平成29年3月10日
学長 塩田 浩平(しおた こうへい)

本日ここに、平成28年度第2回滋賀医科大学学位授与式を挙行できますことを心からうれしく思います。
このたび大学院博士課程を修了し博士の学位を取得された20名、論文審査に合格して博士学位を取得された3名、修士課程を修了し修士の学位を取得された9名の皆さん、おめでとうございます。滋賀医科大学を代表して、お祝い申し上げます。これまで支援してこられましたご家族ならびに関係の皆様にも心からお慶びを申し上げます。また、研究を指導してこられた指導教員や協力された同僚の先生方にも御礼申し上げます。
学位を取得された皆さんの中には5名の留学生の方もおられます。外国である日本で研究生活を全うされたご努力に敬意を表しますとともに、皆さんが滋賀医大で研究を担っていただいたことは本学の国際化の上でも大変意義あることであり、嬉しく思います。
これまでに滋賀医科大学から学位を授与された方は、本日の皆さんを加えて、博士が1210名、修士が220名となりました。皆さんはこれまでの数年間、自らのテーマをもって研究に打ち込み、立派な学位論文をまとめられました。この研究成果と研究者としての経験を基に、これからは研究者として、あるいは指導的な医師・看護師として、それぞれの立場で大きく飛躍し活躍されることを願っています。

20世紀後半以来の科学研究の進歩によって、自然界や生命活動の現象が次々に解明され、科学技術も大きく進展しました。医学生物学領域においても、重要な生命現象や病態が分子レベルで明らかにされ、また、基礎研究がもとになって画期的な治療薬も開発されています。科学の進歩は多くの研究者の努力が結集して達成されるものであり、皆さんの研究もこうした科学の発展の一翼を担ったものですから、それぞれの研究成果を十分誇りにしていただきたいと思います。
皆さんは、このあと研究者としての生活を続けられる方もありますが、医療や看護の現場で活躍される方も多いと思います。研究は決して研究室のベンチでのみ行われるものではありません。フィールドワーク、疫学研究もありますし、患者の病態の観察から新しい疾患単位が見つかることも少なくありません。特にわが国では、これから質の高い臨床研究が行われることが切望されています。皆さんがこれからどのような医療・看護の仕事に就くにしても、大学院時代に身につけた思考方法、研究的態度を失うことなく、それぞれの立場で課題の解決に挑戦し、医学•看護学の進歩に貢献してください。

かつて北海道大学で物理学の教授を務めておられた中谷宇吉郎博士(1900-62)が1958年に著され、今日までロングセラーとなっている「科学の方法」という名著があります。その中で中谷博士は「科学は万能のように考えられているが、科学が力強いのはある限界の中での話であって、その限界の外では案外に無力なものである」と述べています。その「限界」について、中谷博士は「科学が対象とするのは測定可能なもの、再現可能な問題であって、必ずしもすべての問題が科学で解決できるとは限らない」と書いておられます。そして、そうした複雑な問題の例として人体の生理や病気についての問題を挙げています。
しかし、科学者達は絶えずこうした限界に挑戦し、20世紀後半以来、数々の新しい発見を成し遂げ、また、解決不可能と考えられていた難題を解決してきました。それを支えてきたのは研究者達の知的好奇心であり、困難な課題に挑戦しようとするチャレンジ精神であります。皆さんもこれまでに研究することの難しさと同時に楽しさを、そして新しいことを見つけた時の知的興奮を体験してきたと思いますが、皆さんがこれまで取り組んできた研究のテーマは、恐らく教授などに与えられたものが多かったのではないかと思います。学位を取得したこれからは、独立した一人の研究者、臨床家として歩んでいくことになります。ぜひ、自由な発想によって自分が面白いと思う課題、医学・看護学で重要と思われる研究、あるいは人が取り組まない難しいテーマを見つけ、信念を持って果敢に新しい道を切り拓いていっていただきたいと思います。

我が国では急速な少子高齢化が進み、医療や看護のニーズも大きく変化しつつあります。今後は、医療・看護の現場でも人工知能(AI)やロボット技術が重要な役割を果たすようになってくると予想されます。こうしたパラダイムシフトの時代には、我々も大きな発想の転換が求められます。その意味で大変な時代が待ち受けているともいえますが、見方を変えれば、皆さん自身が未来を開拓し、新しい医学・看護学の世界でパイオニアになることができる大変チャレンジングな時代が到来するということでもあります。
皆さんがこれからも健康で、新しい時代の医学・看護学のリーダーとして大いに活躍されることを祈念して私のお祝いの言葉といたします。

本日は誠におめでとうございます。