japanese population: NIPPON DATA2010.画像 Associations between socioeconomic status and the prevalence and treatment of hypercholesterolemia in a general Japanese population: NIPPON DATA2010.

        文責

        社会医学講座(公衆衛生学部門) 三浦 克之

        神経難病である多系統萎縮症の細胞内封入体形成メカニズムを一部解明

        ―病態解明と治療法開発に向けた細胞モデルの樹立―

        論文タイトル

        Pathological Endogenous α-Synuclein Accumulation in Oligodendrocyte Precursor Cells Potentially Induces Inclusions in Multiple System Atrophy

        掲載誌

        Stem Cell Reports

        DOI

        doi:10.1016/j.stemcr.2017.12.001

        執筆者

        Seiji Kaji, Takakuni Maki, Hisanori Kinoshita, Norihito Uemura, Takashi Ayaki, Yasuhiro Kawamoto, Takahiro Furuta, Makoto Urushitani, Masato Hasegawa, Yusuke Kinoshita, Yuichi Ono, Xiaobo Mao, Tran H. Quach, Kazuhiro Iwai, Valina L. Dawson,Ted M. Dawson, Ryosuke Takahashi,

        概要

        多形性萎縮症は、小脳や自律神経の異常から歩行障害や自律神経障害を発症する神経難病の一つです。診断からの予後が6-7年といわれており、現時点で有効な治療法はありません。発症原因は不明ですが、α-シヌクレインという機能不明のタンパク質がオリゴデンドロサイト細胞 (OLG)内に凝集体として蓄積していることが知られています。OLGは神経細胞の活動を助けたり保護する細胞で、オリゴデンドロサイト前駆細胞 (OPC) が分化して作られます。

        この論文では、1) OPCの外部に異常なα-シヌクレインが存在すると、OPC内部のα-シヌクレインが異常な構造に変化し蓄積すること、2) 異常なα-シヌクレインが蓄積したままOLGに分化すると封入体と呼ばれる構造が形成され、多形性萎縮症患者のOLGと似た状態となること、を報告しています。

        多形性萎縮症の細胞状態を実験的に再現することができたことから、病態の解明や治療薬の発見につながる研究を加速することが期待できます。

        画像 Pathological Endogenous α-Synuclein Accumulation in Oligodendrocyte Precursor Cells Potentially Induces Inclusions in Multiple System Atrophy

        文責

        内科学講座(神経内科) 漆谷 真