平成30年3月9日
学長 塩田 浩平(しおた こうへい)

厳しかった冬が終わり、春を待ちかねたように木々の花が咲き始めています。本日ここに、ご来賓各位並びに本学教職員のご臨席を賜り、平成29年度滋賀医科大学卒業式を挙行できますことは、本学にとって大きな喜びであります。

医学科を卒業される108名、看護学科を卒業される56名の皆さん、ご卒業おめでとうございます。また、これまで学生の皆さんを支え励ましてこられたご家族の皆様にも、心からお慶びを申し上げます。

卒業生の方々は、6年間または4年間の学生生活を終え、ここに学士を得て卒業されるわけですが、皆さんは今、これから医療や看護の現場で始まる新しい生活への期待と緊張感を感じておられることと思います。これから医療、看護、保健など、臨床の第一線で、病む人を助け病気を治療するために、あるいは人々の健康を維持増進するために、これまでの学業の成果を活かして存分に活躍してください。

滋賀医科大学は創立から今年で44年目となり、6年後に50周年を迎えます。本学はこれまでに5千人を超える卒業生を輩出し、卒業生は滋賀県をはじめ全国の医療機関、大学、行政機関などで活躍し、海外で活動している方もあります。卒業生のうち約三分の一が滋賀県内で医療に従事し、地域医療を中心となって支えています。昨年末に発表された全国都道府県別の平均寿命の統計で、男性は滋賀県がトップ、女性は全国で第4位となりました。滋賀県の恵まれた自然環境や住民自身の努力があるのは勿論ですが、地域で献身的に活動する滋賀医科大学の卒業生、そして高度医療を担う県内唯一の医学部である滋賀医科大学の貢献も大きいと我々は誇りに思っています。

いま、社会も医療を取り巻く環境も大きく変化しています。少子高齢化が進行し、医療制度、社会保障制度も様々な課題を抱えています。医師・看護師の偏在もわが国の深刻な問題であります。

医師については、新専門医制度がいよいよこの4月からスタートします。これは、日本専門医機構が行う新しい制度で、専門医は「それぞれの診療領域における適切な教育を受け、患者から信頼される標準的な医療を提供できる医師」と規定されています。皆さんの多くが2年後に専門医の取得を目指して専門研修を受けられると思いますが、滋賀県においては滋賀医科大学が中心となって専門研修プログラムを実施することになります。充実した初期研修、専門研修を受け、実力を備えた信頼される医師になってください。

一方、看護や保健の分野においても改革が進み、看護師や保健師の活動の場が広がってきています。その一つが看護師の「特定行為」であります。これは、「実践的な理解力、思考力及び判断力と高度かつ専門的な知識及び技能」が必要とされる38の医療行為について、資格を持つ看護師が医師の指示を待たずに行うことができるものです。本学も「特定行為研修機関」として研修コースを開講しており、それを修了された方々が各地で住民のために働いています。

また、高齢者の増加と医療機関の機能分化の方向を受け、在宅看護が重要性を増しています。本学では平成27年度から看護学科に「訪問看護師コース」を設け、看護学科と附属病院看護部の協働による卒前卒後の一貫した教育プログラムを進めています。

このように、医師・看護師等の役割が今後ますます広く深くなっていきます。皆さんは、常に時代の要請に対応しつつ自己研鑽を続け、指導的な医療人としてそれぞれの立場で活躍していただきたいと思います。

医療も看護もどんどん高度化、細分化し、プロフェッショナルとして身につけるべき知識や情報が指数関数的に増えています。また、診断法が格段に進歩して病気の早期発見や微細な病変の診断が可能になり、画期的な新薬によってこれまで不治であった病気が治るようになっています。臨床医学が先端科学や膨大なデータに支えられており、必要な検査とそのデータの分析によって、臨床医は正しい診断に到達し、最適の治療法を見つけることができます。しかし、医師が臨床データに過度に依存するあまり、臨床の現場ではしばしば、患者が人間としてではなく情報の集合体と見なされているという批判があります。スタンフォード大学のAbraham Verghese教授は、そのように扱われる患者のことを “iPatient”と呼んで、医療の現状を皮肉っています。Verghese教授は一人の女性患者について述べています。彼女は乳がんが見つかり、テキサスのがんセンターへ紹介されました。しかし、しばらく経つと彼女は再び地方の小さい病院へ戻っていたのです。Verghese教授が不思議に思って尋ねると彼女はこう答えたそうです。「がんセンターはすばらしい施設でした。最新の画像診断や遺伝子診断を受けることができました。でも、入院中誰も私の胸に触れて診察しようとしてくれなかったのです。」Verghese教授は、医学が進歩した今の時代にあっても、医師と患者の間に信頼関係が成立するために必要なのは、医師が患者の話をじっくり聞くこと、そして医師が自らの手で患者の体に触れることだ、と述べています(”A doctor’s touch”, https://www.ted.com/talks/abraham_verghese_a_doctor_s_touch?language=ja より)。

皆さんは、医師や看護師として働くとき、常に「患者に寄り添う」ということを忘れないでください。これは簡単なようで難しく、忙しい業務の中ではかなりの自己犠牲を伴うものです。しかし、様々な悩みを持つ患者にとっては、医師や看護師の一言、ちょっとした思いやりのある行為が大きな救いになり、それによって医療スタッフに対する信頼感が生まれることになるのです。

皆さんは、今日、クラスメートと共に滋賀医科大学を卒業されますが、今後医療に関わる仕事をするときに、同級生は生涯にわたって重要なパートナーであり相談相手になります。この滋賀医科大学で共に学んだ仲間との絆を卒業後も大切にし、お互いに助け合い、また切磋琢磨していただきたいと思います。また、皆さんは滋賀医科大学同窓会「湖医会」の会員であります。ぜひ、母校滋賀医科大学および同窓会とのつながりを大切にしてください。

卒業生などを支援する活動の一つとして、本学が実施している「女性医師支援のためのスキルズアッププログラム」をご紹介したいと思います。全国的に女性医師の数が増えていますが、そのうち一部の方が出産や育児を機に臨床の現場を離れます。そのようにしていったん離職した女性医師が医療現場へ復帰するときに不安を覚える方が少なくありませんが、本学では、離職した女性医師が速やかに臨床現場へ復帰するのを支援するため、「女性医師支援のためのスキルズアッププログラム」を昨年から実施しています。本プログラムは、一旦離職した女性医師を本学附属病院の診療登録医として採用し、臨床の知識や技能の学び直しを行っていただくものです。このスキルズアッププログラムは全国から注目され、受講希望者が増えており、すでに臨床現場へ復帰した医師も出ています。皆さんも、将来キャリアパスで悩むようなことがあった時には、是非母校である本学に相談してください。滋賀医科大学と「湖医会」は、いつまでも卒業生の皆さんを応援いたします。

本日卒業される皆さん一人一人がこれから充実した人生を送り、それぞれの立場で社会に貢献されることを心から期待して、私のお祝いの言葉といたします。

本日は誠におめでとうございます。