令和元年10月1日
滋賀医科大学長 塩田 浩平(しおた こうへい)
本日ここに、令和元年度第1回滋賀医科大学学位授与式を挙行できますことを心からうれしく思います。
このたび大学院博士課程を修了し博士の学位を取得された11名、論文提出と所定の審査に合格して学位を取得された3名、修士課程を修了し修士の学位を取得された1名の皆様、おめでとうございます。これまで数年間、さまざまな苦難を乗り越え、研究成果を論文にまとめて学位取得に至られたご努力に敬意を表します。また、今日までこれらの方々を支援してこられましたご家族の皆様にも心からお慶びを申し上げます。さらに、研究を指導されてこられた指導教員や協力された同僚の先生方にも敬意を表します。
これまでに滋賀医科大学から学位を授与された方は、本日の皆さんを加えて、博士が1300名、修士が239名となりました。これまでに学位を取得された方々は、研究者として、あるいは指導的な医師・看護師として、全国で活躍しておられます。
研究を進めていると、しばしば予想外の困難に遭遇し、計画通りに研究が進まないということを経験します。また、研究が完了しても、それを論文にまとめ、できるだけよい雑誌に掲載しなければなりませんが、その過程で査読者や編集者の厳しい審査に通らなければなりません。皆さんはそうした試練を乗り越えて自らの研究を完成し今日を迎えられましたので、これまでの努力と研究成果を十分誇りにしてください。今後、皆さんが研究の場にあっても、医療・看護の臨床現場にあっても、大学院時代に研究を経験したこと、また身につけたリサーチマインドが大きな支えになります。皆さんが修得した正しい研究的態度と思考方法、研究者としての倫理観を忘れることなく、これからもたゆまず研鑽を続けて行かれることを期待しています。
いま、わが国の科学研究は大変な危機に直面しています。最近の分析によりますと、米国や中国の論文数が飛躍的に伸びているのに比べ、わが国の理系の論文数が2000年以降頭打ちになっています。特に、質の高い論文の数を見ると、日本は2000年の世界第4位から2016年には第16位と、大きく後退しました。これは、国の大学予算が継続的に削減されてきたこと、研究予算のうち研究者の競争によって配分される「競争的資金」の割合が増えて研究者が落ち着いて研究できる環境が失われ、時間のかかるインパクトの強い研究に挑戦しにくくなったことが関連しているとの指摘があります。しかし、こうした困難な時代にあってこそ、我々は物事の本質を追究するという科学研究の目的を再認識し、パズルの穴埋めでない、物事の本質に迫る研究テーマに勇気を持って挑戦するという精神が必要であると考えます。
皆さんも、これから進まれるそれぞれの立場において、難しい課題の解決に率先して取り組み、新しいイノベーションの旗手となって下さい。少子高齢化の進展、人工知能(AI)やIoTの急速な進歩によって、これからの大学も医療の現場も激動の時代に直面します。これは、大変なことのように思われますが、見方を変えれば、大変エキサイティングな新しい時代が皆さんを待ち構えているということでもあります。
皆さんが今後、指導的な医療人として、医学・看護学の発展と人々の健康と福祉の向上のために、それぞれの立場で存分に力を発揮して活躍されることを祈念いたしまして、お祝いの言葉といたします。
本日は、誠におめでとうございます。